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敬愛する貴方へ












「せーんぱぁーい」





ヘラヘラと笑う彼女の言葉に、俺は読んでた資料をバサバサと落としてしまった。
あまりの驚きにより 俺は暫くその姿を見て固まってしまったがすぐに我に返り、落ちていた資料を素早く拾ってソレで顔を隠す。





「おおおおおお前なんて格好してんだよ!!!!」

「えー、なにってふつーのかっこうれすよー」

「何言ってんのか全然わかんねえ!そんでもって早くなんとかしろ!!」





自分でもテンパって何を言っているのかが分からなかったが、兎に角早く彼女を視界に映さぬように資料を顔の前に持ったまま 俺はソファーから立ち上がる。
だがいつのまに来たのか、ドサッと身体を強い力で押され 俺はまたソファーへと逆戻りしてしまう。
仕舞いには顔を隠していた資料をピッと取られ、がっしりと肩を掴まれたまま彼女は顔を近づけてきた。





「なーんでわたしを・・・さけるんれすか」

「だぁあああ!いいいいいいからさっさと服着ろ!!!こっちくんな!」

「ふくならちゃんと、きてますよ・・・?」

「下のことだ下!馬鹿かテメェーは!下着一枚で俺様の部屋をウロチョロすんじゃねぇ!」





言っていて自分で恥ずかしくなってきた。なんだこれは、罰ゲームなのか。
今の彼女の格好と言えば上は普通の部屋着を着てはいたが、下は下着以外の何も着ておらず 肌が殆ど見えている状態で目の前に居る。
唯一助かった部分といえば、上の服が少し長めなのでギリギリ下着は見えずにいるのだが 少しでも動けばすぐにでも見えるほどそれは短い。

俺は痛む頭を押さえながら小さく唸っていると、体勢を変えようとした彼女がいきなり動きだす。
スッと彼女が動いたその時、スラリとのびた白い脚が嫌でも目に入ってしまい 俺は無意識に喉を上下させた。





「あはははーっ、せんぱい、かおまっかー」

「うるせえ!ってか何お前さっきからヘラヘラしてんだよ!ムカつくなっ」

「へらへらなんてしてませんよー」

「ていうかまさか・・・、お前、酔ってんじゃねーのか・・?」







ガシッと両手で彼女の顔を掴めば、頬がほんのり赤い事に気づく。
思えば先程からどうも喋り方がおかしいと感じてはいたが、これはまさかの事態だ。

俺はその原因を探ろうと辺りを見渡すが、特に酔うような物はどこにも置いてはいなかったので 首を傾げる。
いちよう念の為にと、無いであろうが冷蔵庫の中身を確認しようと空けた瞬間 俺は驚愕して暫く固まってしまった。





「な・・・なんだこれはぁああ!」





酒、酒、酒と沢山のビンがズラリと冷蔵庫に並んでおり、どれもその銘柄には見覚えのある物だった。
それはまさしく俺の同僚が飲んでいる酒と一緒の物で、おそらく自分の所で保存できなかった分を俺の所に勝手に入れにきたのだろう。
ふつふつと込み上げてくる怒りに、俺は乱暴に冷蔵庫の扉を閉めた。どうやらこれを名前が飲んだと言う事か。





「おい・・・お前これを飲ん―――」





そう言いながら振り向けば、目の前に映ってきたものを見てその言葉は途切れる。
いきなり彼女は俺に抱きつくかのように両手を広げて、そのまま勢いよく俺の背中へと飛び込んできた。




「だぁーいすきーっ」

「うをぉっ!?」




ゴンッと鈍い音がするのと同時に頭を冷蔵庫におもいきり強く打ってしまい 俺は涙目になりながら頭を押さえた。
そして、なんかムカついた俺はそのまま勢いよく振り返り 抱きついてくる彼女を無理やり引き剥がして担ぎあげる。

だが怒っている俺の様子に気づく様子もなく、「きゃー」とまるで子供の様に笑っている当の本人は一人で上機嫌になっていた。
それも気にせず、名前を無理やりベッドに放り投げてやれば 素早く布団を被せて枕を押し付けてやる。





