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「お前・・・なん、で」



目を見開いてこちらを見つめてくる先輩に、私はその顔を見れずにいた。
気まずい雰囲気の中、私は自分のスカートをぎゅっと握り締めていると 不意に隣から伸びてきた手に腕を掴まれ おもわず驚く。





「まさか女だったとは・・・ね。」







ランスの冷たく、楽しそうな瞳が私をじっと捕らえ 微かに腕を掴んでくる強さが増したような気がした。





















嘘も今日で最後

















どうしてこうなってしまったのか。
こんな事になるなら、最初から女として潜入しとけば早い話だったかもしれない。

でもそれじゃ駄目だった。
どうしても、雑用でもいいから手がかりが欲しかった。




自分のポケモンの。





私はロケット団がポケモンを盗んでは、それを大事な場所に保管するのを知っていた。
そして時間が経てば、そのポケモン達は売られていくのも 私は知っていたのだ。
だから焦ってしまったのかもしれない。


そもそも女性のロケット団をあまり私は見たことが無かったのが事実だ。
最近ではその数は増えてきているものの、それは男性と比べれば一目同然だろう。


だからそのまま勢いで髪まで短く見えるように編み込んでもらい 最初にロケット団に入団する時も「男」として自分は入ってしまった。


それならば危険性問わず色々な仕事が入ってくるし いつか自分もポケモンを盗んだりする日がくるのは遅くは無いだろうから。
兎に角、私は一日でも早くその盗んだポケモンの保管場所に行きたかっただけだった。
もしかしたら、自分のポケモンがいるかもしれないと不覚にも思ってしまったから。


でもこんな事になるなら、女として素直に入って 遅くてもいいからコツコツと仕事をしておけば良かったと今更ながら思える。




(まあ今どうなるか考えても無駄だし、ここは黙って目の前にいるランス様におもいっきり説教を受けとくか)




だがそう思っている自分と同じく、私の腕を掴んでいるランスは先ほどからじっとこちらを見つめては、彼も何かを考えているようだった。
きっと「何を話すか」より、「どう処分するか」の方を考えているだろう。

そして数秒と経つことは無くその表情はすぐにいつもの冷たい顔に戻り、彼は私を見つめたまま口を開いた。






「貴方、いったい何故こんな馬鹿げた真似をしたのですか・・?」

「・・・いやー、特に理由は無いんですけどねぇ」






あっははは と一人で笑っていると、ランスからの鋭い視線が突き刺さってくるのが分かった。
なんて言うか今までに無いぐらいの緊張感だな・・。とりあえず笑って誤魔化そうか。

私はここで更に怪しまれないようにと虚しく笑い声を続けたが、それは自分の腕を掴んでいる彼の手が阻止した。
ぎりっと思い切り掴まれ、あまりの痛さに顔を歪めるとランスはこちらに向かって微笑んでくる。






「ふざけないで ちゃんと理由を話なさい」





ここまで彼の笑顔が恐いと思った日は、今までにあっただろうか。
彼の言葉に、流石の私も笑うのを止め そのまま目の前に居る幹部に体を向き直す。


一瞬、本当の事を話したほうが良いのかと頭によぎったが、もしここで正直に理由を話すと
私が潜入目的でロケット団に入団した事がバレてしまうから、ここはどうにかして嘘をつかなければならなかった。


だがそう考えているうちに、痛いほど突き刺さるランスの視線と周りに居るしたっぱ達の沈黙に私は息苦しさを感じた。
ああ、もうどうしよう。誰か助けて下さい。



とりあえず何か喋ろうと口を開きかけた瞬間、不意に後ろから誰かが近づく足音が聞こえ ソレは私の後ろでピタリと止まる。
誰だろうとは思ったが、私は目の前に居るランスから目が離せず 後ろを振り向いている余裕は無かった。





