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「では皆さん、作業を始めましょうか」




しん・・・と静まり返ったヤドンの井戸の中で、ランスは平然とした顔で俺達にそう言った。

今日の俺達の仕事は、新入団員も交えたヤドンのしっぽを切る作業。
今頃は此処にアイツも居たんだろうけどよ・・・まぁ幹部様に逆らっちまったんだから居ないのは当然の事だよな。

ぞろぞろと皆が移動していく中、彼だけがポツンとその場で立ち尽くし 何かを考え込んでいた。
するとそれに気付いた幹部のランスが、何やら面白そうな顔をしてこちらを見てくる。




「おや、何やら納得がいかない顔をしていますね」

「・・・そうですか?」

「えぇ、すくなくとも私には。あぁ…あれですか、あの非常識な貴方の後輩の事でしょう?」




クツクツと喉で笑う幹部に対し、俺は少しイラついたが黙って聞き流していた。

別に誰が何処の仕事やってたって俺様には関係ねー事だし わざわざ首を突っ込む必要もない。
だけどアイツの事となると 何処かほっとけないような気持ちにさせられてしまうのは何故だろうか。

彼は顔を顰めながら、静かにヤドンのシッポを鷲掴んだ。


(畜生、これを本当に俺は今から切るのか・・・。)


けど、嫌でも仕事は仕事。これはけじめをつけなければならない。



だが彼の刃物を握る手が微かに震えていたのを、ランスは見逃しはしなかった。






























「お預かりしたポケモンは元気になりましたよ」



ニコッと天使のような笑顔でジョーイさんはシルバーにボールを返すと、「またいつでもご利用下さいませ」と綺麗に微笑んでくれる。
彼は何でもないように素っ気無くボールを受け取ったが、私の顔は相変わらずニヤけっぱなしだ。



「良いよねージョーイさんって。私も過去に何回お世話になった事か」

「馬鹿かお前・・・そんなんだからポケモンにも呆れられんだよ」

「失礼な。ワニノコをあんなのになるまで戦わせたアンタに言われたくないよ」



じっと横目で睨みながら言ってやれば彼は「ぐっ」と口を詰まらせ、黙り込んだ。

どうやら彼はワニノコを研究所から盗んだ後、先にポケモンを貰ってた子に自分から勝負をしかけておきながら
ヒビキと言う男の子にコテンパンにやられたあげく、負けたら負けたで彼と一緒に居た女の子に
「盗んどいてこの結果はちょっと・・・・」と哀れみの言葉を浴びせられたらしい。ああ何とも可哀想に。

そしてその後にすぐワニノコを回復させようと思ったのは良いがポケモンセンターが近くになく
急いで走っていたところを私とぶつかったと言う訳だ。

本当に、なんというか・・・・





「まぁドンマイ」

「何笑ってんだよっ!!」

「いや女の子の前で負けるだなんてアンタもついてないなと」



私はニヤついた顔のままポンッと彼の肩に手を添えると、それは勢い良くバッと振り払われた。
あー、本当にこれだからツンデレは困るよ。

名前はため息を吐きながら彼を見て、そのまま自分の腰にあるモンスターボールに手をかけた。
すると何を思ったのか、彼は驚いた顔で私のボールを見つめてくる。




「私もジョーイさんに預けようかなー」

「ちょっと待てっ、・・・お前ポケモンなんて持ってたのか・・・!?」

「え、うん持ってるけど」

「聞いてないぞっ・・・、いつ戻ってきたんだ」

「いや戻ってきたって言うか・・・・」



うーん と、眉間に皺をよせて唸る私を 睨みながら見つめてくるシルバーの視線は凄まじかった。
本当に3年の間に何が彼を此処まで変えてしまったのか不思議でならない。

だがそんな事より今はこの状態について考えるべきだろう。
そのまま首を傾げながら、私は必死で頭の中から言い訳を探し出す。

ここは上手い事誤魔化しておこう。



「手持ち居ないのは流石に嫌だったから、野生のポケモンを二匹程捕まえといただけだよ」

「・・・んだよ、結局は何も変わってねえじゃねえか」

「まぁ、そう簡単に去ったポケモンは戻ってはこないもんだよ」

「・・・・・・・」




3年前以来、一度も自分のポケモンを見ていない私にとっては自分の言葉がそのままズッシリと重く返ってきた。
もう一度で良いからやっぱり触ったり、撫でたりしたいと言う思いが ふつふつとこみ上げてくるのが分かる。
ああこれは墓穴を掘ったな。
そのままボーっと床を見つめながら3年前の事をいろいろと思い返してみたりするが、やっぱり今でも思い出したくはない物だ。

そして何処か思いつめたような顔の私を見てか、シルバーは黙りっぱなしなまま動こうとはしない。




「シルバー?・・・・」



心配になって声をかけてみるが、やっぱり反応は無しだ。
いったいどうしたのだろうか。

私はとりあえずボールをずっと持っているのもあれだから、ジョーイさんに預けようとカウンターまで移動しようと足を動かした。
だけど、それはすぐに横から伸びてきた手に腕を強くにぎられたため、数歩となく歩くことは出来ずにその場に立ち止まった。



