旧戦国
4
「…名無し…名無し!」
誰かが彼女を呼ぶ声がした。はっ、とした名無しは、声のした方を振り返る。そこにはあちこちに傷を負った、前田慶次が立っていた。
「前田様!」
名無しが駆け寄る。
「アンタがここにいるってことは…孫市は雑賀には帰ってないんだな?」
金の鬣を揺らしながら、慶次もゆっくり近づいてきた。
「…やはりここにきてたんですね?」
「お前さん、知らなかったのか?」
慶次は驚いて目を見開いた。
「何も言わずに出て行きましたから」
「名無しには言ってきていると思ってたんだがな」
名無しは少し微笑んだ。
「彼らしいでしょ?」
「まぁな」
二人は並んでゆっくりと歩き出した。
「前田様はどうして此処へ?」
「ちょっとな…孫市が、まだ此処にいるんじゃないかと思ってな」
慶次は焼け跡を眺め、そう言った。
「名無しは?」
「…呼ばれたのかもしれません」
「…そうか…」
慶次はそう呟くと、名無しを見た。何かを覚悟しているような、そんな瞳だった。二人はゆっくりと焼け跡を歩いた。何かがあるわけでもないはずなのに、何かを探すように、ゆっくりと。
その時、焼け跡の一角から光が零れた。
「あれは…」
焼け落ちた材の隙間から、光を受けたそれは、静かに名無しを呼んでいた。それは、
――八咫烏の紋を擁した――
孫市の、銃だった。
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