あの流星群を2
「アポロさん・・・・」
「・・・・あぁ、おはようございます」
「おはようございます。・・・・・で、」
「何か」
「いや、何で同じベッドで寝てるんですか」
「何を言ってるんです、此処は私の部屋ですよ。私が寝る場所が無かったので此処で寝たまでです」
「あー成る程。じゃぁ良いや・・・・・」
外は鳥が可愛らしく鳴いていて、眩しい朝日に目を細めながら私は再びモゾモゾと布団の中へと潜り込んだ。
あー、幸せ。この「朝だけどまだ寝てて良い」って言う時間が最高の時だと私は思うんだよね・・・・。
そしてまた目を閉じて眠りにつこうとした瞬間。私は目をカッと開けて、布団から勢いよく起き上がった。
「って、おかしいでしょ!!!」
「・・・何ですか。うるさいですね」
「あのねぇ・・・!アポロさん、貴方・・・・ってどわぁあああああ!!!」
「・・・・人を化け物の様な目で見ないで下さい。失礼な」
「だっ・・!だだだだだって!!だって!」
アポロさんが小さく舌打ちしながら起き上がった瞬間、私の顔はまるで林檎の様に真っ赤に染まってしまった。
彼と言えば上の服を着ておらず、上半身裸の状態で寝ていたのだ。それも私のすぐ隣で一晩も。
私は口をパクパクさせていると、まだ眠たいのかアポロさんは髪をかき上げながら暫くボーッとその場で固まっている。
意外と細く見えて引き締まっている筋肉に私は無意識に見惚れているが、そこで突然彼はハッと目を鋭くさせ ドアの辺りに意識を集中させた。
「・・・・誰か、来る」
「え、誰が・・・!?」
「静かに」
「フガッ!」
ボスッと布団に顔を押さえつけられ、私は思わず窒息死するんじゃないかと思ってしまった。
すると彼の言う通り、ドアからガチャリとドアノブが捻られる音が聞こえ アポロさんがそちらに意識を集中させたのが分かる。
「よおアポロ、まーたお前裸で寝てるのかよ。元気だなぁ」
「失礼ですね、私がどんな格好で寝てようが私の勝手です。それに今日はちゃんと下は穿いてますから」
「・・・・そう言えばお前下着だけで寝るときあるよな。まだ夏本番じゃねーのに暑くねーだろ、エアコンもつくっつーのに」
「あれは身体に毒です」
「昨日までエアコンガンガンにして寝てた奴の台詞じゃねーだろ。相変わらずお前暑いの苦手なのな。冬は強いくせによ」
「どうも」
「あのなぁ、褒めてねーよ。でもズボン穿いて寝るだなんて珍しいじゃねーか?エアコンもついてねーし・・・どうした?」
「いえ、いきなり上半身裸で下半身下着と言うのは刺激が強いかと思いまして」
「は、何の。お前頭大丈夫か?」
「ええ、そこそこは。すくなくともラムダよりは大丈夫ですよ」
「ひっでーなお前」
はははと、笑う声が布団の向こうから聞こえ 私は誰だろうと首を少しだけ捻った。
すると彼の胸板が私の胸を押し付けるように上から圧し掛かり、私は思わずぎょっとしてしまった。
(あ、あ、ああああアポロさんんん!?)
