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カリヨンの鐘の音












「もうすぐナマエも高校卒業ね」

「そーなんだよね〜、・・・・就職どうしよっかなー」

「ふふふ」

「な、何よ気持ち悪い・・・!」





高校3年のこの冬、友達が着々と進路を決めていく中 私はまだ就職先が決まらず一人悩むのだが、当の母は怒るどころが可也上機嫌だ。
あの母が。あの、仕事命の母が怒らないなんて可笑しい。
この間の三者面談で「まだ就職が決まってません」と言ったら、隣で座っていた母が私の胸倉を掴んできた程なのだ。
先生が止めてくれなかったら確実に私は殴られていたと思う。それ程までして母は仕事には五月蝿い人だから、今回目の前で笑っている
母の姿が信じられない。もしかしたら他所の人じゃないかとさえ思った。




「まぁまぁ聞きなさい、とりあえず貴方次第で就職なんてしなくても良いんだから」

「分かってるよ、ちゃんと次までには就職確実に決め・・・・・・・って、は?」




今母はなんと言ったのか。私は目を点にして口を大きく開けたまま黙っていると 目の前に居た母の眉間にシワが寄る。
コーヒーを片手にリビングのソファーから立ち上がり、そのまま複数の色紙の様なものを持ってきた母がテレビを見ていた私のすぐ隣に座った。




「そんな だらしない顔してると、寄ってくる男も寄ってこないわよ」

「い・・・、良いもん!!別に男なんて・・・・」

「そうよねー、そりゃ逃げられたら誰だって男なんていらないよね〜」

「お・・・っ!お母さん!!!!」

「あーはいはい叫ばないの。良いじゃない、私だって逃げられてるんだから。お互い様よ」

「・・・・・・彼氏と夫じゃ全然違うし」




確かに男に逃げられたって意味では母と私はお互い様なのかもしれない。
でも私は彼氏にフラれただけであって、母は父に「離婚してくれ」と面と向かって言われたのだ。流石にショックのデカさが違う。

私が中学生の頃だったか、いじっぱりな母は「お金はいらないわっ」と言った為 女一つで私をここまで育ててくれたのだが、
今思えばそれがきっかけで母は一気に仕事先で出世したのだから、逆に「今の生活の方が楽しい」と言う様になってしまっていた。

なんと言うかたくましいにも程が有り過ぎるよ、ウチの母は。




「・・・・その性格、私にもちょっと分けて欲しいぐらいだわ」




そんな感じで私が呆れていると、ふと 行き成り目の前に三枚の写真が現れた。
何事かと私はその写真の人物を見ると、どれも物凄く顔の整った男性がスーツ姿でしっかりと映っており 私は目を丸くしてしまう。
なんでこんな物を私に見せるのかと母を横目で見やれば、隣で溜息とともに母が呟いた。





「だったら私だってこの色男達、ちょっと分けて欲しいぐらいだわ」

「・・・・・・は?何、頭くるったの?病院行く?」

「黙れ小娘が。寧ろアンタこそ病院行く?ちょっとはその鈍い脳味噌直してもらったらどうなの」

「はぁ?!もうさっきから何なのさお母さん。言ってる意味が全然っ・・・」


「あーもう馬鹿にも程があり過ぎるっ!! アンタの婚約者候補よ、この写真の男3人は」





半分怒鳴りつけるように言ってきた母の台詞に、私の頭は真っ白になってしまった。
今、この人は何を言ったのか。
婚約者?・・・あの結婚の約束をする、あの婚約の事?
私はまだ高校生だ、そんなのは考えてもないし ありえない話だった。いや、高校生じゃなくてもそんな話私には縁が無かった筈。
私は口をパクパクさせながら、震える声でゆっくりと呟いた。





「い・・・・意味わかんない・・・!!ってか何で私が婚約しなくちゃなんないの」

「意味わかんなくないわよ、世の中お金が無くちゃやっていけな事ぐらい知ってんでしょ。 今回だってサカキさんのお誘いが無かったら・・」

「・・・・・・・誰サカキさんって」

「社長」





サラッと一言で言ってのけた母の言葉に、私は間抜けながらも あんぐりと口を開けてしまう。

(しゃ、社長だって・・・?え、何この冗談 笑えない)

確かに母は出世して社長とも面識があるだろうけど、でも何でそこで私に婚約のお誘いがくるのかが分からない。
婚約だって、もっと他の綺麗で知的なお姉さんを選べば良いものを 何故わざわざ平々凡々な私をサカキさんは選んだのか。
「いったい何が何なのか・・・」と、私が混乱していたら、母がソファーに寝転がりながら眠たそうに私を見る。





「ふぁあ〜・・・。まぁアレよ、何でアンタなのかとか婚約についての詳しい事は私が知ってるから、アンタは適当に「うふふ」って笑って
 その中の3人から1人選べば良い訳。簡単に言えば流れにまかせて、私にまかせればオールオッケ〜・・・
 あー眠い、ってかお母さん寝て良い?おやすみ。」

「ふざけんな」




ツッコミどころ満載すぎるぞこのババア、トド見たいにデカデカとソファーで寝やがって。娘の人生を何だと思ってるのか。
しかも「詳しい事は私が知ってるからアンタは流れで」なんて納得いかないに決まってる。

