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溶ける雪に










「ねぇ、イツキ」

「なんだい」

「ネイティオ、元気?」

「ああ、元気さ」



見れば分かるだろう、とでも言いたげな顔をして素っ気無く答える彼に 私は肩を落とした。
四天王として働く彼が忙しいのは知っている。だが1ヶ月数回しか会えないというのに、彼の反応はいつもこれだ。
私は彼と少しでも話したくて、少しでも一緒に居たくて たまらないのに。何だか余計に切なくなってくる。

貴方をこんなにも想っているのに。



「雪、降ってきたね」

「あぁ」

「明日になったら、積もるかな?」

「たぶんね」

「・・・・寒いね」

「あぁ」



どちらかと言えば、貴方と居るこの部屋の方がよっぽど私には寒く感じる。
だからそれに耐え切れなくて、自分から彼の手を握ってみる。私より冷たい彼の手と、握っても何も反応の無い冷たい表情。
それでも、つないだ指から溢れ出す感情に 自分の手がだんだん暖かくなっていくのが分かった。
『好き』と心の中でその言葉が飛び交う中、何故か彼を見るとそれは言えなくなってしまって 私はいつも強く口を閉ざしてしまう。

だって言ってしまったら、余計に彼の言葉が欲しくなってしまうから。それだけは絶対に言えなかった。



「寒くない?」

「ああ、平気さ」

「・・・・そっか、良かった」

「君の手、尋常じゃない程に熱いしね」

「・・・・・」

「・・・・僕、変な事言ったかい?」



ピタリと固まった私の顔を覗き込んで言った彼の一言に、思わず私は後ろに飛び退いてしまった。
彼が私に話しかける度に、
彼が私を見つめる度に、
私の心に熱い火が灯るのを感じた。

なんでこんなにも、切ない気持ちになるのだろうか。
私は貴方だけをみてるから、だから私だけをみて だなんて。こんなにも言いたくても言えないだなんて。
いっそのこと、この気持ちを眠らせてしまえたらいいのに。



「時間、良いの・・・?」

「・・・・あぁ、そうだね。そろそろ行くよ」



いつも耐え切れなくなると、私は自分が望んでいない方向へと話を逸らして逃げる。
時計に助けを求めるような視線を向け、「時間いいの?」と声を漏らせば忙しい彼はいつでも腰を上げた。
するっと離れていく手、そしてドアを開ける彼の後姿を見て 私の体温は急激に下ってしまう。

さっきまであんなにも熱かったのに、不思議なものだ。



「送ってくよ」

「あぁ、有難う」



そう言って私は靴を履くと、彼は横目でチラリと私を見て 無言で手を差し出してきた。
フラフラと揺れる身体を彼の手で安定させて、しっかりとその手を握る。たったそれだけの事なのに、つい嬉しいと思ってしまった。



「有難う」

「君は危なっかしいからね」



無表情で言い放つ彼の言葉は、冷たい雪風よりも遥かに暖かい。
きっと今この瞬間、私の心はこれでけで満たされている。『好き』の感情が思わず口から飛び出そうになるほどに。



「・・・・ここまででいいよ」

「うん」

「雪が凄いから、帰りは電車で・・・」

「イツキ」



初めて彼の台詞を最後まで聞かずに言葉を放った事に、自分でも驚いた。
相変わらず彼は驚く事無くこちらを見ているが、逆にそれが私を焦らせてしまっている。
どうしても彼に伝えたいのに、今にでも動き出しそうな口に私の頭が追いつかない。



「・・・あ、あ・・の」

「何だい」

「す・・・・す・・・」

「・・・す?」

「すっ、す・・凄く寒いね」

「・・・・・言いたいことはそれだけかい?」



私は後悔しながら頷くと、彼は呆れた顔をして溜息を吐いた。
本当は『好き』と、ただそれだけを伝えたいだけなのに、なのに何故その一言が言え無いのか自分でもよく分からない。

すると突然彼の顔が近づいてきて、私はほぼ放心状態で彼を見つめていると ふと、唇に何かが重なる感触がする。



え――――



頬に雪が付き、すぅっと溶けていくのを感じながら 私の顔はいっきに熱で侵された。
熱い柔らかい口付けに、思わず夢の中に居るのではないかと思ったが 目の前に居る彼の姿で現実に戻される。
どうして、と私は彼を見つめるが 本人はいたって平然そうな顔をして言った。




「じゃぁ、またね」




最後に顎をするっと撫でられ、そのまま彼は背を向けて船へと向かった。
雪で一面白で覆いつくされた海に私は視線を向けると、何故かいつもより雪の冷たさが強く感じられた。

この海の先に、彼の帰るべき場所があるのだ。
それを私は毎日見送ってきたはずなのに、何故だろうか―――











溶ける雪に











はらはら舞い散る雪に包まれながら、ぎゅっと燃えた恋心をいつもより強く感じていた。
きっと『好き』だなんて言ったら、今頃私は燃え尽きていただろう――












2010.6/13

イツキがリクエストであったので書かせて頂きました*
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