足も腕も、太腿の隙間まで隅々彼と私は絡み合う形になる。
おまけに彼の吐息が丁度私の耳元に吹きかかり、思わず身体をビクリッと動かしてしまった。
ちょ、ちょっとアポロさん、これはヤリすぎなんじゃ――
彼が動く度に、変な声が出そうになるのを私は必死で堪えるが、どこまで保てるだろうか。
そのままお互い密着し合ったまま、彼は平然な声で呟きながら布団を頭まで被った。
「もういいでしょう、大した要件がないなら出てってください」
「ってか布団暑くねーのかよ。・・・ったくなんか今日おかしいな・・・・ランスも今朝からおかしいしよ、おい何か知ってるか?」
「知りません」
「即答かよ・・・まあいいや、邪魔したな。頼むから今日は仕事が終わってるからって抜け出してサボんなよ、部下に見られたりしたら面倒だからな」
ガチャリと扉が閉まるのを確認したアポロさんは布団を頭から勢い良く外すと、軽く溜息を吐いた。
だがそれでもまだ退かない彼の身体に私の身体は圧迫されながら、暑さと鼓動の早さで次第に息苦しくなっていった。
そんな私の様子に気付いた彼は身体を退かすと、優しく私の身体を抱き起こしてくれる。
「ああ、すみませんでし・・・・・――っ!!」
「はぁっ・・・・っは、・・・いえ、だいじょ・・・ぶですっ」
息苦しく、やっと外の空気を吸えた私は額に汗を浮かばせながらゆっくりと肩を上下させる。
その様子に気付いた彼が はっ としてこちらを見つめて、そのまま私は優しく枕に頭を乗せられた。
そして彼は少し困ったような 怒ったような、複雑な表情を浮かばせて私を睨みつける。
「苦しいなら、叫ぶなり叩くなりすればよかったものを・・・!」
「だって。・・・・みつかっちゃ・・・うから」
「今更あんなのが状況を知ったところで、どうって事はありませんよ」
あんなの=ラムダさん のことだろう。他人の事だろうが、何故か私は少しだけ可哀想に思えてきた。
そしてやっと落ち着いてきた鼓動に、自然と額の汗も引いてきた。私はゆっくりと息を吸いながら、アポロさんを見上げる。
「すみません、でした。もう大丈夫です・・・」
「いえ、貴女今日は安静にしてなさい。身体が弱いなら尚更です」
「え・・・!!なんで、それを――」
私しか知らないはずの事を、何故彼は知っているのだろうか。
恐る恐る彼の方へと視線を向ければ、アポロさんは当たり前かのような表情でサラリと言ってのける。
「最初から貴女を見てれば、そんなの誰だってわかりますよ。」
「あ・・・・そうですよね・・・・私、ぶっ倒れてばかりですし・・・」
「・・・まぁ、最初は熱中症かと思いましたが。でもまだその季節にしては早すぎますからね」
セミも鳴いていませんし。
そう付け足した彼に、私は少しだけ苦笑いした。まぁ確かにこんな季節に昼間からぶっ倒れる人も居ないだろう。
よっぽど病気では無い限り――――
そして「どこが悪いんですか?」と聞いてくる彼に、私は自分の胸を指差しながら答えた。
「心臓が生まれつき悪いんですよ、私」
「なる程。では不可抗力とは言えもう圧し掛かるのはやめておきます」
「あれ不可抗力だったんですか・・・・」
(どっちかと言えば楽しんでやっているものかと・・・・)
私は乾いた笑みで笑っていると、アポロさんが「えぇ」とさも同然かのように頷くのが見えた。
そしてそのままベッドから降り、布団を拾い上げながらこちらに視線を向ける。
「後から思い出したんですよ、妙に布団が膨らんで見えたらおかしいかな と」
「いや、それ後からやってもおかしいですよ!逆に」
「いいじゃないですか、どうでも」
「どうでもっって・・・!それじゃぁ私がここに居辛くなるなるだけじゃないですか!」
叫ぶように私が言えば、彼は再びあの鋭い視線で私を睨んでくる。
ギクッと私は身体を強張らせるが、彼はギシッとベッドに片膝をつくなり そのままぐいっと顔を私に近づけてきた。
息をするのが伝わる程近い距離に、私の頭はクラクラと少し揺れる。実は彼自身が、私に毒なのかもしれない。
「その口、塞ぎますって・・・何度言えば分かりますかねぇ」
「すみません、ほんとうに。なので顎に手添えないで下さい、本当にごめんなさいアポロさん、いやアポロ様っ」
するっと、何故か色っぽい手つきで離れていく手に 私の心臓が別の意味でバクバクと高鳴った。
顎に添えられた時の手が微かに唇の隙間と歯の間を通って私の舌を撫でたのを思い出しながら、私は恥ずかしさで瞳を閉じる。
私は本当に、此処に来て正解だったのか―――
もしかするとあのままあの場にぶっ倒れてた方が、よっぽど良かったんじゃ・・・
布団をクローゼットに仕舞い込む彼の綺麗な背中を眺めながら、私は重い溜息を吐いた。
「そういえばアポロさん・・・」
「なんですか」
「エアコン付けないでくれて、有難うございます」
「・・・・・・」
「それと次からは扇風機なら良いんで服着てください、お願いします」
小さく舌打ちした音が部屋の隅から聞こえたのを、私は聞き逃さなかった。
2010.6/13
アポロのキャラが違う(何
おもわず続けて書いてしまった・・・終わるのかなこれ(まて
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