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新人追跡調査












「ようランス、お前随分と苦労してるらしいな」

「・・・・どうして貴方がこんな所に居るんですか」





ニヤニヤと笑っている彼に向かって、ランスは大きなため息を吐く。

そもそも食堂なんか したっぱの集まり所なんだから、幹部である彼が此処で有意義にコーヒーを飲んでいるのは
どう考えてもおかしな姿であった。

ああ、そうやって私が顔を顰める度に面白そうに笑うその姿、いつ見てもムカつきますね。この髭面が。




「まぁ、そんな所で突っ立ってねーでお前も座ったらどうだ?」

「そんな姿ばかり見せていたら幹部としての示しが付きません」

「大丈夫だろ、今何時だと思ってんだお前」




そう言って彼は壁にかかっている時計を顎で示した。
見れば、まだ時刻は午前4時で 外も薄暗く鳥すら鳴いていない。

確か、したっぱ達が起床する時間はだいたい6時頃だったか・・・・。

彼が「な?」と微笑しながら問いかけてくるものだから、ランスは渋々向かい側の席に腰をかけた。


(まったく・・・これだから暇人の相手は疲れるんですよ)


チラリと前に座っている彼を盗み見てみると、そこには
ダラッと椅子に寄りかかり、コーヒーを飲んでいる彼の姿があったが 疲れきっている感が駄々漏れだった。


また部下がヘマでもしたのか
その後始末をしていたらこんな時間にまでなってしまったと言う事だろう。毎回このパターンが多いような気がするのは気のせいか。



「いつも、この時間に居るんですか」

「ああ、まーな」

「コーヒーぐらい自分の部屋で飲んだらどうです?」

「あー・・なんて言うか自分の部屋より、こういう広い場所で飲んだほうが疲れがとれるっつーか・・・」




彼はそう言ってゆっくり溜息を吐きながら、ぼーっと窓の外を見つめる。
まだ夜の様に暗いが、幾分時間がたったせいか 先程よりは若干 空も明るくなっていた。

その様子を、彼はマグカップに口付けながらただ静かに眺めていた。




「こうやって外眺めてると、少しは疲れが取れるような気がすんだよ。まぁ此処って窓でけーから良く見えるし」

「その前に疲れないようにしたらどうです・・?貴方、ここのところずっと寝不足でしょうに」

「お前に言われたくないんだがな、お ま え に。」




強調して言われれば、ぴくりっ とランスの眉が釣り上がったのがわかる。今の一言で怒らしてしまったか。
だが、それすらも面白いのか 彼は平然と笑った様子で話し続けている。



「あれだろ、お前 なんでもやっかいな新入団員が入ったそうじゃないか」

「・・・・・・・・・・・・・」

「お・・おい、そんなに不機嫌になんなって」



チッと舌打ちをし、指でトントンと苛立ち気に机を叩き出したランスを静めるように言ってやれば
今度は足を組んで前にあった椅子を小さく蹴り飛ばした。

おいおいどんだけイラついてんだよお前・・・。


苦笑いしながら 彼はランスの機嫌を窺がいつつ、話を進める事にした。



「で、聞く所によると お前に刃向かったらしいじゃねぇか」

「ええ、常識知らずで馬鹿な部下が上司である私に『こんな仕事は出来ません』とかほざいてましたよ」

「ひゅー、やるなぁソイツ」

「何笑ってんですか。貴方本当にその髭ヤドンのシッポと一緒に切りますよ」

「おいおい、仮にも俺はお前より年上だぜ?もうちっと労われよ」



更に不機嫌になった彼に、これは相当な事があったに違いない と彼の興味がフツフツと湧いてくる。

ああ、いったいどんな奴がランスをこんなんになるまで追い詰めたか 見てみたいもんだな。

クツクツと喉で笑っていると、ランスは何かを思い出したのか またもやイラ立ち気に舌打ちをして一人で考え込んだ。
暫く黙っては小さく唸りだし、またもや近くにあった椅子を少し蹴っては髪をくしゃりっ と握りつぶしたりしている。