「なんで酒飲んでんだよテメェ、酔う暇があんなら大人しく寝てろ。ってかそもそも俺様の許可無しに勝手に飲んで酔ってんじゃねーよ」

「だ・・!だって先輩、・・・話かけても何も言ってくれないんですもん。お酒だって目の前で飲んでたのに気付いてくれないし・・・
 おまけに2本目開けた時にうまく出来なくてズボンにこぼしちゃったから、着替えるのも面倒になって・・・」




俺の一言でいっきに目を見開き、先程よりもハッキリと喋った彼女を見て俺は溜息をついた。
あの格好をしてた理由はそれだったのか・・・、人は酔うと本当に面倒くさい事この上ない・・・。




「寂しいんですよ・・・・先輩には喋る友人が沢山いても・・・・私には居ないですもん」




今にも泣きそうな顔でそう言った名前を、俺はただ黙って静かに見つめた。
確かに、こいつは俺と以外で誰かと喋ったことがあっただろうか。
明るい性格で誰からにも慕われそうなのに、今までずっと所属が転々と変わってしまっていたせいで それも未だに叶わぬ夢のままだ。
いつもヘラヘラ笑って誤魔化していたとはいえ、同室である俺でも気付かないでいたとは・・・。

くしゃりと前髪をかき上げ苛立ち気にベッドから腰を上げれば 俺は枕に突っ伏している彼女の頭をポンポンと撫でてやる。





「俺が悪かった。・・・・だから、もう寝ろ」





その言葉を合図に、名前は酔っていたせいも有り 驚くことにすぐ眠りについてしまった。
そのまま少しすると スー、スー、と寝息をたてながら幸せそうに眠った彼女を俺は軽い溜息を吐きながらその様子を眺めた。



(さっきは少し・・・危なかったかもしれねぇーな)



俺は今回、全ての元凶でもある酒の入ったビンをおもいっきり睨んだ。
おそらく名前の飲みかけであるのか、1本は見事に空だが2本目は半分以上残ってある状態で流し台に置かれている。
俺は残っている方のビンを手に取り、適当な大きさのグラスを棚から出して それに注いだ。




「さっきみてーに酔われちゃ困るしな・・・・」




見るところ、この酒はそれ程安い物ではない。寧ろあの給料でよくここまで多く買い込んだものだと関心したいぐらいだ。
それ故、捨てるのも勿体無いと思った俺は名前がまた飲むぐらいなら・・・ と思い、それをいっきに飲み干す。
ゴクゴクと喉を通る冷たい感覚が久しぶりで、最後の一滴まで飲み終えると俺は少しだけ気分がスーッと軽くなったような気がした。

空になったビンを流し台に戻し、俺はそのままソファーへと身体を沈めるためフラフラと動き出す。




(てゆーか俺って・・・酒そんなに強くなかったような気がしたんだが・・・)




だがそう思っても飲んだものは仕方が無なく、そんな考えも気付けば何処かへ飛んでいってしまっていた。
そのままただボーッと何かを考えるかのように部屋中を見渡すが、特に何もする事もなく
ただ座っているだけで何もしないでいると ふと、先程の彼女の台詞を思い出した。それも一つではなく、沢山の。

一言一言、頭に流れてくる彼女の声に惹かれる様に、俺は静かに彼女のベッドへと目を向けた。



































「ん・・・・」



少し肌寒くなって、私はおもわず目を覚ましてしまった。
そう言えば少しだけ頬が熱いのは、酔っていたせいだろうか。飲んだ記憶はあるくせに、肝心のその後が思い出せない。

とりあえず起き上がろうと 私は未だにぼやける視界で必死に辺りを見渡そうとしたが、目の前に視線を向けてしまった瞬間黙ってしまった。



(え?・・・・・えぇええー?!)



