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「どっ・・・どいて下さい!」

「うわぁっ・・!な、何だお前!」

「いいからそこを退いて下さいってばぁ!」

「ばっ・・ちょ、やめろ!!此処を通したらランス様に叱られる・・!!」





早速ヒワダタウンに来てヤドンの井戸を見つけたと思ったら、そこには見張り番らしき したっぱが居て
腕をつかまれあっけなく私は彼に捕まってしまった。
ああ、早く此処を通って先輩に・・・・!

それでも 焦る気持ちで、私は彼の服にしがみ付きながら必死に訴えかける。



「お願いですっ、早くしないとっ・・・!」

「ばっ・・・馬鹿、デカイ声で叫ぶな!おっおお俺が悪い奴に見えるだろ・・・!」



いや悪い奴じゃんロケット団って。

心の中で密かに思ったが、今はそれを言う気力も無く ただ必死に彼に頼み込むしか望みがなかった。
するとまたもや目からボロボロと涙が溢れ出て、それを見た彼がギョッとしだしたが そんな事は関係ない。

ああ、どうせ今の私の顔はみっともないでしょう。えぇなんとでも笑えばいい。

顔は真っ赤に染まり、目も涙でぐちゃぐちゃになっているだろうが 鼻水を垂らしていないだけマシだろう。
私は、目の前に居るしたっぱの手を両手で掴みながら じっと彼を見つめた。
一瞬彼が動揺したように見えたが、そんなのは気にしてはいられない。




「お願いしますっ・・!」




ふと、握っていた手が一気に熱くなった様な気がしたのは私の気のせいか。
彼は口をパクパクさせては「あー」だの「うー」だの何か上手く喋れないのか、行き成り唸りだし始める。
そして仕舞いには顔を横に向けて、私から避けるかのように顔を見せようとしてくれない。




「おっおおお女に泣かれたら俺どうしようもねぇだろっ」




頬を真っ赤にさせて、そう呟いた彼の言葉に 一瞬私は固まってしまった。
そう言えば私って今・・・・、

不安になり、胸から足まで自分の姿を目で追ってみると 着替えた時から変わっていない自分の格好に驚愕した。



(あっ・・・しまった・・・服スカートのままだ!)



顔が一気にサーッと青ざめていく感覚に、私は頭がクラリッと傾いた。
ああ駄目じゃん、このままで行ったら気付いてもらえない所か 女って隠してきたのが一瞬でバレてしまう。

フラリッと体が揺れ、倒れそうになったところを したっぱの彼が支えてくれたが、今ではその優しさすら悲しみを増すだけだ。

ああ、もう駄目だ 私どうしたら良いか分かんないよ。



「ど・・どうしたら良いんですかっ・・・先輩ー!!!」

「うわっ・・どっどうした!?何行き成り泣き出してんだよっ!」



今度は向こうが必死になって私を慰めるが、涙は一向に止まる気配が無い。
手で拭っては拭っては袖が濡れてしまい、視界も頭もボヤけてしまった私は
そのまま訳も分からず目の前に居る彼の腹に顔を埋めて、その腰に強く抱きついて泣いた。
その瞬間、ビクリッと彼の体が震えたが そのまま固まって特に私を引き剥がそうとはしなかったのでいい様にそのまま泣き続ける。

ああ、なんでロケット団のしたっぱの人ってこんなにも優しい人達ばかりなんだろうか。


そんな事を思いつつ、密かに彼の服で涙を拭っている私は最低だと思うが 知ったこっちゃない。

すると後ろからドサッ・・・と、何か荷物を落とすような音が突然聞こえてきて ビクリッとおもわず肩を震わせてしまった。
何事とかと思い、私はその音のする方へゆっくりと顔を向けると そこには私達を凝視して固まっている女の子が一人。
口元を押さえていた手をビシッとこちらに勢い良く向けるなり、彼女はありったけの声を振り絞って叫んだ。





「お、男が女性を泣かすなんて最低っ!!!」


「はっ・・!?ち、違ぇよ!俺じゃねぇからな!」




すぐさま彼は女の子に言い返したが、それでも彼女がしたっぱを見る目は変わらずに ギロリとその視線を向ける。
その凄まじい眼差しに固まってしまった彼を見た彼女はこちらに走って来るなり、私から彼を素早く引き離した。
さ、最近の女の子って意外と力強いんだね。

