とおせんぼ
「さぁ、いきますよワタルさん!」
「ああ、この竜使いワタル、全力で相手になろう!」
彼女が来る度に安堵する
彼女が勝つ度に恐怖する
チャンピオンの間に据えられた王座を彷彿させる無駄に豪奢な椅子に座りながら、オレはナマエちゃんがここへやって来るのを待っていた。
(本当はもうオレがここに座ってるはずないのに、な)
また彼女は一匹も瀕死にすることなくオレのもとへたどり着くに違いない。
そう、『また』
ナマエちゃんはすでにオレを撃破しているのだ。
一度ではなく、何度も。
なのにあの子はチャンピオンも殿堂入りも興味ないと、いつもオレを倒すとすぐに姿を消してしまう。
「また来ますね」
オレに微笑みかけながら
その愛らしい笑顔を心に描くと、甘くも苦い胸の締め付けを感じた。
彼女が来る度に安堵する
(またオレに会いに来てくれた?)
彼女が勝つ度に恐怖する
(もう二度と来なくなるのでは?)
いつからだかオレはナマエちゃんを好きになっていた。
初めて出会った頃からなのか、それとも絶対的な存在として君臨していたチャンピオンの座から(実質的に)引き摺り落とされた時からなのか。
いずれにせよ、オレは彼女が自分の目の前からいなるなるのが酷く恐ろしいのだ。
「ワタルさん?」
はっ、とうつ向かせていた顔を上げると、挑戦者がくぐるゲートの前でナマエちゃんが首を傾げていた。
はは、もう四天王を撃破してしまったのか。
「随分と早いご到着だね」
「あは、自己タイム更新しちゃいましたよ!」
此方に歩を進めながらナマエちゃんがほら、とストップウォッチを見せてくる。そこに表示されたデジタルの文字に思わず舌を巻く。
なるほど、確かに早い。
イツキが落ち込んでいる姿が容易に想像できてしまい、内心苦笑する。
そして、今度はオレの番か。
マントを腕に絡ませて腕を広げる。雄々しい竜の翼のように。ダサいから止めたら?とカリン達に言われたこともあるんだが、どうにもこの癖は完全には治らない
「さあ、今度はオレを撃破する自己タイム更新を挑戦してみるかい?」
「あ、それいいですね。最後のいい思い出になるかも!」
…なんだって?
ガツン、と胸を思い切りハンマーでぶん殴られたような衝撃が走った。
ずるり、と掲げた腕が重力に従って下に落ちる。
時が、きてしまった?
「ナマエちゃん…最後、って?」
「ああ、そろそろカントーに行こうかなと思いましてね!いい加減ワタルさんもわたしの相手するのうんざりしたでしょう?」
ただ純粋にそう言いながら笑う彼女に激しく首を横に振るう。
冗談じゃない!一度だってオレは彼女を煩わしいだなんて思ったことはない。
むしろその逆で、ナマエちゃんが来る度に青春真っ盛りの男子みたいに胸が踊ったというのに。
ぽつり、と唇から言葉が漏れた。
「行かせないよ」
「え…ワタル、さん?」
理解できずに目を真ん丸にしたナマエちゃんをしっかりと見据えたまま、また言葉を紡ぐ。
「君が好きだから、行かせたくない」
ああ、なんてムードも色気もない告白だ!
内心頭をかきむしりながらも表ではベルトからボールを外し、ナマエちゃんに向かって突き付けた。
「だからこの勝負、絶対に勝たせてもらうよナマエちゃん」
不敵に笑うオレを見て、彼女は顔を赤く染めながらも強気に微笑んだ。
とおせんぼ
(わたしもワタルさんのこと好きですよ?)
(えっ!?)
(…じゃなきゃ何度も来ないですって)
2009/11/18
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りんご様より素敵すぎる頂物を貰いました!^^///
もうりんご様が書かれるワタルさんが大好きな私にとってはもう
幸せすぎてウハウハでございます^p^w笑
素敵な小説に相互リンク、どうも有難うございました!
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