旧戦国
2
「愛の告白にしては少し切なすぎるぜ?名無し」
突然自分の名前を呼ばれ、名無しは背後を見た。
「…うそ…」
そこに立っていたのは、彼女が先程まで思い浮かべていた、雑賀孫市その人だった。彼は牢番から奪ったのであろう鍵で扉を開け、驚いている名無しの傍で膝をついた。
「…これは…夢だわ…」
目を見開きそう呟く名無しに、孫市は苦笑する。
「夢じゃないさ。なんなら証明しようか?」
そう言うと、彼は名無しの片頬に手を掛け、反対の頬に口付けた。そしてそのまま耳元に唇を寄せる。
「まだ目が覚めないなら、続けようか?」
そう囁くと孫市は名無しの耳を軽く甘噛みした。名無しは真っ赤になって思わず怒鳴りそうになるのをぐっと堪える。そんな彼女の様子を見て、孫市はクッ、と笑った。
「ど、どうしてここに若がいるんですか!?」
「そりゃ名無しを助けにきたからに決まってるだろ?」
孫市は当然のようにそう言うと、ため息を一つ吐き、名無しを睨んだ。
「お前、今何をしようとした?」
「べ、別に…」
名無しは孫市の問いただすような眼差しに、思わず視線を逸らす。
「死のうとしただろ?」
孫市は責めるかのように名無しに聞いた。彼の普段は見せないその表情に名無しは少し怯んだが、それでも言い返す。
「私は!雑賀の…雑賀衆の一員として育てられたんですよ?だから頭領である貴方に迷惑や、まして危険が降りかかるような事は絶対にできない!もしそんなことがあるなら、たとえ命と引き換えにしても阻止しなければいけないんです!なのに貴方は…たかが一兵卒の為にこんな危険を冒して…!若太夫が死んだら雑賀どうするんです!?もっと考えて行動して!!」
名無しはそう言うと、唇を噛み、下を向いた。
――本当は、嬉しいくせに。たとえ二人の間に温度差があったとしても、彼がきてくれただけで泣きたくなるくらいに弱いくせに――
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