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「よお、待たせたなあ」
そう言ってしたっぱ達がぞろぞろとやってきた。
皆見たことない顔だからか、無駄に緊張してしまう。
そんなカッチカチに固まってしまった私を見かねたのか、隣に立っていた後輩君が軽く耳打ちをしてくれた。
「この人達はこの地下基地が出来てからずっとここに居た人達ですよ。先程まで訳があっていかりの湖に居ましたが」
「あ、じゃあ初対面ですよね・・・・どうも」
入団してから本部基地にずっといた私と、そして私達が入団する前からずっと此処にいたという彼等。
同じしたっぱとは言え、何か緊張してしまうのだ。見た目も何処か、私より上に見えるせいもあるのか。
だが彼等は威張ることもなく、私に二カッと笑って頭を撫でてくれた。
「おう、よろしくな。新人」
「はい!」
い、癒しだあ!
今では彼等がキラキラ輝いて見えて仕方がなかった。何だろう、この至福のひと時は。
カッコよくて可愛い先輩したっぱ達に酔いしれていると、その中から何人かが前へと出て来て「なーなーっ」と声をかけてきた。
「お前ってさあ、噂の新人なんだろ?」
「あ、マジかよ!コイツだったのかあ」
「へー、俺もっとゴッツイ女想像してたけど・・・なんだ普通じゃん」
「いいなー、女団員って皆怖いけど。お前みたいな奴なら大歓迎だぜー」
「なあなあ、ランス様って本当にナルシストなのか?お前、仲良いんだろ?」
な、なんなんだ彼等は。てか、仲が良いとかないないない。天地が逆さになってもないないない!
突然の猛質問攻撃に、私は怯んでしまっておもわず黙り込んでしまった。いや、寧ろ驚きすぎて空いた口が塞がらない。
すると更に面白がったのか、興味深々といった顔で彼等は私の近くまで寄ってきた。
「今回の作戦でも、宜しく頼むぜ!お騒がせ新人!」
「おっ・・・おさ?!」
「なんてったって俺ら久々の幹部様との仕事だからなあ!良い所見せないとな!お騒がせ新人」
「侵入者は絶対俺らが通さない!その為に来たんだろ?」
「お前のバトルの腕前、見せてもらうぜ!」
ガシガシと頭を撫でられたり、肩を組まれたりと、彼等がかなりフレンドリーに私に接してくれるのはいいが、
先程から変な宛名で呼ばれたり、バトルとか侵入者とかなんなんだろうか。
私の知らない所で色々な話が進んでいくなか、未だに彼等からの熱い歓迎を受けている私。
こんな状況でも冷静な後輩君は、そんな私達を見て「でわ」と声をかけてきた。
「そろそろ配置の説明でもしましょう」
そう言うなり、先程のおちゃらけた空気は何処へやら。彼等は一斉に壁際に一列に並び始めた。
私はそんな切り替えの早さに、ただ呆然と目を点にしていて見る。
どうでもいいけど、このぐしゃぐしゃになった髪をどうにかしたいなあ。
*************
「では各自の担当についたペルシアン像が警報を出したら、順番に侵入者を止めに入ってください」
「おう」
「あ、あのお・・・」
皆が納得して作戦の内容を聞く中、私は恐る恐る手を上げた。
そんな私に、話の中心となっていたリーダーっぽい先輩さんと、後輩君が「どうしました」と言って私の顔を見た。
「侵入者って・・・なんですか?」
「はあ?お前話聞いてないのか?」
「流石はお騒がせ新人だよなあー、よくいろんな所フラついてたって話しだし」
「そりゃ情報も入ってこねーわけだ」
「す・・すみません」
何故私が謝らなくてはならないのか。てかそもそも、こういった話は事前に詳しくしておいてほしいな。
チラリと後輩君に、私は視線を向けた。が、当の本人はいたって涼しい顔をしていた。
畜生、と思って握り拳をギュっと握っていると、隣にいた先輩さんが「あのなあ」と言って説明するように人差し指を立てた。
「最近ロケット団を邪魔するガキ二人の存在、それと俺らの復活活動を知って邪魔する奴等・・・いつ来てもおかしくねえだろ?」
「そうそう。それに、今回は幹部様が二人もいるんだ。同じ場所で失敗なんて見せられないだろ?」
「えっ、ちょっと待って!」
幹部様が、二人?!そんなの聞いてない。
勢いよく後輩君へと視線を向けるが、彼は「どうしました」と言って首を傾げた。
「私、アテナ様しか聞いてないんだけど・・・」
「そうでしたか?ちゃんと「幹部様達」って言いましたが・・・」
「そ、それはしたっぱとかとじゃ・・・」
「ちゃんと私が渡した資料見たんですか、先輩。今回の計画責任者の名に、アテナ様とラムダ様の名前が載ってる筈ですが」
「らっ・・!?」
ラムダ様だって!?
