旧KYO
甘い温もり(ゆや←ほたる)
ふわりと温かい空気に包まれる。柔らかくて、甘い香りの温もりに、ほたるは無意識に擦り寄った。
「…さん…ほたるさん」
耳元で囁かれる声に、ほたるは眠い目をゆっくりと抉じ開けた。目の前に柔らかな膨らみを包んだ薄桃色の衣が広がり、背中には優しく自分を抱く腕を感じる。
「ほたるさん、擽ったいです」
自分の名を呼ぶ声に、頬を摺り寄せていたほたるは少し顔を傾けた。彼の瞳に飛び込んできたものは
――光りを宿した金の髪に、新緑を映した瞳の――
よく見知った一人の少女だった。
「アンタは…」
眠っていたせいで少し掠れた声になる。
「やだ、ほたるさん。忘れちゃったんですか?ゆやですよ」
彼女はそう言うと、可笑しそうにクスクス笑った。
「ゆ…や…」
「そう、ゆやです」
「…ナニ…してんの?」
何故自分が彼女に抱きしめられているのか分からなかったほたるは、まだ眠い頭で問い掛ける。すると彼女はこう答えた。
「だって…ほたるさん、とても寒そうでしたから」
その返答にほたるは少し驚いたが、彼女は穏やかに微笑んでいた。その微笑みは身体だけではなく心までも温めてくれるようで、ほたるは自然と頬が緩むのを感じていた。
「そっか…俺、寒かったんだ…」
「こうすれば、暖かいでしょう?」
「うん…」
ほたるは彼女の背中に腕を回し、その温もりを閉じ込める。
「貴方が眠っても側にいます…だから休んで下さい…」
その囁きに、ほたるは再び眠りの淵に誘われ、深い闇に落ちた。
夕刻。
西日の眩しさにほたるは目を覚ました。溜め息を吐くように深く呼吸すると、微かな甘い香りが彼の鼻腔を刺激する。
「…なんだ、これか…」
彼は体に掛けられた薄衣を手に、軽く溜息を吐いた。それは、あの少女が時々身につけているものだった。きっと寝ている自分が風邪等引かぬように掛けてくれたのだろう。徐に頬を擦り寄せると、先程の甘い記憶が蘇り、彼の心を擽った。
「こんなことだろうと思ったけどね」
ほたるはそう呟くと、もう一つ溜息を吐く。そして薄衣を手に、部屋を出た。
残された空気の甘い余韻は、やがて夜の帳に消えていった。
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