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あれ以来、名前の先輩である彼はいろいろな所のパシリとして走り回っていた。
覚悟はしていたが、思った以上に酷い。




『罰として、今日から貴方は私だけではなく 全所属へと貸し出しする事になりましたので・・そのつもりで』





本部に戻ってきて早々、彼はランスを初めとする各所属の面々から大量の書類を運ばせられ くたくただった。
今までは自分の上司だけの仕事をこなしていたが、今回は違う。



「ちょっと待てよ」



呼び止められ、俺は後ろを振り向いた。
見知らぬ したっぱが数人、笑いながらこちらに近づいてくる。

確かアテナ様のところのしたっぱ共だったか。




「これも頼むぜ」

「ついでに俺のも、この資料を倉庫に置いてきてくれよ」

「あ、じゃぁ俺のも処分よろしく頼むわ」




バサバサと、ただでさえ両手に抱え込んでいる書類が重たいというのに 彼等は遠慮なく自分達の分を置いてくる。
手ぶらになった彼等は声を出して笑うと、そのまま馬鹿にしたかのように手をヒラヒラさせた。




「お前、ランス様のところで何かやらかしたそうじゃねーか」

「・・・・で?」

「俺らはヘマしたら給料減らされるぐらいだけどよ、流石に全所属のパシリは聞いた事ねーよな」

「しかも上司がランス様だもんな、お前も運が無かったなぁ」




ゲラゲラと笑い始めた彼等を見て、俺は全身が震え立った。
理由も知らずに見覚えの無い奴らまでに馬鹿にされ、使い走りにされる屈辱。

体力的にキツイ罰かと思ったが、どうやらランス様はそんな甘い人じゃなかったようだ。
他の所属のしたっぱがのこのこと自分の所にパシリに来たら、誰だって馬鹿にするし 笑うだろう。



そして俺はそのままなるべく笑い声を聞かないように彼等から背を向け、少し早歩きでその場を去った。




「また来てくれよー、まだまだ運ばなくちゃなんねーやつが沢山あるんだからよ」




罰としていろいろな所へと貸し出されるようになってから絶え間なく叩かれる言葉に、少しも言い返せない自分が情けなくなった。






































「はぁ・・・可哀想だよなー・・・アイツも」

「仕方が無いんじゃない、自分で責任を負うって言ったんだし」

「でもよ、女と男間違ったぐらいでこれは酷くねえか」




ランスのしたっぱである彼等は書類の処分をしながら、小声でボソボソと会話をしていた。
深い溜息を吐きながら、チラリとランスを彼等は盗み見る。
そこには何事も無いかのように書類に印を押していく上司の姿があり、いつもと変わらない風景に見えた。




「俺さ、聞いたんだよ」

「・・・何をよ」

「あの女、アテナ様の部下になるみたいなんだよ」

「・・・・・・・・」




ピクリとしたっぱの彼女の眉が釣り上がり、若干不機嫌そうな顔で彼の方へと振り返る。
暫くの沈黙の後、彼女は短い言葉で切り出した。




「・・・・で?」

「いやぁ、ミニスカートたまんねーよなぁ・・・!足細いし髪長くすると一層女の魅力が・・・!」




ゴスッ と鈍い音を立てて彼の言葉は途切れた。
深い溜息を吐き、「変態」と言って彼の顔から分厚い書類の束を離すと 顔を真っ赤にさせてこちらを見てくる。

なんという間抜け面だ。



「あんたこそパシリにさせれば良かったんじゃない?お爺さん一人にビビッて井戸から落ちるようじゃロケット団失格よ」

「お前な・・!あの爺さんの顔は半端無かったぜ・・!?鬼だぜ鬼」

「だから?・・・アンタのせいでランス様の計画は滅茶苦茶になったのよ、本当ならクビ確定よ」



バッサリと言い切られた彼女の台詞に、彼はぐうの音も出なかった。
確かにあの場で何が何でも通さなければ、すぐに計画は完了していた筈だった。

だが俺は重大な失敗をしでかしたにも関わらず、給料を少し減らされただけですんだのは奇跡かもしれない。




「給料減らされようが、パシリにされようが、此処に置いてもらえるだけで幸せな事なのよ。ランス様の優しさに感謝しなさい」




あの時、アポロ様の部屋で盗み聞きしていたのを ランス様は怒ることなく部屋へと戻って行った事を思い出した。
何かを考えているかのような仕草をしながら黙って歩く彼の背中は、
何処か物足りない感が滲み出ていたかのように見えたのは どうやら見間違いでは無いだろう。



「幹部も楽じゃないのよ、感情だけで働いてたらその組織は終わるわ」

「・・・・だけどよ」



まだ何か納得がいかない様な顔をした彼に、彼女は深い溜息を一つ吐くと そっと隣に視線をやった。


「まぁ・・・、少し寂しい気もしない事は無いわね」


隣で居るであろう彼は使い走りとして貸し出されているため、一人分開いているその席はやけに寂し気だった。
いつもなら馬鹿みたいに喋ってるのが普通だったから、それは尚更だ。




すると突然、前で書類の整理をしていたランスが立ち上がり彼等はビクリと肩を震わせて 口を閉じる。
そのまま部屋を出て行くと思ったら行き成り俺達の方に振り返り、険しい表情のまま口を開いた。





「少し用事を思い出しましたので、後は任せましたよ」





それだけ言い残した彼は一束の書類を持って、静かにドアを閉めて出て行く。
バタン・・と、閉められた扉のすぐ後に ランスが居なくなった事で解かれた緊張感にしたっぱの面々は息を吐いた。





「優しすぎるわ、ランス様は」





ほぅ、と息をついた彼女に したっぱの彼は首を傾げた。


























冷酷で隠れてるだけ

























「アテナ様」




突然の呼びかけに、上司である彼女は名前に振り返った。
その強いその視線に、おもわずアテナは吹き出してしまいそうになったのを 彼女は知らないだろう。



「少し用事を思い出したので、ちょっと行ってきてもいいですか」



不安そうな顔をしている名前に、アテナは微笑むとそのまま「いいわよ」と頷いた。




「今日は特に仕事は無いし、今の内に休んでいらっしゃい」




すんなりと許可してくれた事に驚いているのか、名前は目を見開いて固まっていたが すぐさま嬉しそうな顔をするなり、
「有難うございます」と言って廊下を逆方向に走り出した。




































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皆様の温かいお言葉にいつも感謝いたします^^*



09/12/24


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