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「先輩」

「あ、何だよ遅かったじゃねぇか」

「せ・・・先輩!」

「うぉっ・・!?」






部屋のソファーでぐったりとしていた先輩に、名前はタックルする様にその腹へと飛び込んだ。
先輩はいきなりの事で凄く驚いていたが知ったこっちゃない。
あぁ、先輩と同室で良かった。

ランス様に苛められてからか、先輩を見ると凄く癒される気がしてくる。




「先輩・・・馬鹿にしてすみませんでした」

「あ・・?何がだよ」

「ヤドンの件で・・・シッポを切って売る仕事だったんですよね」

「お前・・・・なんでそれを?」

「自分も今さっきランス様の所で言われてきました」



先輩のお腹に顔を埋めたまま喋ったから分からないが、きっと驚いた顔をしてるんだろう。
くぐもった声で、ここまでの事情を説明すると上から深いため息が聞こえた。



「やっぱ嫌だよな・・・ポケモンの体を切るなんて事」

「だから先輩あんなにテンション低かったんですね」

「当たり前だろっ、俺だってランス様の部下じゃなかったら喜んで他の仕事に熱中してたぜ」

「あー、自分もそう思います」



ああ、こんなにも先輩と意気投合するなんて朝の自分なら思わなかっただろう。
態度は俺様だけど、こんなにも優しくてポケモンを大切にする人なんだ。
きっとロケット団じゃなくても他にも就職場所はいくらでも有っただろうに。

そんな事を思ってたら先輩はいきなり「やっぱりアレだよなー」と喋り始めた。





「あの人、ロケット団で最も冷酷と呼ばれた男だしな」





うわ言の様に呟いた先輩の言葉に、私は勢い良く顔をバッと上に上げた。
今、何て言った・・・?

目をパチパチ瞬かせていたら、視線が合った先輩が「なんだ」と私に問いかけた。





「お前だって知ってるだろ、よく自分で『ロケット団で最も冷酷と呼ばれた男』って言ってるの」

「はっ・・・!?じっ・・・・自分で・・・・」

「ああ」

「ロケット団で最も・・・冷酷」





それを言ってしまうのか



不意に私の中の何かが音をたてて崩れたような気がした。
なんだかんだ言って先程は馬鹿にしてしまったが、やはりどこかで『彼』の理想図を勝手に作っていたのかもしれない。
それが今、たった一言により逆転したのだ。

黙り込んだ私を不思議そうに先輩は覗き込んだ。ごめん先輩

もう無理です


今まで我慢して堪えてきた物が、もう限界を迎えていた。
それと同時に口に溜め込んでいた息が一気に漏れる。



「ふっ・・・あっはははははっはっ!」



頭の中で、『彼』であるランスの顔が暗闇の中浮かび上がった。
自信満々な態度に、偉そうなあの顔が。
わざわざ人に言ってしまうなんて・・・・単純と言うかなんというか



「ばっ・・・馬鹿すぎるっ・・!ってかここまでくると可愛く思えてくるっ・・!!」



駄目だ、完全にツボに嵌ってしまった。
お腹を抱え込んで爆笑している私を、先輩は目を見開いて見てきた。
先輩が驚くなんてなんとも珍しい。

目に溜まった涙を指で拭うと、ボヤっとした視界がハッキリと映る。



「お・・・お前どうした・・!?」

「だって・・・!じっ・・・自分で言っちゃっ・・・冷酷っ・・ブフッ・・!」

「お・・・おい大丈夫か・・?」

「ええもうそりゃね!・・というか先輩の方こそ大丈夫ですか?」

「は?何がだよ」




首を傾げる先輩に、私は未だ震えるお腹を必死に手のひらで押さえながら落ち着かせた。
これを笑わない方が可笑しな話だ。



「先輩はこの話を聞いて笑えないんですか?」

「え・・・そりゃぁ、俺はもう本人の口から言うのを聞きなれたからな」

「そ・・・そんなに毎回・・・っ」

「あぁ、そりゃぁ名を名乗る度に言ってたぜ」

「え・・・ええええっ」

「しかも一時期それが部下達の間でブームになってな。皆で物真似大会開いては朝まで爆笑してたぜ」



顔がニヤついてるあたり、まんざら嘘でもないだろう。
そうか、きっと先輩も最初の頃は今の私みたいな感じだったんだろうな。大会開いちゃうぐらいだし。
私は先輩が言った「物真似大会」が頭にひっかかり、気になったので少し質問してみた。




「今でもその物真似できますか?」

「あ?・・・まーできるっちゃあ出来るかな」



な、何だって?



