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全力ダイヤモンド







今はまだ泥まみれの石でも



走り出せば、それは輝き出す
































「ランス様」









声をかけても、答えは返ってこなかった。
静かな部屋には自分の声しか響かず、ただ【名前】には虚しさが積もるばかりだ。

そのまま窓の外を見つめ、小さく息を漏らせば部屋のドアがゆっくりと開く。
ギィと小さな音をたて、顔を覗かせたのはランス様の部下である したっぱの彼女だった。






「・・・・責任、とってくれるの?」

「ランス様は」

「自分が一番良く知っているくせに、よく言うわ」





ハッと小さく鼻で笑われても、【名前】の心には怒りの感情が湧き上がらなかった。
ただ自分のしてしまった過ちに呆然としていまい、その場に立つのが精一杯だった。

すると何も喋らないでいる私が気にくわなかったのか、ギロリと鋭い視線で目の前に居る彼女がコチラを睨む。





「アンタが・・・、アンタがランス様を殺したのよ。責任とってくれるんでしょ?ねぇ、早く。早く消えてちょうだいよ貴方」

「・・・・」

「ほらほら早く、早く消えなさいよ。私の目の前から、・・・・この世界から消えなさいよ!消えろ消えろ消えろ消えろっ!!!」




少しうわずった声で叫ぶ彼女は、怒りと悲しみでわなわなと震えながらドアの目の前で崩れ落ちる。
顔を手で覆いながら、指の隙間から零れ落ちる涙を私はただ呆然と眺めていた。


そう、ランス様は死んだ。正確に言えば、私が彼を『殺してしまった』のだ。
取引に失敗して、馬鹿な私を逃がした彼は捕まった。
警察なんて甘く見ていたが、大違いだった。本当に彼等は正義なのかと思う程に、残酷な表情を簡単に浮かべる。
響き渡る銃声に、道路に飛び散った血。それを見た部下達の悲鳴のような叫び声は、まさしく地獄だった。

それでも仕事を完璧にこなす彼は、『逃げろ』と最後まで叫び続けた。
全ての資料がつまっている鞄を持つ手が震えたが、絶対にソレは放してはいけない物だった。そう、これは彼の命なのだ。
彼に背を向け、必死に走り続けた。この鞄を持っている私だけは、何があっても絶対に捕まっては行けないから。
それでもただ一人の女性が逆走して私を横切り、驚いて振り向けばランス様を助けようとしたっぱの彼女が視界に映った。
仲間に止められながら戻されたが、それでも泣き叫び続けていた彼女の姿に その場に居た全員の胸が締め付けられたのは言うまでもない。





『どうして誰も助けないのよ!!馬鹿なのアンタ達はっ・・!ここまでこれたのはランス様のおかげなのよっ』





彼無しでロケット団復活なんて死んでも言わせない―――



その場に響き渡ったその台詞に、私は大泣きしてしまいそうになった。


やっと見つけた人。こんなにも付いていきたいと思った人は彼が初めてだろうと思った。
常に完璧な彼、誰も寄せ付けないような壁をもつ彼だが、部下の皆は知っている。彼が誰よりも優しいのを。

いつのまにか私は彼に恋をした。仕事など関係なく、彼自身を愛していたのだ。



『貴方、後悔しますよ』



そんなのは関係無い。



『そこまで直球に言われてしまっては、私も困りますし。仕事に支障がでたりしたら迷惑です』



それでも言わなきゃ、後悔してしまう。



『そう言う私情は・・・』



貴方が大好きだから、だから言わせて。



―――仕事が終わってからにして下さい







ボロッと、乾いていた目を涙が一気に潤す。
瞳からあふれ出した雫が頬を伝い 床にポタリと落ち、小さく飛び散った。
まるで今の自分そのものが落ちてしまったかのような感覚に陥り、【名前】は大きく息を吸う。



苦しい、苦しいよランス様。


やっと見つけた、大好きな貴方。


居なくなるのがこんなにも早いなんて、こんな現実はいらない。


息をするのも、何かを視界に映すのも


貴方のいない世界では、苦しむしかない。







そしてあの時泣き叫んでいた彼女は、今も私の目の前で泣き叫んでいる。
それはまるで、彼に会いたくてたまらないのは 私だけではないという現実を今突きつけられたかのように。

