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27











私は時々、嫌な夢を見る。



そして必ず決まってその夢には、貴方が出て来るんだ。





「名前」




何年も前の話。
私がまだ、幼かった頃の






ずっと昔の話だ。


























夢の中の






















「ロケット団って、怖い」





私がそう一言呟けば、書類に視線を向けていた彼が私の方を見つめてくる。
何事かと彼は眉を少し寄せたが、すぐに視線を手元に戻し 小さく笑った。




「じゃぁ、私も怖いのか」

「ううん、それはないよ」

「それは、おかしいな」

「なんで?」

「そもそもロケット団は、全て私の考えで動いている組織だからだな」




そう言って彼は書類をまとめるなり一息しようとコーヒーの入ったマグカップに口を付けて 深い溜息を吐いた。
すると隣に居た名前が背伸びをし、彼の頬まで手を伸ばすなり ペチペチと叩く。

何事かと彼が横を向けば、そこには心配そうな顔をして覗き込んでくる名前の姿があった。





「疲れてる」

「いつもの事だ」

「じゃぁ、なんでお仕事するの?」

「仕事してはまずいのか?」

「ううん、・・・・・ただ。ポケモンが可哀想だよ」





そう言う名前の顔は今にも泣き出しそうで、つん と指先で突いてしまえばそれだけで崩れ落ちそうな程だった。
だがその顔を暫く無言で眺めた彼は何をするわけでもなく、ただ静かに頷きながら笑っている。




「・・・そうだな」

「・・・・本当にそう思ってるの?」

「思わないと駄目なのか」

「別に・・・」




ムスッとして床を睨んでいる名前を、彼はクスクスと笑いながらその頭を撫でてやる。
すると名前は隣で寝ているペルシアンに抱きつきながら、彼を見上げて口を尖らせた。




「真面目に働いている人より、ドジしてちょっとアホな人達の方が好きだなあ・・・」

「私は逆だがな」

「ムッ・・・、そうやってどんどん酷い人が増えてくと ロケット団ってただの残酷集団になっちゃうよ」

「・・・なんだそれは」

「完璧な人達しか居なくなると、絶対にロケット団って怖くなるもん。私、それ凄く嫌」

「だから出来の悪い奴でも、クビにせずに残してやっている私は優しいと思うがな」




今日もポケモンの捕獲を失敗し、ボロボロになって帰って来た沢山のアホな部下達の顔を思い出しながら言った彼の台詞に、
思わず名前の顔も少しだけ緩んでしまった。

確かに、彼はそこの辺は人間として ちゃんと周りを見れている人だと私は思う。
だからこそ、ロケット団に入りたいって言う人も沢山居るし 彼にならついて行こうと思える人も沢山居る。


私はペルシアンの頭を撫でながら彼をじっと見ていると、不意に後ろで もぞもぞ と何かが動く音が聞こえ思わず振り返ってしまう。
するとそこには眠たそうに布団から起き上がった少年があくびをし、ゆっくりとその重たい瞼を擦りながら目を瞬きしている姿があった。

そこでようやく どうやら丁度お昼寝の時間が終わったらしいと言う事に名前は気付き、
そのままボヘーと眠たそうに動かないで居る彼の元へと歩くなり、赤い髪を軽く手で梳きながら名前は笑う。






「おはよう、シルバー」

「ん・・・・おはよう、」

「よく眠れた?」

「うん、・・・今日は凄く暖かったから」





ニコッと、まるで天使かのような笑みを浮かべている彼の姿に 名前は思わずその体をぎゅーっと抱きしめてしまう。
苦しそうな顔をしながらも抱き返してくれる彼の姿が愛おしくて、小さな手の片方は私の頭を撫でていた。





「お姉ちゃん大好き」

「私も大好きだよー、シルバーっ」

「・・・・そのへんにしておけ、死んでしまうぞ」





ぐいっ、と服を引っ張られて 私とシルバーはすぐに離れてしまう。
折角良い所だったのに と名前は恨めしそうに後ろを振り返ったが、そこには何処か楽しそうな顔をして笑っている彼の姿があった。

すると彼はそのまま前に視線をやり、書類の束を目の前に居る人物に手渡した。




「・・・・と言うわけだ、頼んだぞ」

「はい」




いつのまに居たのか、彼の机の前には一人のしたっぱの人が無表情で立っていた。
二人は仕事の話でもしていたのか、内容は確認済みらしく したっぱの彼はすぐさま部屋を出てこうと後ろを振り返る。

だがその時 水色の瞳が私達を捕らえ、そして微かに目を細めながら相変わらずの表情でしたっぱの彼は喋った。





「・・・可愛いお子さんですね」

「当然だ。誰の子だと思っている」




と言いつつ、超棒読みで言った彼の台詞に 私は思わず「ねぇ」と服を思いっきりひっぱった。
それでも彼は何事も無かったかのように書類に目を戻しているだけで、こちらに目を向けないようにしているのが相変わらずムカつく。
すると前で呆然と立っていたしたっぱの彼が突然こちらにやって来て、何処から出したのか手には二玉のあめがあり それを差し出された。





