旧戦国 4 先ほどの物音を聞きつけ、人がやってくる気配を感じた慶次は、楽しそうに笑いながら去っていった。入れ違いに手伝いの女性たちがやってくる。 「どうかされましたか、名無しさん?」 よほど大きな音だったのか、一人が心配そうに尋ねた。 「あ、いえ…大丈夫です」 名無しは心配ないと告げると、ずっと抱きしめたままだった箱を取り合えず床に置いた。 「慶次様…何をされていたのかしら?」 ふと、女性の一人が呟く。名無しはドキリとしながらも、平静を装って答えた。 「あの、梯子がなかったんで私の手伝いをしてくれていたんです」 「えっ、梯子、なかったんですか?」 「あ…はい」 すると、その女性は他の者と顔を見合わせた。 「どうか…しました?」 名無しは怪訝そうな二人の顔を見てそう言った。 「いえ…昨日、慶次様がここの梯子の前にいらしたので、お声をお掛けしたんですが…」 「なんでもないとおっしゃって、そのまま出て行かれたんですが…その時は、梯子はここにあったんです」 そういえばその時今日の話をしたわね、と二人は口々にそう答えた。 …どういうこと? 名無しは慶次の、去り際の顔を思い出した。あの、悪戯っ子のような瞳。あの、楽しくて仕方ないといった笑顔…まさか…。 「け〜い〜じ〜さ〜まぁ〜!!」 そう、名無しは慶次の悪戯に、見事に嵌められたのだ。きっと彼は今頃、悪戯がうまくいったことに大喜びしているに違いない。 …ま、いっか。楽しかったし、それに… 名無しは慶次の温もりを思い出し、頬を染める。周りの者たちは不思議そうに彼女を見ていたが、やがて何事もなかったかのように冬の準備に取り掛かるのであった。 その後名無しが、慶次の『悪戯』という名の触れ合いに悩まされるのは、また別のお話。 [*前へ] |