すると彼女は、私をしたっぱから隠すように抱きしめながら距離をとるなり がっしりと腕を掴んだままこちらを見てくる。
大きくて くりくりした瞳に薄茶色の髪に、可愛らしいその顔つきには似合わないほどの腕力に私は内心驚いた。




「私はコトネって言います、お姉さん何処も変な事されていませんか?」




私はその女の子の勇敢さに驚愕してしまい、言葉すらでなかった。

















ヤドンの井戸での出来事















それは少し前の出来事。

相変わらず俺をじっと見つめてくるランス様を無視しながら、暫く刃物を握り直して時間を潰していた。
だが、それも長く続かず とうとう堪えきれなかったランスが彼の元へと苛立ち気にやってきて鋭い視線で睨んでくる。



「どうしました、早く切ったらどうです?」

「ええ、切りますよ。今から切りますから気が散らないように向こうに行ってて下さい」

「その台詞はいったい何回使えば気が済むんですか、貴方は」



フッと馬鹿にしたような笑みで見下され流石の俺様もカチンときたが そこは長年の付き合いだ。我慢ぐらいできる。
だけど先程から何故か、俺はこのボヤッとした間抜け面のポケモンのシッポを切れずにいた。

この間までは普通にただシッポを切るだけだと思っていたが、それがどうやら此処に来たとたん出来なくなっていた。
だぶん同室に居る馬鹿野郎のせいで、俺様の考え方が少し変わってしまったらしい。



(別にこんなポケモン、俺も好きじゃねぇけどよ・・・・でも何か)



チラリと横目でヤドンを見れば、「やあん?」と不安げにこちらを見上げてくる瞳とバッチリ目があってしまった。
瞬時に俺は顔を横に背けたが、その先にはこちらを じっ と見つめてくるランス様とも目が合い 俺は最悪な気分になった。
ああ、なんだよ。その楽しそうな顔は。



「貴方、まさかとは思いますが・・・ヤドンが好きなのでは」

「いえ別に」

「嘘をおっしゃい。ほら、そんなに好きなら抱きますか?どうぞ好きなだけ抱きしめなさい」

「いや寧ろ嫌いですから。ってかその顔にピンク色って気持ち悪いですよね。俺さっきから切りたくても触るのすら嫌すぎて
 切れずにいるんですよ。いやー困った困ったどうしましょうか。とりあえず逃がしましょうか」



棒読みでいっきに早口で言ってやれば、それすらも面白いかのように微笑みながらこちらに素早く近づいてくるランス様の姿が。

いやだからよ、ヤドンのシッポを掴んでそれを俺に抱かせようとすんなよ。しかも超笑顔じゃねぇかこの上司腹立つぜ。



「持って帰りますか?なんならシッポを切った奴で良ければ袋に入れますが」

「食い物みたいなノリやめませんか。仮にも生き物なんですよこいつ等」

「ほら、貴方の愛しいヤドンですよ。私がシッポ切っている間 そこでずっと頬ずりでもしていなさい」



(誰がするかよ!)


なんかだんだんランス様が名前に見えてくるのは俺だけだろうか。
この馬鹿にしたような顔に、俺がヤドンを好きだと勝手に思い込む性格。どう見ても一緒にしか見えない。


(いや、寧ろ案外2人お似合いなんじゃねえのか。話合いそうだしな・・・・)


そう思いつつ、前でランス様がヤドンを持ったままこちらをじっと見つめてくるこの状況はかわる事は無い。
「早くしろ」とでも言うかのようなその顔は今の俺をイラつかせるのには充分すぎる程で、無意識に開いているほうの手を握り締めた。


なんか、ヤドンとランス様の組み合わせってありえねぇ程ムカつくよな


とぼけた顔に、何でも知ってますよ とでも言った様な顔が、同時に彼を見つめるものだから流石にイラついてきたのか。
自棄になった俺はヤドンのシッポを鷲掴み、右手に持っている刃物を握る力を強める。



「わかりましたよ、切れば良いんでしょう」



その瞬間、ランスの口角が釣り上がり俺はまんまと騙された気分になったが、そんな事はもうどうでも良かった。
そのまま刃物をヤドンのシッポに添えると、ピンク色をした体がビクリッと動く。
少しでも力を入れてしまえば、すっ と簡単に切れてしまいそうなソレを 俺は一瞬切ろうか迷ったがもう後戻りは出来なかった。


俺はロケット団だ、こんな事が出来なくてどうする。


切らないと言う考えは諦め、ぐっと手に力を入れようとしたその瞬間だった。





ピロピロピロッ・・・!






