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(兎に角早く身を隠さないと)


焦る気持ちが見て分かったのか、そわそわしだした私をコトネちゃんは不思議そうに見てきた。
そして気遣ってくれているのか、小さな声でひっそりと彼女は私に問いかけてくる。





「名前さん、どうしました?」

「いや、あの・・・お腹痛いんで非難しても良いですか」

「え・・・!大丈夫ですか?」

「うん、そこの辺の岩陰に潜んでるから平気だよ」

「そうですか、じゃぁその間に私がこのロケット団を退治しますね!」





そう言ってコトネちゃんは前に居るしたっぱ3人に対して、やる気いっぱいの顔で戦闘準備をしだす。
勿論、お腹が痛いだなんてバレバレな嘘誰が信じるかと思ったが、彼女は少しも疑う事なく笑顔で私に言ってくれた。


(コトネちゃんって本当良い子過ぎるよ・・・)


そう思いつつ、名前は心の中で 前に居る彼女に謝りながら そっと岩場に姿を隠した。

























「なぁ、アイツ・・・・」

「あ?どうしたんだよ」




まだ痛いのか、腰をさすりながら聞き返してくる彼に 俺は視線を岩場の方へと向けたまま顎で示した。
するとそれを見た彼は一人で納得したような顔をするなり、遠い目をしながら「あぁ」と呟きだす。



「やっぱそう思うよなー、うん。俺もそう思った思った」



何度も頷き、はぁ と溜息を吐いた彼を微妙な顔で見てやれば
奴はそのまま手をぐっと握り締めて 消え入りそうな声で言った。




「可愛いよなー・・・アイツ」


「・・・・は」




思わず間抜けな声が出てしまった俺に見向きもせず、彼は気にせずに自分の世界に入りだしてしまったのか
先ほどから顔を赤めては、ニヤつく口元を押さえながら一人で笑い出している。

何だコイツ、きめぇぞ。




「あの声に涙はやられたよなー。俺ショートヘアー好きだし、スカートって言うのがまた たまんねーよな。
 まぁ胸は無いけど、あの細っい腕に抱きつかれた時はヤバかったな・・・・!」

「・・・・・なぁ、お前見張り番の時に何やってだんだよ」

「は?・・何って見張りに決まってるだろ?」

「そんなデレデレした顔で言われても困る。てかキモいぞお前」



完全に引いてしまってる俺に、彼は「キモくねーよ!」とか叫んでいるが あまりにも説得力に欠けている。

暫く可笑しな同僚の姿を見ていたら、先ほどの彼女の事がなんだかどうでも良くなってくるのは何故だろうか。
俺はそのまま奴を無視して痛くなった頭を抱え込んでいると 隣に居る女の方の同僚が小さく「ちょっと・・!」と俺に耳打ちをしてきた。

そのまま何事かと視線を向ければ、俺達はその先に居る人の姿を見ておもわず硬直してしまう。
緊張の汗がつたり、そのまま目を見開いて我幹部の名を叫んだ。





「ランス様・・・!!」

「作業もせずに何やら騒いでるかと思えば・・・・こんな所で子供と喋っていましたか」




冷たい視線が突き刺さり、そのまま何も言えずに3人は固まっていると 上から深い溜息が聞こえてきた。
同僚の彼女が隣で「ランス様」と、その背中に呼びかけるが 彼は振り返らずに少女の前に立つ。




「私が相手をしましょう」




そう微かに笑った彼を見て、コトネの表情が強張り 彼女はモンスターボールを構えた。


























「最悪・・・ランス様だ」




岩陰に隠れていて正解だったと 今ならしみじみ思える。
自信満々に微笑む彼の顔を再確認し、私はその様子をただ じっと見つめていた。


(コトネちゃん、頑張って)