パチリと何度も瞬きをし、じょじょにドクドクと高鳴っていく心臓を必死で落ち着かせようとは思うが それもテンパってしまってうまく出来ない。
誰か嘘だと言ってくれ、いや と言うより何故こうなるのかが分からない。

兎に角、私は未だによく理解できていない頭を必死に動かしながら 重い口元をゆっくりと開いた。





「先輩、な・・・なんで私の上に居るんですか・・・っ」

「・・・・・」





そこには私の問いにも答えず、ただずっと黙って私を見つめている先輩の顔がすぐ近くにあった。
私の顔のすぐ横に両手をつき、ベッドで寝ている私をまるで押し倒しているかのような体勢に 一瞬訳が分からなくなる。

当然、酔いはもうとっくに消え私は覚醒した頭で必死にいろいろ考えたが、出て来る言葉はどれも「どうして」の一言だった。
私は勇気を振り絞って、聞きたくは無いが それでもこの状況になった理由を知るために無言で見てくる彼を真っ直ぐ見つめた。





「先輩、どど・・・どうしたんですか・・・!?」

「・・・・」

「ちょ、ちょっと・・・!さっきから黙ってないで何かしゃべっ・・んぐっ!」

「うるせぇな、ちょっと黙ってろよ」





ドスの聞いた声で突然クツクツと喉で笑いだした先輩に 私は思わず驚愕してしまった。
目を細めながら見下してくる彼の視線はいつもと違っていて、手で無理やり口を塞がれた私は何も喋れなくなる。

すると突然何を思ったのか、彼は首筋に口を近づけるなり ふーっと息を吹きかけきて、私は思わず心臓が飛び跳ねてしまった。






「うぎゃぁっ・・!!ちょ、やめっ・・!なんてことするんですか・・・!!」

「本当うるせーな・・・・餓鬼はテメーは」

「がっ・・!?ちょっと・・・いい加減にしないとセクハラで訴えますよ」





私が睨みながら必死にそう言うがそれも呆気なく、彼に「よく言えたもんだぜ」と 鼻で笑われてしまう。
馬鹿にしたかのようなその表情を見て私は少し怒れたが、彼の冷ややかな顔を見たら それも何処かへぶっ飛んでしまった。

そして彼は一拍の後に、私の耳元で小さく囁いた。





「服もちゃんと着ねーで部屋をウロウロするわ、俺様にくっついて離れねーわで・・・お前何がしたいんだ?」

「ふ・・?!服を着てないって・・・!」




言われた言葉が理解できずに、私は恐る恐る自分の格好を見てみる。
すると彼の言ったように、下には下着以外の何も着ておらず 上の服でギリギリパンツが見えるか見えないかぐらいの服装に私は驚愕した。



(な、なんで私こんな格好してるの・・・!?いやそのまえに・・・、これで私が先輩にくっついただって・・!?)



必死に頭を動かして思い出してみると、そう言えばそんな事もしたような気もする。いや、きっとしたに違いないと私は即座に思った。
机に置かれているビンをチラリと盗み見ると、それに凄く見覚えがあった私は一瞬で確信へとかわる。

私は酔ってしまっていたんだ・・・そしてそれを、少し覚えている。
先輩に愚痴ったのも、抱きついたのも くっついて離れなかったのも じょじょに思い出す事ができた。あれから時間があまり経っていないせいだろうか。

今更後悔してももう遅い。兎に角、穴があったら入りたい ただそれだけ。
私は恥ずかしすぎて顔を真っ赤にさせてると、そんな黙っている私を見た彼が面白そうに口元を吊り上げた。





「迷惑かけたぶん、責任とれよな」

「え・・・・ってぎょわっ!」




そのまま耳元でただ囁いているだけかと思っていたらいきなり耳たぶを甘噛みされ、耐え切れず私は奇声を出してしまう。
微かに香るお酒の匂いに もしや彼も酔っているのか と思った私は激しく後悔した。

(飲まなければよかった)

だけどそう思ってはもう遅く、彼の行動は止まる事なく 私は背筋がゾワゾワとする感覚に襲われた。
耳の裏を舐められ、軽く口付けるかのように触れてくる唇の柔らかさに 私は可笑しくなりそうになる。


(い・・いやだっ・・!!なんか嫌だ!!切実に嫌だ!!)


