旧戦国
2
「…どうしたの?」
そっと布団から抜け出そうとして、後ろから孫市に腕を取られた。そのまま布団に引きずり込まれる。
「…珍しいこともあるもんだ、孫市がこんなことするなんてね。今日は朝から鍛練するんじゃなかったっけ?いつもならさっさと行っちゃうくせに」
「そんなことはないさ。こうやって女性の温もりに触れている方がどんなにいいか。だが雑賀の人間は傭兵として生きてるんだ、日々訓練は必要だろ?」
そう言いながらも、孫市は後ろから私を抱きしめたまま離そうとはしない。彼の腕が心地よく、ずっとそうしていたかったが、そうもいかなかった。
「だったら早く行かなきゃ。皆、貴方に教えを請いたくて集まってるし、私だって孫市の生徒だから遅れるわけにはいかないの」
私は彼の腕を押し返し、起き上がって障子を少し開けた。太陽の光が眩しい。
「やれやれ、名無しはつれないヤツだ。普通こんな時は甘い時間を優先するだろ?それにお前は鉄砲の腕もいい。どっちかって言えば教える方だろ」
ため息を吐きながら孫市は私を見た。
「普通でなくて結構よ。それに、私より腕がいい人は沢山いるわ…でも、そうね、訓練は暫く控えめにしようかな」
日の光を浴びながら小さく伸びをすると、背後の気配が少し揺れた。
「名無しの口からそんな言葉が飛び出すとはな。先生としては理由を知りたいね」
振り向くと、孫市が布団の上で片膝を立て座っていた。興味津々と言った表情で私を見ている。私は少し意地の悪い笑顔浮かべ、また外を見た。
「そうね…休むからには先生に理由を言うのが筋よね…私、ややが出来たみたいなの」
「…あぁ、ややね…って、ややぁ!?」
驚いたように叫ぶと、孫市は私の肩を掴み彼の方に向かせた。
「っておい、名無し!ややって、妊娠したのか!?」
「痛い、孫市」
強く掴まれた上に前後に揺らされ、私はちょっと顔をしかめる。
「あぁ、悪い」
孫市は我に帰り、手を緩めた。
「…そう、妊娠したの」
私がそう言ってニッコリ笑うと、孫市は驚き眼を見開く。
「本当か!?」
「こんな嘘、言っても仕方ないでしょ」
孫市の言葉に思わず苦笑した。
「名無し、一つ聞くが、俺以外の奴と床を共にはしてないよな?」
「当たり前でしょ!」
「じゃあその子の父親って…」
彼は喜びの表情を浮かべ、私の腹部に手を伸ばそうとする。だが、次の一言で孫市は固まってしまった。
「勘違いしないでね」
「…えっ?」
伸ばされた彼の手は、戸惑った様に宙に浮いて止まっている。私は孫市を真っ直ぐ見つめて言った。
「これは私の子よ。私一人の子供なの」
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