私は何も出来ないが、きっと彼女ならあの幹部をやっつけてくれるだろう。
ロケット団のしたっぱが言えた台詞じゃないが、私は全力でコトネちゃんを応援するつもりだ。

そしてその思いが通じたのか、彼女は後ろを振り向くなり さり気なく私に笑みを向けた。
だが前を向くなりその表情は一変し、コトネは怒りを露にした顔でランスの顔を鋭く睨み口を開く。



「あなたがタンスね」




まだそのあだ名は変わらずにいたんだね と私は言葉を飲み込んで肩を震わせた。
すると彼はピクリッと眉を軽く吊り上げ、どこか凄く嫌そうな顔をしてコトネを見据える。

ヤバイ、その顔傑作だわ。




「なにか今、少々言葉を間違えませんでしたか」

「ちょっと、ふざけないで真剣に話を聞いてください。それでも幹部なんですか貴方」




ビシッと彼の額に青筋が浮かんだのを見て、私は声が出そうになるのを我慢し 地面をバンバン叩いた。
もしあそこまで私の声が聞こえないものなら、今この場でブッフーと吹きだしたいものだ。

しかも後ろで固まっている したっぱさん達と先輩のあの表情。ああ、今すぐにでも写真に収めたいよその顔。

けど笑っている私とは対照的に、後ろで怒りを露にしているしたっぱの彼女の顔は凄まじかった。
両側に居る男二人を見ると、その顔を見るだけで彼女の恐さがひしひしと伝わってくる。



「あんたね・・・!ランス様をタンス呼ばわりするんじゃないわよ!ちょっと名前が似てるからって間違えるとか馬鹿じゃないの?」



コトネちゃんに向かって叫ぶ彼女に付け加え「確かにタンスの部下とかやってらんねーよなぁ」と、したっぱの彼が呟いた。
先輩は 何でタンスなんだよ とか微妙な顔をしていたが、口元がひきつっているのを見ると笑いを堪えているのがバレバレだ。

うん、もう私したっぱの皆大好き。


さり気なく失言をしている彼等が愛おしいと思う私に対し、その前に居る幹部様の表情は今までにない程恐ろしかった。




「少し黙ってなさい」




ギロリと鋭い目で見下したランスの声は小さかったが、驚くほどその怒りが伝わってくる声音に彼等は瞬時に固まってしまう。
相変わらずしたっぱの彼女は「素敵・・・」と顔を赤めてモジモジしていたが、彼等は「どこが」と言いたげな顔でげんなりしていた。

そしてランスはモンスターボールを軽く投げ、ズバットを出すなり「自己紹介が遅れましたね」とコトネに体を向き直す。

くるか、あの伝説の決め台詞が。




「私はロケット団でもっとも冷酷と呼ばれた男・・・私達の仕事の邪魔などさせはしませんよ」





瞬間、私は ゴスッ と頭を岩にぶつけて笑いを堪えた。
痛い、いや頭も痛いけどランス様アンタ痛すぎるよ・・!

兎に角先輩が言っていたことは本当だったようだ。まさか自分で言ってしまうなんて。
しかもポーズからその仕草は何から何まで先輩が再現した物と同じで、いかに彼の物真似が上手だったかが分かる。

あ、でもウィンクはしないんですね。残念だな。


そしてどうでも良いかのように聞き流しているコトネちゃんとは逆に、したっぱの彼女はランスの後ろで嬉しそうに黄色い声援を送っていた。
だが先輩をチラリと盗み見ると、彼は私以上にツボっていたのか お腹を抱えて転げ回っていた。



「おい・・・お前大丈夫か?」

「お・・・・おう・・・だいじょうぶっ・・・だっ・・」

「大丈夫じゃねーだろ、そんなに腹痛いのか?」




色んな意味で腹痛いと思うよ。まさに腹筋崩壊、恐るべし。
心配そうに視線を送る彼だが、相変わらず先輩はツボったまま震えるお腹を必死に押さえていた。


(大丈夫ですよ先輩、私は無事ランス様の決定的瞬間を拝むことが出来ましたよ。)




