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旧KYO
他はいらない(狂→ゆや←ほたる)

「ねぇ、狂」

窓際に腰掛けぼうっ、と外を眺めていたほたるが、昼間から一人酒をあおっている漢に声をかけた。

「…」

狂、と呼ばれた漢は、視線だけをほたるに向ける。

「なんであの女のこと『チンクシャ』って呼ぶの?」

外から視線を外さぬままにほたるは尋ねた。

「…俺様の下僕だ、なんと呼ぼうがお前には関係ねぇだろ」

ほたるの質問に、狂は僅かに不機嫌な響きを含ませ答えた。

「ふぅん…」

納得したのかしないのか、あまり興味のなさそうな返事が返ってくる。暫く沈黙が続いた後、再びほたるが口を開いた。

「あの女は『狂の女』なんだよね?」

「…どういう意味だ?」

「梵ちゃん達が、あの女は狂のだ、って言ってた。でも夜とか皆一緒の部屋か、別の部屋だから」

屋根で遊ぶ雀を見ながら、ほたるはさらりとそう言った。質問の意味を計りかね、訝しげに答を促した狂は、梵の野郎…と溜息を吐く。

「生憎、ガキ相手にするほど飢えてねぇんだよ」

そういうと徳利に口を付け、ぐいっと飲み干した。

「ふぅん…」

再びほたるはそう返す。だが今回は明らかに何かが違った。それを感じ取った狂が彼を見ると、ほたるも初めて彼に視線を向けた。

「あの女はあくまで狂の『下僕』なんだ?」

「だったらなんだ?」

空になった徳利に舌打ちしながら狂が言った。

「じゃあさ、『女』の部分は俺に頂戴?」

「…っ!?」

その発言に、狂は驚きの目でほたるを見る。

「だって狂が欲しいのは『女』じゃなくて『下僕』なんでしょ?だったら女の部分はいらないじゃん。俺はあの女の『女』に興味あるんだよね。だから、頂戴?あ、もちろん心も体も両方ね」

いつもの無表情でさらさらと、とんでもないことをほたるは口にした。

「ほたる…テメェ…っ!!」

不機嫌な上に殺気まで漂わせ、狂はほたるを睨む。その様子に、ほたるは不思議そうな顔をした。

「ダメなの?なんで?」

ワケが分からない、と言いたげなほたるに対して、狂は立ち上がると彼を睨みつけながら答える。

「あれは俺の下僕だ。一から十まで『俺のモノ』なんだよ。女が欲しいなら他を当たれ」

そしてそれだけ言うと、狂は空の徳利を持って部屋を出て言った。

「…やっぱり狂の女じゃん」

そう呟くと、ほたるは再び外を見る。視線の先には、茶屋でくつろぐ金の髪の少女がいた。

「…他の女なんて、欲しくないんだよね」

きっと少女はもうすぐ赤眼の鬼に捕まるだろう。それまでは、とほたるは瞳に彼女の姿を映していた。



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