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「な、なんじゃこりゃ・・!」





部屋に入ると、俺は目の前に広がる色に度肝を抜かれた。
シンプルにカーテンは黒、ソファーも机も白なのが、どれもこれもピンクと赤だ。


誰の仕業だと思いながら、俺は気持ちを落ち着かせながら部屋に入る。とりあえず、今は確認しなきゃならない事がある。
机の上に乗せておいた紙。それを早いところ処分しなくてはならなかったのだが・・・。




「・・・・・・・・・ねーぞ」




その紙が何処にも無い、いやこんな筈はありえないのだ。
俺は焦りながら ぐるりっと視線を部屋に巡らせると、もっこりと盛り上がっている自分のベッドに視線が行く。

まさか・・! と思いその布団を勢い良く捲れば そこには見慣れた人物が俺のベッドで丸まっていた。







「何してんだ俺様の布団で!!!!今すぐ出やがれっ!」

「ぎゃぁあああ!ちょっ、夜這いか!先輩気が狂った・・!?」

「ふっざけんなよぉおお!!」







叫びながら飛び起きた名前に、俺はまるでコントでもしているような感覚に陥った。
まて、その前になんでコイツが居るかが問題だ。落ち着け、俺。

小さく深呼吸しながら俺は平常心を取り戻そうとしていると、名前の瞳が真っ赤な事に気付いた。
どうしたのかと少し驚くと、その手に握られている紙を見て俺は驚愕した。





「お前、見たのか・・・?」

「・・・・・っ」

「チッ・・、だから荷物まとめて出てけっつっただろ」





紙に書かれている内容、それはどれも名前に対する事が殴り書きされていた。
俺に資料を渡してきたしたっぱの奴等が、密かにその紙を一緒に渡してきたのだ。

それを一度部屋に置き、そのままにして出て行った事に 俺は少し後悔をする。
最悪のタイミングで見られたものだ。





「だ・・いじょうぶですよ、せっせせんばい」

「いや、モロ泣いてんぞ。お前」





静かに俺がツッコむと、名前は悔しそうに顔を歪めて涙を流した。
そしてズビッと 俺のベッドのシーツで拭う彼女に、俺は瞬時に腕を伸ばしてその顔を引き剥がす。




「おいてめぇ!!何、人のシーツで鼻水拭いてやがる!!」

「鼻水じゃないですよ!涙ですってば失礼なっ!」

「いーや、鼻水だろそれ!くそ、洗うの面倒じゃねぇか!」

「じゃぁ、私が洗います」

「却下」




即答した俺に、彼女が小さく「チッ・・」と舌打ちしたのが耳に入る。
こいつが、そこまでして俺様の部屋に居座りてぇ理由がまったく分からん。

俺は溜息をつき、未だに泣いている名前の隣に腰をかけて 視線をあわせた。
すると彼女は俺の腰に抱きつき、そのままの勢いで二人してベッドに倒れこんでしまう。

おいおい、普通女が男を押し倒すか。





「せんぱ、い」

「あ、何だ」

「ゴメンなさい」





ハッキリと聞こえたその言葉に、思わず俺は息を呑んだ。
そのままチラリと視線だけ彼女に向けると、名前は俺の目をしっかりと見ている。
真っ赤で涙で潤んでいるが、その瞳の力は強かったのが見てすぐわかった。





「私のせいで、馬鹿にされたんですよね」

「・・・・おい、苦しいぞ」

「私が、自分勝手すぎるから・・・ちゃんと理由を話さないからっ」





ギュっと抱きしめてくる力が予想以上に強く、俺は少しだけ眉を寄せる。

すると名前は顔をあげ、涙をボロボロ流しながら
ぐちゃぐちゃな顔のまま俺の顔を見つめた。



「私、本当は・・・・・・・・・!むぐっ」



続きを喋ろうとした彼女の頬を、おもむろに掴んでやると 名前は目を見開き驚いた表情で俺を見つめてきた。
そのまま手を離し、頭に手を置いてポンポンと撫でてやると 少しだけ嬉しそうに目を細める。





「喋りたくない事があんなら、無理に言うな」



「せ、・・・せんぱい」

「なんだ」




「有難うございます」と、何度も繰り返し言う後輩を俺は黙って受け止めた。
そして時々「ごめんなさい」と謝る彼女は、相変わらずだなと俺は思う。

(そこまで俺は気にしてなんかいねーんだから。罪悪感感じることなんて 何一つも無いのによ。)

そう思っていると不思議と笑いが込み上げてきて、不覚にも俺はフッと息を漏らしてしまった。
するとそれに気付いた名前がムッとしたような表情で俺を睨み上げ、口を尖らせながらズビッと鼻水を啜った。






「何笑ってるんですか、先輩」

「いやいや、なんか悪い事させちまったなって思ってな」

「・・・・・本当ですよ、私先輩に部屋出てけって言われた時 死ぬかと思いましたよ」

「おいおいおい、そこまでだったか・・?」

「あたりまえですよ、私先輩の事大好きですからね」

「あー、鼻水女に言われてもなぁ」





瞬間 ギリッと俺を抱く腕の力が増し、そのまま俺は物凄い力によって抱きしめられた。
ギブギブと俺が名前の背中をバシバシッ叩けば、彼女は笑いながらそっと腕を離す。




「でも、鬼畜変態上司より 鼻水女の後輩の方が良いでしょ?」




そばにあったティッシュで涙と鼻水を拭きながらそう問いかければ、彼は「どうかな」と答を濁らせた。
予想外の返事に、私は目を丸くして「なんで」と彼に近づいく。
「鬼畜」「人でなし」「冷酷野郎」と、良い所なんて無いでしょうに と呟いた私に 先輩は少しだけ笑って答えた。