自分でも最後の方は何て言ったかよく理解できなかったが、兎に角 男性に勝てる方法は一つしかない。
股間を膝で蹴り飛ばそうと試みた私は片脚を曲げるが、それに気付いたかのように彼は私の太腿の間に方膝を割り入り、身動きがとれないようにされる。

あまりの素早さに名前は唖然としていると、彼の手がするすると下に伸びてくるなり私の太腿を撫でた。






「バレバレなんだよ、下手くそ」

「なっ・・・」

「どうせ脚開くならもっと後にしろ。そしたら大歓迎だぜ?」

「さ・・・!最低っ!!!!」

「なんとでも言いやがれ」

「変態!鬼畜!!先輩の馬鹿ぁああ!!」





わんわん泣き叫ぶ私を見て、彼は声を出して笑った。
本当に今の彼は 最低・変態 以外の何者でもない。今でも手は私の脚を撫で回してるし、これ以上自分にどうしろと言うのだ。

すると行き成りもう片方の手で顎を掴まれ、先輩の顔が私の顔にずいっと近づいてくる。
その表情は楽しそうな微笑が浮かび、一瞬にして彼の口角が釣りあがった。





「俺様の事、嫌いになっただろ?これが俺なんだよ、優しいと思ったら大間違いだぜ。馬鹿が」





そう言って近づいてくる唇に名前は何をされるのかに気付いたが、目を背けることはしなかった。
何をされようが、今の私には彼の言った言葉しか頭に入ってこない。

優しいと思ったら大間違い。果たしてそうであろうか。これが本当の彼と、何故言いきれるのか。

目の前にある彼の瞳には私が映りこんでいた。その時初めて、自分がどんな顔をしていたのかに気づく。
どれだけ悲しい顔をしていても、それは先輩に絶望したからでは無い。
私はそれを伝えたくて、真っ直ぐ見つめながら呟いた。





「嫌いじゃないです・・・寧ろ好きですから。私の先輩は、ずっと先輩です」




唇が重なる寸前、ピタリと先輩の動きが止まる。その時一瞬だけ 彼の冷たい眼差しが少しだけ和らいだ気がした。
そして何故かしらないが、彼が何かを思い出しているかのように見えたのは気のせいだろうか。

そのままあと少しで触れ合うという距離で、突然彼がフッと笑い出した。




「間抜け面」

「ま、まぬけっ・・・?!」

「あーあ、折角酔っていい気分なのによぉ、襲う気も薄れてきたぜ」

「寧ろ私は貴方の酔いの悪さに奇跡を感じますよ。絶対後で後悔しますからね」

「いや、多分忘れてるぜ俺」

「自分で言うかこの野郎」






何事もなかったように離れていく先輩の顔は笑っていて、そしてどこかスッキリしたかのようにも見えた。
何がおきたのかよくわからないが、お酒の力は凄いと思う。

お互いのいろいろ重なっていた不安が今、全部出て行ったようにも感じた私は軽く息を吐いた。
とりあえず、私はともかくまだ完全に酔いが醒めていない先輩をベッドまで連れて行き そっと彼を寝かす。




「もう寝てください。・・・おやすみなさい、先輩」




何も言わずに、まるで魔法でもかけられたかのように寝てしまった先輩を見て 私も自分のベッドへと戻った。
いちよう起きた時に困らないように、ズボンを穿いて そのまま布団を被って瞳を閉じる。



明日お互いに凄く気まずくなるかとも思ったが、先輩の寝顔を思い出せば それもすぐに消え去った。

きっと翌朝彼は、痛い頭を押さえながら何事も無く渋々起き上がるであろう。


















敬愛する貴方へ




















名前が来る前までは、絶対に思っていなかったが アイツが来てから少し変わっていたのかもしれない。
少なくとも、彼女の言った嘘のない台詞に俺は救われた気がする。

名前が俺の後輩で良かったと、ここまで思うようになったのはいつからだろうか。







今なら同僚だって 幹部だって ――――



名前にでさえ、凄く幸せだと言える。























(俺様に憧れる奴なんて、何処にいるんだよ)









あの言葉はもう、何処かへ消え去っていってしまった。

















END

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新年企画3話のその後です。
前半先輩目線、後半主人公視点、最後に先輩です。(ややこしい

少し長めになってしまい、すみませんorz←←

酔った先輩に襲われるという希望道理になってないような・・!^p^(そうだね
これからも二人は仲良くドタバタしていきます^^*(意味不



10/01/16


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