「よかったらどうぞ」

「あ、有難う・・・・」

「有難う、お兄ちゃん」

「いえ、」




フッと一瞬彼が笑い、水色の髪を隠すように帽子を深く被り直した姿を見て 私は思わず息を呑んだ。

こんな綺麗な髪をしている人がこのロケット団にもいただろうか。今までずっとこの部屋で暮らしていたが、来る人はどれも同じような顔ばかりだったのに。
と、私は不思議に思いつつ無言でしたっぱの彼を見つめているがそれも束の間、あっと言う間に彼は部屋から姿を消してしまった。
少し残念と言うかなんと言うか、私は複雑な思いで部屋のドアを眺めていると不意にシルバーが私の服を掴んだ。






「かっこよかったね」

「そうだねー。あんな人居たんだね」

「・・・大きくなったら、ロケット団に入りたいな」

「そっかそっかぁ、じゃぁ大きくなったら一緒に入ろっかーっ」

「うん」







軽いノリで話ながら わしわしっと髪を撫でていると彼は嬉しそうに私に抱きついてくる。
私はそんな幼い彼に心奪われながら、緩みきった顔を隠せずにニヤついていると ふと上から『フッ』っと笑い声が聞こえた。

なんだろう、そんなに私の顔がヤバかったのかな。






「何?」

「いや、お前も随分懐かれたなと思ってな」





書類を引き出しに入れ、机の上を綺麗に整理しながら言った彼の言葉に 私は「そうだね」と小さく笑う。
思えば彼がここまで懐いてくれるとは夢にも思っていなかった。最初に彼に会った時の顔は、今でも忘れられない。




(完全に、怖がってたよね・・・・)




心の中で小さく呟きながら、私は始めて出会った時の記憶を思い出す。

不安に満ち溢れた瞳が私を見上げ、小さな声で「誰・・・」と言った彼の身体は微かにだが震えていた。
そっと近づけばビクリと肩が跳ね上がり、軽く避けられるかのように彼は私と距離をとる。
そしてその時私は、そんな彼を笑顔で見てあげる事が出来ず ただじっと黙って見ているだけだった。






『・・・・こないで』






可愛い顔に似合わず、鋭い瞳でそう言った彼の姿は今思い出すだけでも心が傷ついてしまう。
ちょこちょこと廊下を歩く赤い髪を見かけるが、近づけばすぐに父の後ろへと逃げられ 私は悔しさに唇を何度噛み締めたか。





「はぁ」と私が過去の事で溜息を吐いていると、いつの間にか寝たのかシルバーは私の膝の上で小さく寝息をたてていた。
ちいさな手がしっかりと私の服を掴み、お腹に顔を埋めて眠っている彼の姿を見て 私は自然と顔が笑っているのに気付く。




(でも、今は違うもんね・・・・・)




頭を撫でながら彼を見つめていると、上から視線を感じ 私はチラリとそちらを見た。
するとそこには眠りにつく我子を大切なものを見るかのような目で見守っている父の顔があり、私は少しだけ意外だと言う様に目を見開く。
そしてそれに気付いた彼が視線を私に移し、短く「なんだ」と質問してきた。




「いや、ロケット団のボスでも やっぱり実の息子の前ではそんな顔するんだなーっと思って」

「家族に仕事は関係ないだろう」

「って言うけどさー・・・・。」




口を尖らせ、それでもロケット団の頂点に君臨する男の姿は少し私には怖く映っていて
それに気付いた彼が私に一つ溜息を吐くなり、彼の大きな手が私の手を包み込んだ。
行き成りの事に私が目を見開いていると、彼は目元を緩めて 微かに笑う。





「ロケット団は、ただ闇雲にポケモンを苦しめる組織なんかじゃない」





こんな表情は、きっと私とシルバーにしかしないだろう。
今、私の目の前に映っている彼の姿は 決して『悪』の面影が映っていることはなく、とても落ち着いた顔をしていた。





「誤解しているようだから、これだけは一つ言っておこう」

「・・・・・何?」





私の知っている彼、通称『サカキ様』は こんな優しい人物だっただろうか。
それでも『R』の文字が似合ってしまうものだから、ボスと言う名に相応しい雰囲気は持っていた。

けど今回彼が話してくれた内容は、どれも今日が始めてだ。



そして今も、彼は私に何かを伝えようと 口を開きかけている。
私はそんな彼を、ただ何も言わずにじっと見つめた。









「私も、ただ世界征服をしたいと思うだけの子供にすぎん」










その言葉を聞いた名前は目を見開き、そして安心したかのような笑顔ですぐに笑った。
『良かった』と言って彼の大きな手を握り、そのまま目を閉じて眠りにつこうとする。






「あまりポケモン苛めちゃ、駄目だよ・・・」

「・・・・考えておこう」






そう言って小さく笑いながらペルシアンを撫でた彼の姿は、とてもロケット団のボスとは思えない程に優しそうだった。



























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あの方との過去話。
シルバーは幼い頃(R団解散前)は素直な子設定です^p^←←

皆のキャラが崩壊なのはお許しくださいorz



10/04/01


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あきゅろす。
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