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旧戦国
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秋も深まり、町の家屋敷が冬の仕度を始めた頃。名無しの奉公先でも毎年恒例の冬仕度が始まっていた。

「…おかしいわ、普段ならここにある筈なのに…」

名無しは蔵で小物の出し入れを任されたのだが、踏み台や梯子の類が一切ないのだ。小柄な彼女にとって蔵での作業には欠かせない物だか、それらが一つもないのはいくらなんでもおかしい。もうすぐ手伝いの者が来てくれるだろうが、出来ればそれまでに降ろしたい物もある。

そんな時、ふと思い出した人がいた。金色の髪をした、派手な羽織を着た男。太陽のような笑顔で暖かい気持ちにさせてくれる人…。

「慶次様なら届きそうよね」

ここの主の年若い友人であり、天下の傾奇者で有名な彼の顔を思い浮かべ、ふっ、と笑みを漏らしたその時。

「俺がどうしたって?」

突然頭上から声が降って来た。

「…け、慶次様っ!?」

振り返るとそこには先程まで思い浮かべていた、前田慶次その人がいた。

「いつこちらへ?」

まさか本人がいるとは思いもよらず、幾分赤い顔で名無しが尋ねる。

「昨日の朝にな。そういや名無しはここの奥方のお供でいなかったんだな」

「はい、そうなんです。いらしていると知っていればご挨拶に伺ったんですが…」

この屋敷の主は名無しの叔父に当たり、彼女は幼少期から娘のように可愛がられていた。今も、奉公と言うよりは行儀見習いといった方が正しい。昨日も奥方に連れられ外に出て、そのまま実家に立ち寄っていたのだ。

「まぁ挨拶なんて会った時でいい。それより、俺になんか用かい?」

「あ、いえ、用という程ではなくて…」

名無しは経緯を説明し、困ったように微笑んだ。

「なら手伝おう」

「そんな、お客様にそんなことさせられません!」

「なぁに、こっちは暇でうろついてたんだ、手伝ってる方が愉しそうだしな」

名無しは棚の物を降ろそうとする慶次を慌てて止めたが、彼はそう言うといつもの笑顔をみせた。

「もう、慶次様ったら…」

言い出したら聞かない彼のこと、結局名無しは苦笑しつつも手伝ってもらうことにした。

「じゃあお願いします。あ、その箱じゃなくてあれです」


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