だがそんな私達の様子に気づくことなく、ランスとコトネはバトルを始めていた。
流石ポケモントレーナーだけあってか、ベイリーフとの息はばっちり合っていて なんだか少しランスが押され気味のように見える。

気を抜く事無く詰めていくコトネに対し、ランスは次のポケモンを出すがその顔は少しばかり苦しそうに見えた。


そしてその闘いも長くはなく、ついにドガースが倒れ 静まり返った井戸の中は妙な緊張感が走る。
そのまま何も喋らずにランスはポケモンをボールに戻すが、コトネは険しい顔をしながらランスに問いかけた。



「ロケット団は解散した筈じゃなかったんですか?」

「・・・確かにかに我らロケット団は3年前に解散しました。
 しかしこうして地下に潜り、活動を続けていたのです。復活ののろしを上げるために」




帽子を深く被り直し「ヤドンの尻尾売りもその一環です」と微かに笑いながら付け加えたその言葉にコトネの顔が一気に強張ったのがわかった。
そんな事は絶対にさせない と、強く言った彼女に対し、彼は笑顔を消し 冷たい瞳でコトネを見下ろしながら口を開いた。




「いきがるのも程々にしておきなさい、貴方如きが邪魔をしても私達の活動は止められやしないのですよ!
 これから何が起きるか怯えながら待っていなさい」




そう言ってランスはいつの間にか他で用意していたドガースに指示を出すと、煙幕がそこら中に行き渡り 辺りが一瞬にして見えなくなった。
口元を手で覆い、その場で動けないでいるコトネを確認した頃には 岩場の方にまで煙幕が来ており私も動けずにその場に座り込んでしまう。

微かにこちらに向かってバタバタと走る複数の足音が聞こえたが、私はそれどころじゃなく早くこの煙幕が消えないかと思っていたら
不意に腕を掴まれ、体がぐいっと上にひっぱられた。





「何ボサッと突っ立ってんだよ・・!早く逃げるぞ!」




聞き覚えが無い声だが、微かに見えた「R」の文字に 思わずドキッとしてしまった。
おそらく、井戸に居たしたっぱがたまたま私の姿を見つけ この煙幕と行き成りの行動にパニックになった彼が勘違いしたんであろう。

だけど私も何もする事が出来ず、ただ引っ張られるがまま必死で転ばないように井戸の中を彼等と一緒に走った。
梯子を上らなかったと言う事は何処かに通路があったのか、または造ったのかは知らないが数分と経つことなく
薄暗い井戸から、光の漏れる場所へとたどり着いた。


暫く暗い中に居たせいか、昼間の外は眩しく 安定した足場に無事つけたことに とりあえず私はほっと息を吐く。
だが私の腕を掴んでいた彼の手が急に バッ と離れ、シンとした空気に違和感を感じた私はおもわず頬に汗がつたった。


(あ・・・)


気付いた頃には遅い事も分かっていたが、やはり現実を見たくは無いものだ。
出来ればずっと目を瞑っていたかったがそうはいかず、そのまま目を細めて辺りを見渡してみると そこにはロケット団の面々がずらりと並んでいた。





重い沈黙に、痛いほど突き刺さる彼等の視線に 私はこれ程までに「死にたい」と思ったことは無かった。

























こんなバレ方はないだろう























「あ・・あああアイツさっきの女じゃねえか・・!」



相変わらず頬が赤い彼は可愛いが、それ以外の視線が痛い。
その中でもずば抜けて先輩とランス様からの視線が痛く、じっと私を捕らえたまま驚きの表情を隠せないでいた。









そしてこの沈黙を破られるのは、ランス様が口を開いてすぐの事。





















NEXT→

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いよいよ話も本番に入ってまいりました(遅いな
上中下に分けるならば、次回で上が終わるぐらいでしょうか・・?(長っ

そろそろ出ていない、または出番の少なかった幹部の方々のターンになります^p^
たぶん恋愛要素がこれで少しでも増えてくれればなーっと思っていたり・・・!

兎に角ランス様との奮闘は暫く続きます(笑 ←←




09/12/13

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