(おいおい、どんだけイラついてんだコイツ)




「なぁ、お前何をさっきからそんなにイラついてんだよ」

「何って、そんなの仕事を嫌がる生意気な部下しか居ないでしょう」

「あー・・ていうかヤドンのシッポ切るだなんて誰だって嫌だと思うがなー。まぁ俺が担当じゃねーから良いけど」



はははっ と俺は軽く笑ったが、どうやらランスの怒りはまだ治まらないようだ。
その生意気な部下の『仕事が嫌だ』だか何だか知らねえけど、きっとそれだけでここまで怒る様な彼ではない。


意を決してランスに「どうしたんだよ」と問いかけてみると、その言葉に弾かれるように彼の鋭い瞳が俺を捕らえた。
おお、恐えー。

そのままランスは眉間を手で押さえながら、考え込むように喋りだした。



「私だって、好んであんなポケモンなんかのシッポを切り落としてるんじゃありませんよ」

「・・・・ああ、そうだろうな」

「けど何を思ったが知りませんが、・・・・彼はよっぽどヤドンが好きなのか、私に嫌味を言ってきましてね」

「嫌味?」

「えぇ」

「なんて」



不思議そうに問えば、ランスは再び ぐっ と眉間に皺を寄せ 口の動きが止まる。
それを彼は面白そうに見つめながら、マグカップに入った残りをいっきに口に流し込む。

そしてランスは嫌々そうにも、その重たい口を開いて低く呟いた。




「この私に『ヤドンに呪われろ』と言ってきました」





ブッと飲んでいたコーヒーを少し噴出してしまい、飛び散ったそれを汚そうにランスは見た。
いやだってこれは噴出さないほうが可笑しいだろ。


(の・・・呪われろだってっ・・?
 あ、あんなボヤーっとしたような顔のポケモンにランスが・・・っ)


口元を手で押さえ、しばらく彼は肩を震わせていたが、それも長くは続かなかった。



そして暫くしてから、朝方から食堂に彼の笑い声が響き渡ったのを
ただランス一人だけがとても不機嫌そうに聞いていた。




















新人追跡調査





















ま、と言うわけでこのラムダ様がランスの言う『生意気な部下』とやらを見に、わざわざ来たのはいいんだけどよ・・・・














「なぁ、お前名前って奴知ってるか?」

「おはようございますっラムダ様。名前ならもうとっくにランス様の部下を辞めましたが・・・・」

「・・・・・・は」



不覚にも、俺はランスのしたっぱの台詞に唖然としてしまった。
いやだってアイツは一言もそんな事は言っていなかったが・・・・。

だが、あの後ラムダがあまりにも笑いすぎるものだから それにキレたランスが机をバンッとおもいきり叩き、
その場を無言で去っていったのを思い出すと、「あぁ」と早くも一人で納得した。



(確か聞く前に、俺が奴を怒らしてしまったのか)



面倒臭そうにラムダは頭を掻き毟ると、丁寧にお辞儀をする したっぱに適当に相槌を打ってその場を離れた。
とりあえず、自分で探すのが早いか。

そう思った彼はゆっくりと歩きながら、行き先々に居るしたっぱに片っ端から名前の事を聞きだした。





















「何故だ・・・名前って奴、何処にも居ねぇじゃねーか」



ぐったりと肩を落とし、ラムダは途方にくれた。

とりあえず、ランスの所に居ないならアテナかアポロの所に居ると思った俺は
二人の所で働いている したっぱ共に聞きまくったのだが・・・
どいつもこいつも『ウチの所にはまだ、入ってきていませんが』と皆、口を揃えて言うものだから俺は驚くしかなかった。




(おいおい・・・どうなってんだよっ、いったい)




