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旧戦国
2

探し人はやはりそこにいた。奥州にやってきた遅い春に抱かれるように、政宗は目を閉じて桜の根元に寝転がっていた。満開の古樹が零す花弁が、彼の身体にふわりと舞い落ちる。
少し離れた場所で見ていた名無しは、その光景に心を奪われた。寄り添うような二つの生命は、彼女が割って入ってはいけないような気分にさせられる。

…いいなぁ、桜は。

たとえ一時でも。彼を癒すその力は、私には手に入らないのだ。どんなに望んでも、それは叶うことのない夢のように。

その時一陣の風が吹き抜けた。

「…っ!」

名無しはとっさに瞳を閉じる。ふと、声がした。

…どうして?

…?

…貴女にはあるのに、その力が。気付いてないの?

はっ、と眼を開けた名無しは、花弁の渦に包まれていた。

…貴女の呼ぶ声は、いつも彼の心を満たすものなのに。なぜ眼を逸らすの?

名無しの手の中に、いつの間にか一片の花弁が乗っている。彼女はじっとそれを見つめた。

…人って難しいのね。見なければいけないものまで見えにくくして。でも貴女はもう解っているはず。小さな言葉を聞き逃さない貴女なら。

ふと見上げると、もう花弁の渦は消えていた。名無しは再び手の中の花弁に視線を落とす。そしてそっとその花弁に唇をよせると、柔らかな微笑を浮かべた。

彼はいつも、自分に語りかけていたのだ。彼の言葉で、そして態度で。自分の心に囚われて、彼の言葉の真意に気付かないでいた。

…不思議な桜だ…

眼を上げると桜は枝を風に揺らし笑っているようだった。

ありがとう、そう呟くと、名無しは政宗にそっと近づいた。その名を呼ぶために。口調とは裏腹な、彼の柔らかな笑顔を呼び出すために。

二人を見つめる桜は、優しく包むように花弁を舞わせていた。


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あきゅろす。
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