照れ隠し 「勝者、【名前】」 短く響いた声に、私は思わずライチュウを抱きしめた。 これで次に行けると意気込んで立ち上がると、目の前に居るデンジに視線を向ける。 「おめでとう、これがバッチだ」 「有難うございます」 「お前程の実力なら、チャンピョンだって倒すことは可能だろう」 手渡されたバッチから伝わる彼の熱に、私はチラリと彼の顔を見た。 電機タイプのポケモンを扱っているせいか、きっとそれで熱いのだろう。手は尋常じゃない程熱いが、顔は至って平然だ。 気にせず私は「どうも」と言ってバッチを鞄にしまう。これであとはショップに寄って、この地を出るだけだ。 そのまま私は後ろを向いて出口へと向かうと、ジムの客席から見てた赤毛のアフロの人が「おーい」と言って私に手を振ってくる。 振り向くと、彼は軽々と高い段から下へと着地し そのまま私の方へと駆け寄ってきた。 「よっ、いい試合だったぜ」 「あ、どうも」 彼はよくこのジムにくるらしい。 と言うのも、ここのジムリーダーであるデンジさんと仲が良いからだそうで。 さっきも試合の前に、当然かのように座っている彼に私はデンジさんを見つめると「いつものことだ、気にしなくて良い」と言っていた。 それ以上私は突っ込まなかったが、彼が興味津々にバトルを見るものだから 少し緊張してしまったのが本音だ。 「俺はオーバ。よろしくな、【名前】」 差し出される手に自分の手を添えると、相手はニッコリ笑って強く握ってくる。 人柄が良さそうな彼に自然と頬が緩み、私が「よろしく」と軽く返事を返せば相手は「おう」と元気良く声をかけてくれた。 「な、突然だけどよ」 「はい」 「連絡先、教えてくれねーか?」 「・・・はい?」 「さっきの試合を見て、【名前】と勝負したいと思って な?」 良いだろ?と笑顔で首を傾げるオーバさんに私は頷こうとした時、自分の後ろで何か物凄く鋭い視線が突き刺さるのを感じた。 ゆっくりと後ろを振り向けば、そこには不機嫌そうな顔をしたデンジさんが私達を物凄い形相で睨みつけていた。 「駄目だ」 短くそう彼が言えば、オーバさんは「は、何でだよ」と不機嫌そうに眉を吊り上げた。 だがデンジさんは彼のアフロ髪をワシッと掴み上げると、そのまま勢い良く彼を後ろへと投げ捨てた。 ブチっと髪が数本抜ける音と、床にたたきつけられる鈍い音に私は目を見開くと 目の前で倒れたオーバさんが泣き叫びながら立ち上がる。 「おいデンジ!!お前何しやがるっ、痛ぇだろ!!」 「黙れ、そもそもお前が悪いんだ」 「は、なんでだよっ」 「行き成り会ったばかりの人に連絡先を聞くのは、おかしいだろ」 「いや、お前の頭がおかしいだろ」 「お前程ではない」 「そっちの『頭』じゃねーよ!髪見んな!」 軽くコントを始めた二人に私は黙って見つめていると、後ろで未だに叫んでいるオーバさんを無視してデンジさんが目の前までやってきた。 私は何も言わずに黙って立ち尽くしていると、彼は相変わらずの無表情で私を見下ろした。 「すまない、大丈夫だったか」 「あ・・・いえ。寧ろ後ろの人大丈夫ですか・・・?」 「大丈夫だ」 「そ、そうですか」 即答する彼に私は押し黙ると、ゴホンと一つ咳払いをしたデンジさんが「あー」と何か呟き始める。 チラチラと何やら視界を巡らせている彼に私は首を捻ると、決心したのか。彼は一人で小さく頷くなり、徐に自分のズボンに手を突っ込んだ。 そして出てきた紙切れに私は視線を向けると、彼は先程から変わらない表情で私に告げる。 「俺の連絡先だ。いつでもかけてきてくれ」 ズコーと、その場にいたデンジさん以外の人が思いっきりコケた。え、何この漫才。ってか私本当にバッチ貰っちゃっていいのかな。 後ろで先程から叫んでいたオーバさんはもう声を出す元気がないのか、「もうコイツ嫌・・」と床に寝転びながら顔を引きつらせていた。 私は恐る恐る紙を受け取ると、また彼の手が尋常じゃない程熱いのが伝わる。 もしかして――― 「あの・・・」 何事も無かったかのような涼しい顔をしているデンジさんに、わたしは勇気を振り絞って聞いた。 照れ隠し 「お前、絶対に【名前】の事気にしてるだろ・・・・」 「オーバ、髪が乱れてるぞ。いつも以上に」 「お前のせいだろ!ってかコレは乱れてねぇ、セットだっ」 「【名前】、またな」 「あ・・・はい」 「おいおいおいちょっとまて」 2010.6/13 ってか今時紙ってデンジ(← オーバさんの髪はステキですよっ [*前へ][次へ#] |