もう此処は用無しだ と、諦めたその時
イラ立ち気に舌打ちをし、次の場所へと移動しようとしたラムダの背中を一人のしたっぱが呼び止めた。




「あ、あのラムダ様っ」

「あ?・・・どうした」

「あの・・・直接本人の部屋に行かれてみては如何でしょうか・・・?」

「本人の・・・部屋」




成る程、その手があったかっ。
ラムダは したっぱに軽くお礼を言うと、そのまま名前とか言う奴の部屋の場所もついでに教えてもらい 再び歩き出した。


(あーあ、何だよ、最初っからこうすれば良かったじゃねぇか畜生。)


これだけ外を探しても居ないのだから、流石に自分の部屋には居るだろうと思った俺は気分を改め 早足で奴の待つ部屋へと向かう。
そして歩きながら 部屋へとの距離が縮まれば縮まるほど、自然とラムダの口元がニヤついていった。

ランスをあそこまで怒らした馬鹿な部下の顔を、是非ともこの目で見てやろうじゃねえか。





そして暫く歩き続けると、同じようなドアがいくつも並ぶ部屋がある道へとラムダはたどり着く。

その内の一つである部屋の前まで来ると、彼はいよいよかと ゆっくりドアノブを握った。
勿論、今のラムダの気分はいままでにないくらいに最高潮まで達していた。




「さぁ、どんな奴か見せてもらおうじゃねえか。名前さんよぉ」




ガチャリッとドアを開き、期待を胸に中を覗いてみると そこには予想外の光景が目に飛び込んできた。
一瞬よく状況が分からず、中に足を一歩踏み出してみるが やっぱり変わりは無く 俺はその場にただ立ち尽くした。

おいおいマジまよ・・・・嘘だと言ってくれ




「何で誰も居ねぇんだよ」





脱力感からか、ラムダはその場に唖然と突っ立っていると、通路を通りかかった したっぱと目が合う。
俺はもう何も聞く気力も無く、ただソイツが去るのを呆然と見ていたら いきなり奴は俺に向かって口を開いた。



「あ、もしかしてラムダ様・・・彼等の部屋になにか御用事でも」

「・・・まぁ部屋に用事っつーか本人に会いに来たんだが」

「あー、残念でしたねラムダ様」

「何がだよ・・・・」








「だって彼等は今 ヤドンの井戸と、もう一人が買出しに出かけているんで今日一日中 二人とも留守なんですよ」








また明日にでも来たら居ると思いますよ と笑う部下に対して、俺はぐったりとその場に座り込んだ。
ったく、畜生なんなんだよ。


(よりによって何で俺はこんなにも運がついてないんだろうな・・・・)


だが折角の休み時間を削ってまで探し出した結果がこれとなると、何だか少し胸の奥がモヤモヤとしてくる感覚に犯された。
今ならランスの気持ちが少しだけ分かる様な気がしてくるのは何故だろうか。





確かにとんでもない奴が来たもんだな・・・・。






ラムダはそう心の中で呟くと、一人残された廊下で静かに笑っていた。
そしてその目はギラリと、獲物を捕らえるような光を放っている。






「精々、俺に遊ばれないように行動するんだな」






とりあえず、手始めに色々と仕掛けをしてやろうかと ラムダは部屋のあらゆるところに悪戯をしまくった。



勿論、それに名前達が気づくのはそう長くは時間はかからないだろう。















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5000hit記念のリクエストで、連載番外編のラムダ様との事で書かせていただいたのですが・・・
了様、こんなので本当にすみませんんん!!!←(スライディング土下座

もうラムダ様の口調が上手く掴めずに、私の予想で書いてしまったのですがどうしましょう^P^(知らん

とりあえず、本編の方でも早く彼を出せる様にリクエスト(番外編)と連載の方を同時進行で早め更新でやってきます**(笑
了様、リクエストして頂き本当に有難うございました^^*



09/12/01

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