23 (助けてもらったは良いけど・・・・) この人はいったい誰なのだろうか。そして肝心のお礼をまだ私は言っていないので何とかしないと と、名前はただじっと一人黙って考え込んだ。 あれから彼は何か話す事もなく ただ私の前をスタスタと歩いていたのだが、まったく会話が無いのもどうかと思う。 そんな彼の背中を見つめながら、私はお礼を言うために勇気を振り絞って声をかけようと口を開いた。 「あの、」 「・・・なんだ?」 「先程はどうも有難うございました」 「別に、これぐらい良いぜ」 「いや、でもなんか悪いような・・・・」 「じゃぁ・・・」 そう言うと前で歩いていた彼が行き成り立ち止まり、くるりっと私の方に振り返る。 視線が私と同じになるように屈み、ニヤニヤと笑う彼の顔が目と鼻の先にあった。 「キスでもしてくれんのか?」 「キッ・・・!!?」 「冗談だ、ひゃひゃひゃっ!」 ボッと火でも出るのかと言うぐらい赤くなった私を見て笑うなり、彼はくるっと背中を向け再び歩きだした。 随分と嫌な冗談を言ってくれるものだこの人は。本当、心臓に悪いよ。 思わず止めてしまった息をいっきに吐き出せば、前で歩いていた彼が振り返ることなく「なぁ」と突然問いかけてくる。 「お前、アイツの事随分と好きなんだな」 アイツとはおそらく先輩の事だろうか。 私は首を少し傾げながら、「うーん」と唸り 一拍の後にポツリと呟いた。 「好きって言うか・・・憧れでしょうか」 「憧れだけでよく同じ部屋に居れるな、お前等」 「え、普通じゃないですか?」 「どう考えても普通じゃねーだろ、そもそも男女同じ部屋ってーのがありえねーぜ」 「ええ・・!?」 「・・・・・・・・普通そーだろ」 少し溜息を吐きながら言った彼の一言に、私は目を丸くして驚いた。 そういえばロケット団のアジト内で男女同室の人は見たことが無いかも・・・。 私だって最初は男性として先輩と同じ部屋になったし、女となった今でも同じ部屋に居られるのは奇跡かもしれない。 なんだかそう思えば先輩が部屋から私を追い出そうとした理由が今更ながら少し分かったような気がする。 変な噂がたっては元も子もないし。 そうやって私は一人黙々と考え込んでいると、前に歩いていた彼が溜息交じりに笑った。 「まぁどうせお前等、お互いに男と女として意識してねーんだろうけどよ」 「あー、確かにそうですね」 「・・・・なんだ、即答か?」 「まぁ強いて言えば兄ちゃん的な存在ですしね、先輩にトキメキを感じたのはあのツンデレ萌えな!・・・あ、いや失礼」 「も―――」 そう言って言葉に詰まらせた彼は、こちらからは背中しか見えないが きっと微妙な顔をしているだろう。 まぁ彼が先輩に対して萌えの要素を理解されてはそれはそれで困る話なので、この際気にしないでおく事にする。 すると彼はいきなり立ち止まり、こちらに振り向きながら問いかけてきた。 「唐突な質問だけどよ」 「はい」 「お前、なんでロケット団に入った」 「・・・・そう言う貴方こそ」 「おれ様は暇だったんだよ、退屈しのぎってやつか?まぁ要は楽しければそれでいい」 「偶然ですね、私もです」 「ひゃひゃひゃっ!そーかよ」 楽しそうな顔をした彼は笑うなり、ゆっくりと歩きながらこちらに歩み寄ってくる。 そのまま「じゃぁ・・」と話を切り出した彼の表情こそ笑ってはいるが、その緊迫した空気にはかなりの緊張感が漂っていた。 「お前、これから嫌がらせは無くなっても 周りからの目は痛ぇかもしんねーぞ」 「はい」 「ここにいても楽しい事なんてなんもありゃしねーぜ」 「でも今の状態を絶え続けて、勝ち残ればいづれは来ますよ。楽しい時間なんてあっと言う間にやってきます。 ・・・・・というより、先輩と居て思ったんですけど したっぱの人達ってなんかちょっと可愛いんですよね」 サラッと言ってのけた私の台詞に、彼の眉がピクリと動いたのかわかった。 驚く、と言うよりは どこか意外な者でも見るかのような目で私を見てくる彼の視線に 私はニッコリと微笑んだ。 というか、微笑ましいしたっぱ達の行動を思い出したがゆえに 口元がニヤけただけかもしれないけど。 「お前、変わってんな」 「そうですか?良いじゃないですか、したっぱ万歳!」 「それって、お前とアイツにちょっかい出したさっきの奴等もか?」 「まぁあれも一種のツンデレと思えば・・・・どうせあの人達アテナ様の部下ですから後々仲良くなるつもりでいますし」 「恐くねーのかよ」 「幹部は恐いですけど、私したっぱの皆さんは大好きです。」 「ひゃひゃひゃっ!・・・・それはおれ様も って、解釈してもいいのか?」 「ええ、勿論」 きっぱりと笑顔で言った私の言葉に、目の前に居た彼は一瞬目を見開いてピタリと固まる。 暫くお互い何も言わずに黙っていたが、少しすると彼の表情が面白い物を見るかのような顔に変わっていき その鋭い瞳が私を捕らえた。 ニヤリと口角を吊り上げ、先程よりも近く私に歩み寄るなり「おもしれー」と言って顔をずいっと近づけられる。 いきなりの行動に頭が追いつかないでいるが、彼はそんな私も気にせずにニヤニヤと相変わらずの楽しそうな笑顔で見下ろしてきた。 「なぁ、お前。ラムダ様の部下になんねーか?」 「はい・・・?」 「おれ様と仕事すんのも、そう悪くねーぜ?」 「いや、あの・・・・・言っている意味がよく・・・・・」 「ラムダ様もアテナ様に負けてねぇし、おれ様だってアイツより仕事だってできる自信はこれでもあるんだぜ」 アイツ=先輩だから、こう見えて彼は結構仕事ができると言う事か。 自信満々そうに話す彼の表情からしてまんざら嘘ではなさそうだが、一度助けてもらった身とはいえ何処まで信用して良いのか分からなくなってくる。 だが彼の熱い視線から目が離せなく、壁に手をつき逃げ場の無いようにされたこの状態で私はどうする事も出来ずに固まってしまう。 するともう片方の手で頬を撫でられ、耳元で彼の息と共に囁かれた。 「今おれ様の部屋に居る新入りは 追い出してやるからよ」 何故か知らないが 彼の声を聞いた瞬間、私の身体全身がぞわりっと何かが駆け巡る。 混乱して何も言え無い私を見て、彼はクツクツと喉で笑ってはいたが自分に向けられた視線は真剣そのものだった。 そしてその時、私は「あぁ」と一つだけ理解する。 (彼は本気だ) 誘惑者の囁き 彼にずっと見つめられている間、心臓がかなり五月蝿かったのは少し内緒だ。 NEXT→ ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ びやぁああ、遅くなってしまったorz ← 前回から大分時間が経ちすぎました・・・!どうした自分(蹴 そして短い・・!(ここ重要) とりあえず「ひゃひゃひゃ」君が書けたので、満足です・・!(貴様 10/01/16 [*前へ][次へ#] [戻る] |