「すみません、ランス様」





だが後ろから聞こえてきた声に、おもわず私は目を見開き 後ろを振り返ってしまった。
その聞きなれた声は聞き間違えることは無く、確かに彼の声だった。




「ソイツを男として入れさせたの・・・俺のせいです」




「いやー、すみません」と笑うその人物は、ちっとも悪いと思ってない顔をしていた 私と同室の先輩だった。
そのまま私とランスの間に割って入り、まるで目の前にいる幹部の視線から私を隠すようにその姿は見える。
驚いた顔をしていると それに気付いた先輩が私に小声で「大丈夫だ」と後ろから耳元で囁き ランスに向き直った。


(先輩・・)


たぶん、今私は泣きそうな程に先輩に感謝しているだろう。

少し視界がボヤけつつも、私は先輩の背中をじっと見つめながら心の中で感謝の言葉を述べた。
本当に、彼が「大丈夫」と言ってくれただけで ストン と気持ちが一気に軽くなったような気がする。



「いやー、ソイツ胸は無いわ、髪は短いわ、女らしくないわ で・・てっきり本当に男かと」



前言撤回、何が「大丈夫だ」だ貴様。
よし、あとで先輩に何か奢って貰おう。そして殴らせろ。

だが彼はメラメラと闘争心を燃やしている私の心の声にも気づくことなく、そのまま口を開いて話を進めた。




「だから、俺が最初に男物の服渡したんで ソイツ断れずにそんまんま着たんだと思いますよ。
 それかただ面倒臭がってそのまんま着たかのどっちかですが」




彼の言い分に少し納得したのか、ランスは「ほぅ」と少しだけ声にだして頷いた。
え、それで納得しちゃうの と私は思ったがまぁバレない方向に話が進んでいるようだからここはあえて黙っていよう。




「それで、貴方は同室であっても女と気付くことは無かったと・・?」

「ええ、特に色めいた事はなんっにも有りませんでしたし、洗濯物も自分で洗ってましたから」

「・・・・成る程、では責任は貴方にとって頂きますが 宜しかったでしょうか」

「ええ、良いですよ」



さも同然と言ってのけた先輩に私は驚き、おもわず先輩の服を掴んでしまった。
だがそれでも彼が私に振り向くことは無く、そのままランスの方を向いたまま黙っているだけだった。



「まぁ良いでしょう。・・・では、一度戻りましょうか。話はその後で」



チラリと私に視線を向け、微かに微笑んだランスは私達から背を向けるなり、そのままスタスタと歩き出した。
それに続き、ランスの後をしたっぱの皆は一斉に慌てて追いかける。
ヤドンのしっぽを急いで運び、ぞろぞろと歩いているその列の中に こちらを心配そうに見つめてくる見張り番の彼の姿もあったが、それもすぐ距離が遠ざかり見えなくなってしまう。

そして未だに彼の服を掴んだまま動かないで居る私を見た先輩は、大きな溜息を吐くなり小声で話しかけてきた。



「どうして嘘ついてたんだよ」

「・・・・すみません」

「ったく、いったい何がどうなってんのか よくわかんねーぞ」



頭をガシガシと掻き毟り、そのまま腕を組むなり彼は私から背を向けて歩き出す。
私もその後を慌てて追いかけるが、彼は私の方を振り返らずに前を向いたまま口を開いた。








「部屋、入ってきた早々悪いが荷物まとめとけよ」







少しずつ離れていく先輩の背中を見つめながら、何故か心まで距離を置かれたような気がして
私はその後ずっと先輩に声をかける事が出来ずにいた。




一番先頭ではランスが、
一番後ろには名前が。


それぞれ笑みと、不安の表情を浮かべながらロケット団基地本部へと足を進めていた。







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遅くなってしまい、申し訳ございませんでしたorz(土下座

今回を最後に、男装編(?)は終了になります^^
次回から女編に入って行きたいと思いますので、これからもどうか応援よろしくお願い致します*
ではまた次のお話しでお会いしましょう^^!


09/12/21


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