旧戦国
2
振り返ると、先ほど別れたはずの慶次が、ニヤニヤ笑っている。唖然とした名無しを見て、慶次はとても楽しそうだ。
「…さっき向こうに行くって言いませんでした?」
「そうだったかねぇ」
とぼけた顔でそう言う彼に、ついに名無しの堪忍袋の緒が切れた。
「言いました!だいたい貴方は織田方の武将でしょっ!なんで一介の傭兵なんかについてくるんですか!?」
たしかに名無しの言葉も一理ある。本来ならば指揮をする側の人間が、自分のような身分の者と共に旅すること自体がおかしいのだ。だが…相手は天下無双の傾奇者、そんな理屈は通らない。
「なんでかって?そりゃアンタには借りがあるからねぇ。俺は戦での借りは戦場で返す主義なんだよ」
「はぁ?貸しを作った覚えなんてありませんよ」
名無しは慶次を睨みそう言った。
「ほぉ…アンタ言ったよなぁ『俺の背中はガラ空きだ』って」
「…っ、あっ、あれは言葉の綾です!大体味方の武将が危ない時に助けるのは当たり前でしょう!」
慶次の言う『貸し』を思い出し、名無しは真っ赤になって反論する。
「お前さんがそう思わなくても俺がそう思ってるんだから仕方ないだろ?なぁに、返し方は名無し好みの方法でやるから心配するなって」
しかし慶次は彼女の反論など耳を貸さず、豪快に笑って話をまとめてしまった。結局また彼のペースに飲まれてしまった…名無しは怒るのも馬鹿らしくなり、溜息を吐く。
「…ところで、私好みって、どうやるんですか?」
「知りたいかい?」
「…えぇ、まぁ」
助けてやったのだから助けてくれるのだろうが、この男のこと、何をやってくれるのか、強引に決められたとはいえ少し期待した。
「まず、名無しがどの軍につくか確認するだろ」
そりゃそうだ、というより着いてくるなら自ずと分かる話だ。
「で、俺は敵方でお前さん達と戦うであろう部隊に潜り込む」
…さすが傾奇者、無謀だけど慶次殿なら大丈夫だろう。
「そうすれば名無し、アンタは俺と思う存分やりあえる、って手筈だ」
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