「確かにな。でも、腐ってもあの人が俺の上司なんだよ」




初めて配属された時に見た彼の瞳。それだけで俺は面倒だなと 何回舌打ちした事か。
だが月日を重ねていくうちに、その回数は激減していった。

彼の部下をまとめ上げる力は、アポロ様にだって怠らない。
まっすぐ前だけ見つめ必ず仕事を成し遂げる彼を、俺はいつの日かカッコいいとさえ思い 何度も憧れた。




「俺の上に居る人は、ランス様だけだ」




これだけはハッキリと言える。
そう言って笑えば、名前は「そんなもんですかね」と俺に微笑みかけてくれた。
何だかんだ言いつつも、彼女だってきっと理解はしている。そこまで馬鹿じゃないのは知っているから。




「お前も、今いろんな所を転々としてるみてえだけどよ。 自分の上司見つける良いチャンスなんじゃね?」

「私の上司は先輩だけですよ」

「いつまでそう言ってくれるかな」

「ずっとですよ、ずっと」




ほら、と小指を出してくる彼女に おもわず俺は眉を寄せた。
もしかして、ゆびきりでもしようとでも言うのか。

俺は鼻で笑って、そっと彼女の手を退けた。




「俺様はそんなガキみてーな事、しない主義なんだよ」

「うっわ、何キャラ?折角、人がずっと憧れてやるっつってんのに」




隣であーだこーだ五月蝿い彼女を無視し、隙を見つけその手から握られていたシワシワの紙をヒョイと取り上げた。
「あ」と名前は短い声を出し 取り戻そうと手を伸ばすが「良いんだよ」と俺はそれを阻止する。




「そろそろ自由になれるからよ」




びりびりっと紙を破けば、彼女は驚いた顔をして その様子を眺めていた。
『ロケット団から出てけ』『馬鹿にしやがって』『女が出しゃばんな』等、
書かれたその台詞が無残に引きちぎられて、床にクズが落ちる。

そして名前が先輩を見つめれば、彼は不敵な笑みを見せてそこに居た。








「見下してやろうぜ、俺らを馬鹿にした奴らを」

「いえっさー」













――まだ此処に居ても良いと、 彼に言って貰えた様な気がした

























したっぱの本気






















「酷い顔ですね」



外の空気を吸おうと部屋を出れば、そこにはランスが腕を組んで壁にもたれ掛っており こちらを見てフッと笑う。
私は彼を見た瞬間何か言い返そうと口を開いたが、ある事を思い出し それを辞めた。



「ランス様」

「・・・・なんですか」

「貴方は、私の事が嫌いですか」



自分で何を言ってるんだと思ったが、言ってしまったものは仕方が無い。
そのまま彼の返答を待っていると、ふぅ と軽く溜息を吐かれ やや小声で返される。




「まぁ、貴方の事は心底憎んでいますし。考えも理解しがたい上に馬鹿でどうしようもないですが。」

(この野郎っ・・・・・)




ぐっと拳をにぎる手が無意識に強くなったのを自分でも感じ取れ、私はやっぱりこの人の事が『嫌いだ』と思った。
だが彼が少しだけ笑った瞬間、不覚にもその時だけ 綺麗 だと思ってしまう自分が居たのは紛れも無い事実だ。





「嫌い、とは 言わないでおきましょうか」




「え」と目を見開いた時には、彼は目の前まで来ており 視界は彼の顔でいっぱいになっていた。
数センチとかなりの至近距離で見つめ続けられていると、彼の手が私の頬に触れる。



「アポロが何を思って貴方をそんな甘やかすかは知りませんが」



微かにかかる吐息に、自然と顔が熱くなっていく。
自分は『女』なんだという現実になるだけで、ここまで世界の見方は変わってしまうのか。

私は早く脈打つ心臓の音が五月蝿く感じ、目を閉じてしまいたいとさえ思ったが 彼の強い瞳がそれを阻止した。





「女だからって容赦はしませんよ」




好敵手、まさに今の私達にはぴったりの言葉だった。

負けたくないと、これほど強烈に思ったのは生まれて初めてだったかもしれない。


私の考えがどこまでも甘く、愚かで今 この最悪の現状を招いたのは認める。
けれど、今まで私が女と秘密にした事によって得たものはどれも大きな物ばかりなのも確かだ。

まだ短いが、先輩と過ごした日々は少なからず私の心を変えた。

そして今、目の前に居るこの人も。









「上等よ」









私の声が彼の耳に届いた時、その瞬間から闘いは始まっていた。























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一気に勢いで書いてしまったため、先輩フィーバーになってしまいましたorz←

けど後悔はしていませn(ry
次からムカつく奴らをフルボッコターンですよ皆様^p^★(酷い
でも私はそんな彼らが可愛くて仕方がありません・・・!ハァハァ(蹴


09/12/24


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