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録音事件














「あー、あー、われわれロケット団はー・・・」

「おい、お前へったくそだな」

「うっせぇ!これ意外と緊張するんだよ」

「ぶふっ・・!お前ダッセー」

「じゃぁお前やれよ」

「あぁ良いぜ」




(・・・・何やってるんだろう)




床に置かれた機械に向かいながら、何やらごちゃごちゃと したっぱ達が話しているのが私の視界の先に映った。
少しもコチラに気付く様子もなく話し続けている彼等の横をすり抜け、【名前】は少し遠慮しがちな声で「あの・・」と声をかける。
一応私よりも先にロケット団に居た人達なので、『先輩』にあたる彼等にへの態度は常日頃気を配っているつもりだ。
と言いつつ、ただ単に後でゴチャゴチャといわれたくないだけって言うのもあるのが本音だが。







「お、何だ。お騒がせ新人か」

「あぁ、コイツなのか。よっ、元気かお騒がせ新人」

「あの・・・・その呼び方やめて下さい」





どっかの売れない芸人みたいな感じがするのが何か気に食わない。
【名前】が眉を寄せて複雑な顔をしていると、それを感じ取った先輩達が「悪い悪い」と笑いながら謝ってきた。

今こうして嫌な顔を私はするが、こんな呼ばれ方をされるような事をしたのは他ならぬ自分だ。
性別を偽って入団した苦い過去を思い出しながら、【名前】は更に罪悪感で顔を曇らしてしまう。
すると気を使ったのか、目の前に居た彼等はマイクを手に持ち それを【名前】の口元へ ぐいっ と近づけた。






「ほら新人、お前もなんか一言いっとけ」

「ガツンとパンチの効いたやつ一発な!」

「いや、その前にコレなんですか・・・?」

「ほら、もう録音始まってんぞ」

「え・・・?!」

「ではここでお騒がせ新人から一言・・・・・!」




目を見開き、固まっていると彼は「ほら」と小声でマイクを押し付けてきた。
彼等の面白そうな目はこれ以上ないぐらいに輝いていて、私に期待の眼差しを向けている。


(お、面白いこと言えばいいの・・・?!)


きっとこれは遊びだ。その証拠に彼等の顔がもう遊んでいる様な顔をしているから と私は自分に言い聞かせる。
何を録音しているか内容が理解していないまま、【名前】はヤケになって息を吸った。







「どっ、ども〜お騒がせ新人の【名前】でーす。ハンバーグが大好きでーすっ・・・!」

「ぶふううっ、可愛いなお前っ」

「ちなみに何処のハンバーグが好きですか?」

「勿論ロケット団の食堂のハンバーグが絶品です!皆是非食べにきてね〜」

「ぶっははははっ!」

「はっ、腹いてーっ。・・なんだコイツ、ウケるなっ!」






床に笑い転げる先輩達を見て、【名前】は少し顔を赤くさせながらも笑ってしまった。
きっと同窓会かなんかで使うテープを録音していたのだろう。でもだとしたらそれはそれで恥ずかしい。名前を名乗っちゃったしな。

久しぶりに楽しむ時間を堪能した【名前】は彼等が録音の停止ボタンを押したのを確認した後に、未だ落ち着かないお腹を押さえながら質問した。






「あの、先輩達は何を録音してたんですか?」

「ああコレか?」





機械を指差しながら確認してくる彼等に私は頷くと、「あ〜」と何やら嫌そうな顔をしながら先輩達は少し考え出す。
私が首を傾げながら答えを待っていると、彼らの口から発せられた言葉に被るように「おい」と後ろから声が聞こえた。

聞き覚えのある声に私達は振り向くと、そこには見慣れた人物がこちらを睨みながら立っていた。
ぎょっと目を見開いて固まった先輩達を横目に、私はドアにもたれ掛かっている彼に視線を合わせて声をかける。






「あ、ヤド先輩」

「だからその呼び方やめろっって言ってるだろ」

「すんませーん」

「・・・・お前、仕事終わったら覚えてろよ」





ギロリと睨んでくる彼の視線に気付かないようなフリをしながら、私は視線を逸らしてワザとらしく口笛を吹いた。
するとそのままヤド先輩は機械に近づくなり、再生のボタンに手を伸ばしながらコチラに振り向く。
その顔は「ちゃんと、できてんだろうな」とでも言いた気な表情をしていて、それを感じ取った先輩達は勢い良く頷いた。





「バッチリだぜ、ヤドちゃーん」

「殺す」

「おい、そこの新人と態度全然違うじゃねーか」

「はっ、俺様は女泣かせたりする馬鹿とは違う」





鼻で笑いながら自信満々に言い切った彼に、「でもその子毎日泣きながら廊下を走ってるよな」と冷たい一言が横からくる。
それを聞いたヤド先輩はワザとらしく咳をして、「じゃぁ聞くぞー」再生ボタンをカチリッと押した。









