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道化師









最悪だ・・・・








そう小さく呟いて重たい顔を上げれば、目の前には上司のラムダ様が『いつも』と変わらない笑顔で私を見下ろしている。
クツクツと喉の奥で笑いながら、馬鹿にするかのような顔で。ただただ凄く楽しそうに笑ってた。




「あーあ、もう終わり?スゲェつまんねぇーだけど」

「・・・・一人で遊んでてくださいよ。気持ち悪い」

「お前・・・すっげー、ガキなのな」

「悪いですか」

「悪かねーけど・・・」




そのまま暫く黒い笑みで満足そうに笑っていたが、やがてその優しい表情も消え去り 凍りつく程の冷たい顔に変わる。
そして噛み付くかのように、私の前髪を力強く持ち上げながら無理やり顔を近づけられた。




「俺様ガキは嫌いなんだよ」




ブチブチッと髪が数本抜ける音がして痛さに顔を歪めるが、彼の表情は相変わらずピタリとも動かなかった。
「痛い」と今言えたら、どれ程楽なのだろう。言ってしまいたい。でも目の前にいるこの上司の前では、死んでも言わない。


―――この外道野郎。


悔しさで無意識のうちに私は下唇を力強く噛んだ。こうしていれば、少しはマシだろう。彼の笑い声を聞くより、苦痛に耐える方がずっと。
そうして痛さを痛さで絶え続けてると、目の前の悪魔はまたニッコリと笑う。



「おら、ガキならガキらしく泣き叫べよ。無理して大人しくしたって何もご褒美はねーぞ。ってかなんか期待しちゃってる?」

「・・・うるさい、黙ってて」

「・・・あのなぁ」



初めて上司に暴言を吐いたが、別に後悔はしてない。
どうせ私はこの悪魔にずっと、一生嫌われ続けるのだ。死ぬその最後まで、殺されるその最後まで。ずっと、ずっと。
そして目の前に居るラムダは小さく声を漏らして笑った後に、ドスの効いた声で私に囁いた。



「いい加減お前の口塞ぐぞ?」



そう言いながら私の嫌いな顔で近づいてくる彼の顔に、私は怖さで一瞬迷ってしまったがビンタぐらいしてやろうかと右手を振り上げた。
が、何故か震えてしまってそれは出来なかった。

(なんで・・・・!なんで出来ないの、何で動かないの私の手。なんでこんなに震えるの、ねえ。)

可笑しい。私の身体に何かがおきている。そう思って彼を睨んだが、何故が視線が合うと目の前が歪んで見えた。
震える身体、歪んだ視界に私は混乱していると それに気付いた彼がニヤリと笑った。



「何、泣いてんの?かーわいいー」

「・・・・さ、わんない・・で」

「え、何だって?何を言ってんのか聞こえねーぞ?」



頬を優しく人差し指で突きながら、彼は子供を相手にするようにムカつく口調で話してくる。本当にこの男は最低だ、大嫌い。
だって認めたくない。自分が泣いてるなんて・・・この目の前で笑ってる男が怖くて泣いてるなんて死んでも認めたくない。
お願い、誰が助けて。この男を私の目の前から消して。

そして彼はまた、私の心を読んだかのように鋭い視線を向けてくる。




「こんな町外れの・・しかも薄暗い建物の間に隠れてちゃ 誰も助けになんてこねーよ」




道を走って逃げていた私を此処まで引きずり込んだのは自分のくせに、よく言う。
逃走するロケット団を同じ組織の人間が追いかけるなんて、とても奇妙な光景だろうに。よくもまぁ彼も此処まで追ってきたものだ。
私は震える息をゆっくりと吐き出し、ゆっくりと酸素を吸う。そして今目の前にいる彼は、まだ笑っている。
そしてラムダは私の前髪を離し、そのままピタリと私に身体をくっつけてきた。私にも彼にもお互いの鼓動が伝わり、何故か息が速くなる。
彼は私の耳に息をかけながら、小さな声で呟いた。




「なんで俺様の所属から抜け出そうと思ったわけ?楽しかっただろ、毎日ずっと素敵な上司に笑って見守られててよ」



はっと息を呑んで、私は目を見開いた。楽しかった?この男は、正気なのか。
あんな毎日、もうごめんだ。いやらしい笑みに耐える苦痛の毎日、ずっとあの嫌いな目で見続けられてきた日に戻るなんて死んでも嫌。
今までどんな思いで私が組織に居たのか彼は知らないだろう。他の者とは違う視線で毎日何を考えているのか分からないあの表情。
必死で逆らうのを我慢してきたのに、それを今『楽しかっただろ』の一言で済まされたのだ。
違う。違う違うっ、私は彼に飼われてたんじゃない・・・!私は、私は―――




「私は、アンタの奴隷じゃない」




そのままの勢いで彼の手に噛み付き、一瞬ひるんだ相手の動きを見逃さずに そのまま腹に蹴りを一撃くらわせる。
鈍い音と同時によろめいた彼を見て 私はその隙に全力でその場から逃げ出した。一歩でも早く、彼から離れたいが為に後ろを振り向く事なくただ走る。
後もう少し、薄暗い建物の隙間から覗く光に向かって足を進めたその時。あと少しと言うところで後ろからひゅぅっと風が追ってきた。
視界に移る全てが遅く見え、風のする方へゆっくりと振り向けば そこには悪魔が笑っている。



「逃がさねーよ」



ガッと力強い蹴りが私の背中に直撃し、そのまま光まであと少しと言う所で私の身体は地面に押さえつけられた。
また逃げることの無いように、今までの力とは比べ物にならない威力で私の足を踏む。嫌な音と共に激痛が走り、私は声を張り上げた。




「ア"ァァッ!!!!」

「フッ・・・アッハハハハハハハ!!!」



狂った玩具のように、突然叫び笑い出した彼の声だけが ただ耳に響く。
今までに無い笑い方に先程から胸のざわめきが消えない。今目の前にいる彼を、まるで覚醒させてしまったかのような気持ちになった。
そして彼はギラギラと光る鋭い瞳を細め、そのまま口角をゆっくり吊り上げる。




「さっきの噛み付き、効くねぇー。何?お前さっきと雰囲気違うな」

「・・・だったら何」

「その目、その態度、その声・・・・やっべぇ。そそるなぁ、おい【名前】ちゃんよぉ!」





ガンッと頭をそのまま踏みつけられ、一瞬視界が何層にも重なって見えた。
彼が力を入れる度に苦痛の声を出してしまう私に、彼の興奮は更に増していった。
女相手に大人気ないなんて、今の彼には通用しない程に自分の世界に入り込んでしまっている。あれだけ大口を叩いた後でさえ、怖い。







彼が、本当に怖くてたまらなかった――――










「いい声でなけよ?」









逃げ出すなんて無理だったんだ。
そもそも、彼は最初から私に笑った事なんてあっただろうか。
あの笑みの裏に、違う意味が隠されていたことも。全て知ったとたん、彼が怖くてたまらなかった。



逃げ出そうと思った結果が、これなのだ――――









道化師









今この顔も、本当に楽しんで笑っているのだろうか。
まるで玩具を壊す日を待ち構えてたピエロのように、彼の『顔』は笑っていた。












2010.6/13


ラムダで鬼畜リクですが、本当に申し訳ございまs(ry
アンケートではランス様とラムダ様がやはり多かったです。次はランス様頑張ります・・・!


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