旧戦国
3
お前さん好みの良い案だろう?、と慶次は愉しそうに言った。
……。
「…はぁっ!!?」
助けてくれる処か、敵対するとはどういうことだ。
「アンタ、馬鹿じゃないの!?」
あまりの話に名無しは暴言とも言える言葉を吐いた。
「なんで貴方と戦うことが貸しを返す事になるんですかっ!?」
名無しの混乱振りを見て慶次は再び声を上げて笑うと、松風を彼女の馬にぴたりと横付けした。
「…なっ…っ!?」
気付くと名無しは慶次に腰を抱かれていた。頬に金の髪が掛かる。突然の事に息をすることも忘れていた時、彼の低く誘うような声が耳元から響いてきた。
「アンタ…強いヤツとやりあいたいんだろう?だからいつも戦を求めて渡り歩いてる…俺は強い、俺なら名無しに最高の快感を味あわせてやれるぜ?」
背中にゾクッと電流が走る。顔が赤くなるのが自分でも分かった。
「はっ…離してっ!!」
名無しは慶次の腕から逃れると荒く息を吐く。
「…わっ、私が!私が戦うのはお金を稼ぐ為ですっ!」
真っ赤な顔で怒鳴る名無しに対して慶次は不敵に笑った。
「とにかく!もうついてこないでっ!」
そう捨て台詞を残して、耳まで赤く染まった顔のまま、名無しは馬を走らせ去っていった。
「そう急いだって行き先はだいたい分かってるんだがねぇ」
慶次は苦笑してそう呟く。
――言ったろう、貸しは返すってな。嫌なら取引だ。なぁにアンタは最高の快感を得るんだ、悪くないだろ?俺は名無し、お前さんを貰うさ。いい取引だろ、文句は聞かないぜ?覚悟しとけよ、名無し――
小さくなる後ろ姿を追い掛けて、慶次は愛馬を駆けさせた。
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