「やって下さい!!!」

「は、今此処でか?!」




驚いたため多きな声を出した先輩に、私は「勿論!」と言葉を付け足した。
いやだってこんなのめったに見れないし・・!!レア過ぎる上になんだか面白そうだ。
あの上司の決め台詞(?)の様子を再現してくれるんだしね。




「先輩!早く早く!」

「何かお前今まで見たことないぐらい、イキイキしてんな」

「え、そんな事ないですよ。ほら早くやって見せてくださいってば」



無理やり先輩を立たせて、私はどっしりとソファーに体を沈めた。
これやる側は相当恥ずかしいんだろうな。まぁ私と先輩の二人だけだけどね。
期待の眼差しで見つめる私に、先輩は「ったく」と深いため息を漏らした。



「じゃ、久しぶりにやるか」



おおっ!と体を前のめりにして私は先輩に食い入る。

先輩は帽子を深めに被り、髪を手で前に出すように集め髪型まで真似してくれた。
私に背を向けて、声を少し出して練習している。いよいよだ。



「私は・・・・・」



スッとその背中から顔を少しだけ覗かせ、序々に体をこちらに向ける。
細めた目はあの幹部のように鋭く、まるで雰囲気まで変わってしまったかのようだ。
声も低すぎず高すぎず、丁度良く部屋と私の耳に響いた。



「私はロケット団で最も冷酷と呼ばれた男」



フッと不適に笑って帽子を被り直し、華麗に腰からモンスターボールをパシッと手に持つ。
今おもいっきり何処かの嫌味上司の顔がドドンと頭の中で思い浮かんだよ先輩っ。
そして気を良くしたのか、先輩は更におまけとばかりに決めポーズまでして、軽くウィンクをした。
うおおおおお・・・!!


「似てるだろ?」

「す・・・凄い・・・!!ら・・・ランス様っだ! だけどっ・・・」

「フッ・・・・」

「ブっ・・・!」





「「これはないわ」」





あっはははと大声で二人して床に笑い転げた。
いやこれは笑わざる得ない・・!しかも結構似てたのがまたこれがツボだ。
今回私は先輩の意外な特技に気付いてしまった。いやー実に面白すぎる。




「う・・・!ウィンクしちゃったよこの人っ・・!!あ、でもありえるかもっ・・・ら・・ランス様だし・・・ぶふっ」

「だな!しかも自分で言っちまうとかやべえよなっ・・あっはははは!」

「私はロケット団で〜・・・」

「やっ・・やめろ!!笑い死ぬっ!!!ひっー」




ああ駄目だ、これは明日腹筋崩壊決定だな。

そう思いながら、二人でずっと笑い続けていたら後ろからふと、誰かの気配がした。
あ、ヤバイ声が五月蝿すぎて隣の奴が文句でも言いに来たか。
そう思って私は未だに笑いながらも、ドアのある方へと視線を向けた。



「こんばんわ、何やら随分と盛り上がってるようで」

「「・・・・・・・・・」」



一瞬にして五月蝿かった部屋が しん・・・ と静まり帰る。
しまった、急いで部屋に入ったからドアが開けっ放しなのに気付かなかった・・・!!
見たくなくても、自然と名前達の視線はその人の元へと行く。

これ本日何度めなんだろう、確か2回かな とひしひしと伝わる強い視線を感じつつ名前は思った。
そこには何を考えてるのかいつも解らない表情をしている、アポロ様の姿が。
無表情のまま足を交差させ、壁に少し寄りかかるその姿は誰よりも優雅だなと思う。


「すみません、ドアが開けっ放しでしたのでそのまま失礼しますね」

「え、・・・・あ・・・・いやはいどうぞどうぞ」



自然と頭が下り、お辞儀をしてしまうこの現象はいったいなんだろうか。
どうしようかと隣にいる先輩に視線を向けていると、アポロ様は私の目の前にきて足を止めた。
え、マジですか。


「あ、あの・・・なんでしょうか」

「貴方にはランスの部下を辞めてもらうので、そのかわり他の幹部の部下として働く事になりますが・・」

「え」

「宜しかったでしょうか?」



質問してくるアポロ様の顔をしっかりと見たまま、私は「はいっ」とすぐさま返事をした。
わざわざこれを言いにアポロ様は来てくれたのか・・・なんかちょっと意外だ。
何だか少し驚きながらも、名前は「良い人だな」と思ったりした。

そして私の確認を得たアポロ様は用が済んだのか、後ろを向きさっさと部屋を出てこうとする。



「アポロ様って・・・考えてることがいつも解んねぇよな」

「聞こえますよ先輩」

「おっと・・・危ねぇ危ねぇ」




本当に危ないと思っているのかこの先輩は。
軽く睨みながら、私は先輩の肩を軽くコツいた。

そんな私達のやり取りも気にせずに、部屋のドアをきちんと閉めて出て行こうとするアポロ様はやっぱり律儀だと思う。



「そういえば・・・」



消えかけた背中が振り向き、ドアからその姿を再び現すアポロ様。
そして何か面白そうな物でも見るかのような目で私達を見下ろし、その顔は惚れてしまうのではないかと思うほど綺麗だった。



「なかなか似てましたよ」



私達はアポロ様の口元が緩んでいたのを、見逃さなかった。







先輩のせいですよ









(ランス様の物真似・・・・なかなかだってよ・・・・)

(・・・・・・・これは明日先輩殺されますね、上司ですし)

(いやお前もだかんな)

(いや私もうランス様の部下じゃないですし)





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なんかランス様が可哀想・・・げふん
ランス様が可愛くて仕方が無いんですが、私はいったいどうしたら^^←


09/11/10

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