私は驚きで頭の中が真っ白になってしまった。いやだって、てっきりあの女神様しかいないと思っていたらの出来事だ。
癒しの人物と共に、あの色魔がやってくると思うだけで背筋が凍りつくような感覚に陥ってしまう。
そしてこの時、彼が言っていた意味を少しだけ思い出した。
(次があるって、こういうことか・・・・)
まんまとやられた気持ちになって、私は落胆する。
あの、おちゃらけ幹部様は私が此処に配属されるのを、どうやらあの時から知っていたと言うことか。
そうして一人で落ち込んでいると、隣にいた先輩がまたしても私に声をかけた。
「お前は俺と同じペルシアン像の担当だから、まあお互いに頑張ろうぜ!」
「え・・・あ、いえ、あの、頑張るって」
「バトルの腕前、見せてもらうぜ」
「えええ!?」
私、そういえば今ポケモンもっていなかった!
そんなことを今更思い出し、私は途方にくれた。どうしよう、素手で挑もうか。だって今更来ておいて「手持ちゼロです」なんて死んでも言えない。
そうやってアタフタしているうちにも、時間は刻一刻と迫ってきていて。
悲しくもタイムリミットは過ぎてしまい、地下のアナウンスから「緊急放送」という声が鳴り響いた。
『幹部様が到着。これよりセンサーのスイッチを入れます。各自持ち場に着いて下さい――繰り返し・・・』
ざわつく中、皆は各自持ち場に着こうと動き出す。
「じゃあそう言うことで、よろしくな」と言って、私達も持ち場へと移動を始めたが、何故か一人納得できなかった。
もし、もしも彼等が来てしまったら、私は戦わなくてはならない。それも、ポケモンなんて持っていない。
それどころかそれがバレて、しかもまた馬鹿にされたあげくに任務失敗。今度こそ、罰が下りそうだ。
それと、肝心な事がもう一つ。
(コトネちゃん達が来ちゃったら・・・ロケット団ってバレる)
それはなんとしても避けたい。面倒と言う事もあるが、何故か私の中に残る正義感がそれを許すことが出来なかった。
理由があるとはいえ、一時的にも入ってしまった悪の組織。そんな一員になった姿を、今の彼女達にはどうしても見せたくはないのだ。
そう思ったら、自然と足は動き出していた。
勿論、行く先は出口ただ一つ。
(此処から出て、なんとか別の場所でやり過ごそう)
したっぱのしたっぱである私が一人消えたって、彼等には痛くもないだろうし、何より案外気付かれもしないだろう。
それぐらい今の私は非弱で、ちっぽけな人材だ。何もできない、ただの『したっぱ』だ。
悔しいという思いがあるが、これが一番の選択だ。あとで後輩君に怒られるかもだけど。
静まりかえった廊下を、私はそんな事を思いながら駆け抜ける。あそこの階段を上れば、確か上へ出られた筈だ。
「ん?」
突然走っていたらカチッと音が聞こえ、私は足を止めた。
嫌な予感がする。それも、凄く嫌なことが。
つくづく運のない、または馬鹿な女だろう。先程注意されたことを、私はやってしまった。
それは目の前にいるペルシアン像の目が赤く光ったのを合図に、私に宣言される。
警報があちらこちらで鳴り響き、基地内全体に赤いライトが点滅する。
侵入者の合図であるサイレンに皆が驚き、何処からか「もう来たのか!?」という声が聞こえた。
そんな声を、私は冷や汗を垂らしながら聞いていた。ヤバイ。
そしてバタバタと走る足音が聞こえ、彼等が私を見つけた瞬間。物凄い顔を向けられた。
「おっまえかあああああ!!新人んんん!!」
「ご、ごっごごめんなさいいいい!」
「こんな所までお騒がせすんなよ!!」
泣きながら、私は無意識の内に彼等から逃げ出していた。
*****************
「アテナ様、ラムダ様。お疲れ様です」
「お待ちしておりました!」
「あら、お出迎えどうも」
ニッコリと微笑む幹部様に、男性陣は皆デレデレしている。
ただ面倒くさそうに欠伸をしたもう一人幹部だけは、興味なさ気に首をポキポキ鳴らした。
「どいつもこいつも元気だなー・・・此処までくるだけでもう俺様疲れたっつーの」
「あら、昨日までサカキ様の物真似。楽しそうにやってたじゃない」
「なっ・・!?おまっ、見てたのか!」
「ふふ、結構似てたわよ」
賑やかそうに話す幹部を、したっぱ達は遠目で羨ましそうに見つめる。
彼等にとって、幹部とはそれ程までに憧れな人物なのだ。此処にいた彼等なら尚更のこと。
久しぶりに見ることの出来たチョウジの地下班のしたっぱ達は、涙を目にためてこの幸せを感じ取っていた。