私は今にも寝てしまいそうな母の肩をガシリッと掴み、耳元で大きく叫びながら訴えた。




「あのねぇ!!そんなんじゃ私は納得しないから!!確かにイケメンで素敵な3人だけど、私はまだ高校生なのよ?
 卒業してからって言ってもまだ全然早い話すぎるし、残りの学校生活だって・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・」

「な、何よその目は・・・!!」

「・・・・・アンタさぁ、イケメンと不細工。どっちが好き?」

「は」

「どっち?」

「・・・・・・・・・・・・・い、イケメン・・・?」

「でしょ。この写真の人、かなーりモテるし かなーりお金も稼いでるし、性格だってさして問題ないって言われてるし」

「・・・・う、うん」

「社会に出たらこんな人はどこぞの美人な人にがっさり横からとられて惚れても絶対無理、爪をかじってみてるだけ・・・」

「・・・・・そうだね」

「まさにアンタにピッタリな人生・・・・・可哀想」

「は・・!?そ、そんな事・・・!!」

「だけど、そんな貴方にオススメするのがこちらっ」




バンッ、といつの間に手元にやったのか。先程の3人の写真を私に向け、母はいつもにまして気合十分に声を上げた。
あーなんだっけ、こんなシーンをテレビで見た様な気がする・・・。確かジャパネットなんちゃらだったような―――
まるで某テレビCMかのような再現をしている母を唖然と見つめていたら、再び机をバンッと手で叩いて私を鋭く睨んできた。





「このイケメン3人は無条件で貴方との婚約、または付き合いを保障してくれます」

「む、無条件・・・」

「しかもすでに、残念な事に貴方の顔はあちらに認識されているので会って幻滅される心配は無「何か言ったか」

「・・・ゲフン、ゲフン、いや失礼。何でも」




わざとらしく咳き込む母を、私はじと目で軽く睨みつけてやる。
今絶対に『残念な事に』って言ったよこの人。しかも軽く強調されて。

だが母は 密かに怒りを堪えている私を気にかける事無く、先程のノリで私に再び問いかけてくる。




「そして何より一番安心なのは、1ヶ月の期間があるって事」

「・・・・・・期間って何、初耳なんだけど」

「ゴメン良い忘れてた。・・・・あーはいはい睨まないの。
 まぁ簡単に言うとその期間過ぎて貴方が気にくわなかったら婚約しなくても良いし、逆に気に入ったら婚約でも何でもすれば良いって話。はい終わり」

「・・・・そ、」

「・・・ん?」

「それを先にっ―――」




言えよこのドあほ!

私は怒り狂う気持ちで母を怒鳴れば、相手は「ははははは」と馬鹿にするように笑っていた。
うわぁムカつくこのオバア。 何、そんなに娘苛めて楽しいのかよこの悪趣味野郎。

私が拳を握り締めながら睨んでいると、母は何事も無かったかのように写真を棚にしまい、ソファーから立ち上がった。
そしてコーヒーの入ったマグカップを手にするなり、さっさと自分の部屋へと戻ろうとリビングから出て行く。




「じゃぁ明日頑張ってね。帰り遅くても怒んないから」

「・・・・・・え、何が」

「何って、え?」

「・・・・・は?」

「ん?」

「おいボケんな、疲れる」

「ノリの悪い娘だわ。 明日は写真の人とご飯食べに行くって言ったじゃない」

「いや言ってないじゃん!!!!」

「ナイスツッコミ。そうこなくっちゃ」

「しばくぞ」




私が持っていた雑誌を投げる体勢にすれば、母は「ゴメン」と瞬時に謝ってきた。
そして何処からか出したのか、一枚の紙を私に差し出して 今度こそ母はさっさと部屋から出て行く。




「それが一様その人たちとの食事の予定日だから、読んどいてね。あとは自分達で会う日決めるなんなりご自由に。じゃぁおやすみ」

「・・・・」



バタンと閉ざされたドアの音を聞きながら、私は静まり返った部屋で暫く一人で固まっていた。
そして渡された紙を静かに見てみると、明日から3日間の食事の日程が書かれている。

明日はアポロさんと言う人。次の日はランスさんと言う人。そして最後にラムダさん。
一人ずつ連続で食事をしなくてはならないと言う、初めての事に私の頭は破裂しそうだった。
ただでさえ婚約の事を今話されたばかりなのに、いきなり明日から食事に行けと・・・?無理すぎるにも程がある。



私は近くにあったクッションを母の部屋に位置する壁に投げつけてやれば、隣から「うっさいわね!」と母の罵声が聞こえた。
それを無視し、また再びテレビを見ながら 私は床に寝転がり 目の前に映る画面に集中する。






















カリヨンの鐘の音






















明日になって、夢でしたって なんないかな。
























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始まりました新連載。まさかの婚約ネタ・・・自重しますorz←
アポロさんとか、ランスさんとか、ラムダさんとか・・・

年上設定で迫られたいな^p^(ただの願望←

カオスな物語ですが少しの間お付き合いお願いします^^


10/02/8

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