きっと彼女は、私を殺したくてたまらないだろう。






「消えよっかな・・・・・」

「うるさい」

「私、目障りだよね」

「うるさい、うるさい」

「ランス様、殺しちゃったもんね」

「うるさい、うるさい、うるさい、うるさあぁい!」

「ほんと・・・・ゴメンなさい」

「あんたっ・・・馬鹿じゃないの?!」






顔を真っ赤にしてボロボロと涙を流している彼女の顔に、私は何度も謝った。
そのまま彼女は腰に隠し持っていた刃物を床に投げつけ、次第にわんわん泣き叫びだす。
カランッと刃物が転がる音が響き渡る室内には か細く何かを呟く声に、震えながら息を吸う音で広がった。

その時に私は、床に崩れ落ちた彼女と私に突き刺されるはずだった刃物が
無残にも廊下の先へと転がっているのを確認すると何故か胸が苦しくなった。


本当に自分は、してはいけない事をしてしまったんだ。


本当に・・・


本当に―――






「本当に・・・ゴメンなさ・・・いっ・・」





胸の奥がふるえて上手くいえなかったが、心の中から溢れ出す感情の波が止まらなかった。


彼女は私を殺さない。
ランス様を同じように愛していた彼女は、私の気持ちをとっくに気付いていた。
だからここで殺しても、お互い何も残らない。
彼の居ない世界なら死んだほうがマシと言うのは、同じ筈だから。


するとお互い泣き叫ぶ私達の声に被さるかのように、突然後ろのドアがバンッと勢い良く音をたてて開らかれる。
何事かと思ったがそのまま俯いて涙を流していると、息を切らしながらランス様の部下である したっぱの男性が叫ぶように言った。




「・・・・・おいっ!!ランス様は、生きてるぞ!」

「・・・・・・・っは、何いってるの・・・?」

「あの取引した街のすぐ近場に、建物があるっ・・・!そこから今、連絡があった」




世界は急に逆転し始めた。
部屋に漏れる光に目を細めながら、彼をじっと見つめ続ける。


―――ランス様が、生きてる・・・・?


ありえない事実に驚愕していると、彼は私の手を掴んでそのまま立たせた。
震えて上手く立てない足を少し前に動かしながら彼へと踏み出せば、そのまま彼は真剣な表情で頷いた。





「鞄を持っていったお前の姿が向こうに確認されてる。だから、お前一人で来いって 向こうは言ってる」

「・・・・・え」

「・・・・行けるか・・・?勿論、バレないように俺等も外から手をかすが 直接ランス様の所に行けるのはお前だけだ」

「・・・・私・・・が」





知らされる事情に私は視線を床に向けると、何かが私を目掛けて飛んできて思わずそれを反射的に手で受けとめる。
ギラリと光る刃先が手の肉に食い込み、血が腕を伝って垂れ流れた。当然今の私に痛みなんて、感じるはずもない。

ゆっくりと刃物が飛んできた先を見つめると、床に崩れ落ちていた彼女が息を切らしながら私に叫んだ。




「行きなさいよっ・・・どうせ死ぬんなら、ランス様一人でいかせるわけいかないでしょ!」

「・・・俺等だけノコノコ生き残っても意味ねぇしな。・・・・・【名前】、行けるか?」




突き刺さる二人の視線に、私は光が見えたような気がした。
きっとこれが最初で最後の、チャンスだろう。

彼女が渡してくれた刃物を腰にしまい、私は縋る様な気持ちで叫んだ。




「・・・・っ!行く!私に・・・私に行かせて・・・!」




やっと叫び声が、天に届いたような気がした

もう絶対に貴方を離したくない

ずっと、一緒に居てほしい





頷く彼等を横目に、私は部屋のドアを勢い良く開け放ち 暗い部屋から飛び出した。
廊下を駆け抜け、外へと出て、再びあの場所へと目指す。






(ランス様っ・・!!)






貴方の事を想うと、こんなにも胸が苦しくなる。

溢れ出すこの感情が、止まらない。

貴方への想いで、私は満ちているんだ。

声に出せば。風の中で叫べば。貴方の元へ届けてくれるだろうか。







「ランス様!」








きっともう、こんなことは二度とないだろう。二度としてはいけないだろう。
だから私は今、全力で走る。


今度は絶対、あの悪に打ち勝つんだ







「はやくっ・・・!」








―――早く、もっと早く















しょせんは血に濡れた愚かな少女のあがきでも、





それで一人の大事な人を救えるなら、私は全力で走る。


















全力ダイヤモンド
















息が苦しくなるほど、走り続けた

息が苦しくなるほど、想い続けた










( 貴方を、今助け出すから――― )


















2010.6/13


ランス様でシリアスでしたが、これはこれは・・・(
アンケートでリクエストして下さった方本当に申し訳ございません・・・!!orz
ギャグしか書いていなかったのですが、これをきっかけにそっち方向も書いてみようかと思います*


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あきゅろす。
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