だがそれとは逆に、幹部と共に本部基地からきたしたっぱ達は少しだけ面倒くさそうに溜息を吐いた。
「あーあ、俺休みねーのに・・・これ終わったらすぐラジオ塔だからなあー」
「だよなあ、俺もわざわざチョウジに来るなんて・・・・運がねえっつーか」
「休みほしいよなあ」
はあ、と皆が思い思いに愚痴をもらす。そうして慰めあっていると、後ろからドンッと誰かが倒れる音がした。
嫌な予感がして皆は振り返る。するとそこには案の定、愚痴をもらしていた彼等の背中を踏みつけている、顔馴染みのしたっぱの姿があった。
「幹部様の前で随分余裕だなあ?ひゃひゃひゃっ!」
「な―――、おおおおお前来てたの!?」
「あー?一番後ろでずっと付いて来てたっつーの、『誰か』が逃げださねーよーに」
「うっ」
悪魔だ。
皆思ったことは同じだろうと言いた気に、それぞれ顔を合わせた。
あのニヤリと笑った時に見える彼の八重歯は、例えるなら魔獣の牙か何かだろう。
同じ人類としてのイメージが消える程に、彼の印象は酷かった。流石はラムダ様一押しのしたっぱ。これで成績優秀なのがまた周りの者を黙らせるのだ。
だがそんな彼も、何故か一瞬だけ黙ってしまった。
それは地下の廊下の、ずっと先から走って来る数々の足音が聞こえ始めた頃だった。
何事かとその場にいた全員が廊下の先へと振り返る。すると暫くして、その姿は少しずつ見え始めた。
「ごごごゴメンなさいいいいい!」
ビュンッと風のようにラムダとアテナの間を通り過ぎていった一人の女性団員。
そしてその後ろを、数人の男性団員達がもの凄い形相で追いかけて駆け抜けていく。
走り去った衝動なのか。数秒後に遅れてやってきた風にふかれながら、その場にいたしたっぱ達はポカンと口を空けていた。
肝心の幹部様といえば、何が起こったか分かってないような顔をして固まっていた。
すると遅れてやってきた一人のしたっぱが、二人の幹部を見つけるなり頭を下げる。
それはアテナが先日、名前に監視役として付けていた有能のしたっぱの姿だった。
「すみません、アテナ様」
「い・・・いったいアレはなんなの」
「アイツが・・・いえ・・。名前先輩が、」
「名前が?」
「ペルシアン像のセンサーに自らひっかかってしまい・・・周りの奴等と騒動に・・・」
言った本人が恥ずかしそうに下を向きながら、「すみません」と言って謝ってくる。
だがそんなのもお構い無しに、ラムダは腹を押さえるなり盛大に笑い出した。
「ふ、・・・あっはははは!おっもしれーな嬢ちゃんはっ」
「な・・・なんて子なの」
少し涙目なラムダに、目が点なアテナ。
そんな幹部の後ろで、地下にいたしたっぱ達は「噂どおりのお騒がせ新人だな」と呆然と立ち尽くしていた。
ペルシアン像と少女
「ぶっははは!ばっかじゃねーのアイツ!」
「さっすが本部で有名な馬鹿新人だな」
「あー腹いてえ」
他の部屋にいたしたっぱ達も、パソコンのモニターに映っている映像を確認しながら腹を抱えていた。
センサーを作動させた直後の騒動は誰も予想できず、最初は驚いたが冷静に考えてみれば何とも可笑しな話だ。
そして少し笑いが落ち着いてきた頃。したっぱの一人が椅子から立ち上がり「こういう奴がいるから楽しいんだよなあ」と言ってニッと笑う。
「さて、」
可愛い後輩にいい所見せんぞ、お前等
一人がそう言えば皆「おう」と、気合を入れ直して各持ち場へと歩き出した。
仕事と言うには気の抜けた雰囲気をしているが、これでもなく子も黙るロケット団。
だがロケット団復活を目指している彼等も、退屈な毎日からいつも抜け出さしてくれる彼女に、何かを期待せずにはいられなかった。
少なくとも、彼女でこの組織の何かが変わろうとしていた。
「あの新人女次第では・・・全力で応援してやってもいいか」
「きっとアイツ、自分が狙われてるだなんて知らねーだろうしな」
モニターに映る少女を見て、何かを考えながら彼等は頷いた。
NEXT→
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ついに基地だよ基地!始動するね、何かが((
次から新章開始です*
更新遅くなってすみませんが、また次も宜しくお願いします^^
11/07/01
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