『・・・・あーあ、我々ロケット団は・・・・・・あー・・・・。えっと・・・・・・・、おい何だっけ』

『とりあえずサカキ様べた褒めしとけば良いんだよ!そうすりゃ戻ってくるだろ・・!きっと』

『あ、そうだ・・・・・・えっと、ゴホン。サカキ様ってステキだよなー』

『よっ、流石は抱かれたい男ナンバーワン。ランス様もアポロ様も貴方には勝てませんよ!』

『この前ラムダ様も「シャンプー何使ってんだろうなー」って貴方の事を想いながら呟いてましたよ!』

『私達はそんな貴方の写真を飾りながら毎日おはよう・おやすみの言葉を忘れていません・・!あなたは神です、ゴッド!』

『ひゅー、ステキー』


『ではここでお騒がせ新人から一言・・・・・・!』


『どっ、ども〜お騒がせ新人の【名前】でーす。ハンバーグが大好きでーすっ・・・!』

『ぶふううっ、可愛いなお前っ』

『ちなみに何処のハンバーグが好きですか?』

『勿論ロケット団の食堂のハンバーグが絶品です!皆是非食べにきてね〜』

『ぶっははははっ!』

『はっ、腹いてーっ。・・なんだコイツ、ウケるなっ!』











ジッと音が聞こえ、テープが停止するのをヤド先輩は確認すると くるりと私達の方へとそのまま振り向いた。
もう彼が何を言いたいのか理解し始めた私は本能的にドアの方へと走り出すが、スッと足元をヤド先輩に引っ掛けられ 虚しくも失敗に終わる。
そのまま顔面を強打して私は地面にうつ伏せていると、後ろでヤド先輩が静かに息を吸う音が聞こえた。





「馬鹿かテメー等ぁあああ!!!!」

「だっ・・だって仕方ねーだろ!!台本も何もねーんだぞ!?」

「そうだそうだ!!!行き成り仕事押し付けられた俺等の身にもなってみろよ!!!バーカ!!」

「だから女にもモテねーんだよ!そこの新人が可哀想だろこのアンポンタンが!!」

「やーい、アンポンタ〜ン!!!」

「うるせえ!!!」





ドッと騒がしくなった室内と同時に、私は鼻を押さえながらゆっくりと顔をあげた。

(にしてもヤド先輩は鬼畜すぎる。女の子なんだから少しは加減をしてほしいのに・・・・。)

彼等の会話を殆ど聞く事なく身体を立たせようと視線を上げると フッと誰かの吐息が微かに私の頬をかすめた。
そのまま視線をゆっくり前に向けると、私の顔のまん前にドンと誰かの顔が映る。





「うわぁ!?」

「ひゃひゃひゃっ、お前ら相変わらず馬鹿だな」

「な、なっなななんで貴方が此処にっ・・・?!」

「それはこっちの台詞だ」



ニヤニヤと笑いながら彼は相変わらずの表情でそう言った。
私は首を傾げると、彼は「あぁ知らなかったのかよ」と声を漏らす。




「この録音、ロケット団復活宣言で流す時のテープなんだよ。ひゃっひゃっひゃ」




平然と言ってのけた彼の言葉に、私の頭の中は真っ白になった。
え、ちょっとまって、今何だって・・・?
同窓会とかそんな軽いものじゃないことを知った【名前】の顔にはみるみる汗が浮かび上がった。
そして目の前にいるヤド先輩に、いっきに謝罪の言葉を土下座とともに捧げた。




「ゴメンなさい!何だか良く分からずに参加しちゃって!!」

「おう、後で部屋でしばいてやる」

「ひぃ!」

「ちょっと待てよ!さっきから俺等ばっか攻めてるけどよ・・」

「行き成り仕事押し付けたんだ、おまえ等がお手本見せろよ」




後ろで先輩達がヤド先輩に不満の声をぶつけた。
そしてその瞬間、明らかにヤド先輩の眉がピクリと釣りあがったのが見て分かったが それを面白そうに見てた彼が「ひゃひゃひゃ」と笑い出す。




「いいじゃねぇか、面白そうだし俺も協力してやる」

「おい、お前・・・」

「後輩の前でいい顔見せてやれよ、ひゃひゃひゃっ」

「・・・・・」






そう言ってヤド先輩は「ちょっと待ってろ」と言って部屋を出て行った。勿論録音する機械を持って。
出て行った二人の背中を眺めながら、私達三人は安心のあまり肩を落した。


そして彼等が録音を終えて戻ってくるのは、それから数分ぐらいしてからのことだった。















録音事件















『今日から俺様達がこのラジオ塔を仕切るぜ!ロケット団に逆らう奴等は此処まで来な、ぶっ潰してやんぜ』

『もしそれでも逆らうんなら○○○(ピー)えぐり出してやんぜ!ひゃひゃひゃっ!』





「・・・・・・」





無言でボロボロと本気で泣き出した【名前】を、先輩二人が優しく抱きしめてあげていた。
そして当の本人達は「こんなんで泣くのかよだらしがねぇ」と呆れていた。















2010.6/13


○○○は決してうんこではありません(死ね
ヤド先輩でギャグがアンケートで圧倒的に多くて本人も驚いております。やったね先輩←
ちなみに友情出演でひゃひゃひゃの人が出ております(笑


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