[携帯モード] [URL送信]

旧戦国
4

「…名無し…名無し!」

誰かが彼女を呼ぶ声がした。はっ、とした名無しは、声のした方を振り返る。そこにはあちこちに傷を負った、前田慶次が立っていた。

「前田様!」

名無しが駆け寄る。

「アンタがここにいるってことは…孫市は雑賀には帰ってないんだな?」

金の鬣を揺らしながら、慶次もゆっくり近づいてきた。

「…やはりここにきてたんですね?」

「お前さん、知らなかったのか?」

慶次は驚いて目を見開いた。

「何も言わずに出て行きましたから」

「名無しには言ってきていると思ってたんだがな」

名無しは少し微笑んだ。

「彼らしいでしょ?」

「まぁな」

二人は並んでゆっくりと歩き出した。

「前田様はどうして此処へ?」

「ちょっとな…孫市が、まだ此処にいるんじゃないかと思ってな」

慶次は焼け跡を眺め、そう言った。

「名無しは?」

「…呼ばれたのかもしれません」

「…そうか…」

慶次はそう呟くと、名無しを見た。何かを覚悟しているような、そんな瞳だった。二人はゆっくりと焼け跡を歩いた。何かがあるわけでもないはずなのに、何かを探すように、ゆっくりと。

その時、焼け跡の一角から光が零れた。

「あれは…」

焼け落ちた材の隙間から、光を受けたそれは、静かに名無しを呼んでいた。それは、

――八咫烏の紋を擁した――

孫市の、銃だった。


[*前へ][次へ#]

4/5ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!