井戸の中では普段鳴らない様な高い音が地下内に響わたり、俺とランス様は驚いて目を見開く。
それは腰に付けている鞄から聞こえ、中に入れてあったポケギアが突然鳴り出した音だった。
刃物を地面に置き、それを取り出してみるとそこには名前からの着信を知らせる文字が映し出されている。

俺はこの時程、奴に感謝した事はなかっただろう。

ランス様が悔しそうに舌打ちしたのも気にせずに、俺は勢い良く通話ボタンを押した。



『先輩』

「あー、お前か。今ヤドンのシッポ切るところなんだから邪魔すんなよ」




「よくそんな台詞が言えますね」と、後ろから上司の鋭いツッコミが聞こえたが、俺はそれを普通にスルーする。
白々しいが、今の俺にはいちいちランス様の機嫌を取る余裕なんて残念ながら持ち合わせていないしな。

俺は相手に悟られないように気だるそうな声を出すが、実際にはそれとは裏腹に表情は凄くご機嫌だ。
そしてそれを面白くなさそうな顔で見ていたランス様は疲れたのか、それとももうどうでも良くなったのか。
わざとらしく大きな溜息を吐くなり、自分の持ち場へと戻って行ったその姿を見て 俺は密かにガッツポーズを決めこむ。



(はっ、ざまぁみやがれ)




無意識のうちに自分でヤドンの頭を撫でているのも気付かずに、そのまま俺はポケギアに耳を傾けた。
とりあえず、お礼ぐらいは言っとくか。

そうは思ったものの、どうやら先程から喋らない名前の様子に 少し不審に思った俺は首を傾げた。
だが次の瞬間、いきなり機械の向こうから聞こえてくる啜り泣き声に俺の頭は一瞬真っ白くなり、そのまま硬直してしまう。


な、泣いてるのか・・・・?




「お・・おいっ、お前何かあったのか・・・?!」





初めての事に、慌てながらも必死にポケギアに向かって俺は叫んでみるが 返ってくるのは嗄れた泣き声だけだった。
少なくとも奴はちょっとした事では泣かないような性格をしているから、今回の事に関しては流石の俺も驚いた。




そしてそのままポケギアの通信は切れ、ブツリとした音が俺の頭の中に響わたった。






(いったい何があったんだ・・・?)







買い物をしている筈の後輩が泣いている事に驚愕した俺は気になり、仕事も手がつかずに暫くそこに立ち尽くした。
だが考えるよりも体が先に動き、彼はポケギアを鞄にしまうなり出口に向かって走り出した。

途中、シッポを切っている新人が何回もこちらを見てきたが そんな事はどうでもいい。
でも同僚の女がこちらを見てきたときには、流石の俺もギョッとしてしまい 思わず足元のバランスを崩し転びそうになった。



「ちょっと!!あんたランス様の命令すっぽかして何処に行くつもりなのよ!」




鬼のような形相で追いかけてきたソイツに、不覚にも恐ろしいと思ってしまった俺は走る速度を速めた。
ランス様の部下である女性は全員、彼絡みの事となると性格が豹変するから本当に面倒だ。




(本当にランス様のしたっぱって良いことがなんもねえな)





周りの同僚共が哀れみの視線を送ってくるだけで、助けようとしない姿を見ると
恐らく彼らも彼女になにか言われたんだろうな と、逆に俺も同情してしまった。














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やっとヤドンの井戸まできましたっ・・!
なんか此処までくるのに凄く長かったような気がします(笑

さて、今回は前回のお話しを先輩視点から書きましたが・・・・
やっぱり彼はヤドン好きなんじゃないのか^p^←←
そこのへんも次回はっきりさせていこうかと思います←(どうでも良い
そして女性したっぱの凄さ!(笑)これからも活躍してくと思われます。


09/12/03

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