「どうしたのシルバー・・・」



言いながら振り向けば、そこには唇を噛み締めて睨んでくる彼の顔があった。
真っ直ぐに強く鋭いその目は、私に何かを言いたくてたまらないような顔をしているのがすぐに理解できた。
そして燃える様な赤い瞳に映る自分の姿は、彼に驚いてピタリとも動かない様子をそのまま映し出している。



「・・・でだよ・・・」


「シルバー・・・・?」



そっと彼の肩に手を触れようとしたが、それはいとも簡単にバシッと振り払われた。

そしてそのまま私の反対の手から奪うようにボールを取ると、彼はそれを無理やり自分の鞄の中に詰め込んだ。
私は手に持っていたモンスターボールが無くなったのに気が付くのに少し時間はかかったが、ハッと意識を戻してシルバーを睨む。

どうしてっ?



「ちょっとシルバーどうしたの・・?!私のボール返しなさい」

「うるせーよ」

「は・・・」



ドスの効いた声で低く呟いた彼の言葉に、一瞬体がピタリと凍りつく。
名前はそのまま彼の顔を見てみると、そこには軽蔑の眼差しでこちらを見てくるシルバーの姿があった。

本当にいきなりどうしてしまったのか・・・・先程から私を見てくる目が違って見えるのは何故なの。



「そうやって・・・いつまでもウジウジしてっからいつまでたっても戻ってこねーんだよ。今のお前・・・・見てるだけでイライラしてくる」



そう言うと彼はそのまま小さく鼻で笑い、飛び出すようにポケモンセンターから外へと走り去ってしまった。
急いで私も後を後を追いかけたが、驚いた事に そこにはもう彼の姿は居なく ただ町の人が行き交うだけだ。
あまりの速さよりも、今この現状に動揺してしまっている自分に 私の心臓の音は鳴り止まなかった。



「なんで・・・・なんでそうやって簡単にポケモンを盗んだりするのよ・・・・・。私の・・・私のせいだから・・?」



少なくとも、昔の彼ならばこんな事する様な子じゃなかった。
それどころか寧ろ、盗んだりする奴を見ては毎回怒っていたぐらいだ。
なのにいつからか、研究所から盗み そして私からも今盗んでいった。

もう、あんな顔はできれば見たくない。


けどそうさせたのは私なのだと気付いてしまったものだから、それは余計に悲しい事なのも事実。






「今思えばロケット団に入ったって言わなくて正解だったかもね」




ははっと力なく一人で笑ってはみるが、それも虚しく何だか視界がボヤけてくる。
ああヤバイ・・・タイミングが悪すぎるかも。

だが私はつくづく馬鹿な事をしてしまったんだ、当然の報いだ。

幻滅されたかもしれない、幼い頃からずっと一緒に育ってきた彼に始めて。
そう思うと私は手が振るえて、目まで自然と熱が集まってきた。


そしてその手は自然とポケギアまで伸びていた。
ボタンを押す手がカチカチと小さく震えている姿を見て、馬鹿だなあ と自分でも思う。

だけど今は誰かに言わないと気がすまなかった。




「先輩」





震える声を我慢して私は喋った。
勿論それは彼にこんな間抜けな声を聞かれるのが嫌だったから。


だけど機械を通して聞こえてきた声に、私は限界に達した。






『あー、お前か。今ヤドンのシッポ切るところなんだから邪魔すんなよ』






いつもの声に、気だるそうな先輩の顔を思い出したとたん 私の呼吸は一気に詰まるほど苦しくなる。
ボロボロと流れ出る涙に、今まで我慢してきた物がいっきにあふれ出てきてしまい、必死に手で拭うがそれも追いつかない程。
堪えきれずに、泣き声まで完璧に向こうに聞こえてしまっているに違いない。
それでも止まらない私の声に、明らかに向こうは驚いた様子で慌てだす。





『お・・おいっ、お前何かあったのか・・・?!』






一言一言が私の心の中でじわじわと染みていく感覚に、頭が痛くなった。

今すぐ彼に会って話したいが、何から話そうか。
とりあえず、今は電話ではなく会って彼の顔を見て話したい。


兎に角 私は彼に会いたくなって、ヤドンの井戸があるヒワダタウンまで走り出した。




その間にも、私の頭の中に残るのはあの赤髪の彼。

罪悪感と言うより、自分の馬鹿さにイラつきが襲ってくる。
聞こえてくる声を無視して、ポケギアの通信をきった私はそれを乱暴に鞄の中に入れた。






(ああ、本当に私って・・・)























無神経すぎるにも程がある






















あいつはどんなポケモンでも良かったのだろうか。

・・・いや、そんな筈は無い。誰でもずっと一緒にいたポケモンが大切なのは当たり前の事だ。
俺はアイツがどれだけ自分のポケモンを大切にしてきたのかが分かってるし、それは幼い頃から目の前で見てきた事だ。

だけど・・・あの時、俺はイラついて仕方が無かった。

必死の思いで手に入れたポケモン。確かに盗んだのは悪いとは自分でも思っていた。
けどそれでもアイツの過去を見てきた俺には少しでも力になれればと思った。

なのに何故か、アイツはヘラヘラとした顔で慌てた様子もなく
ただ ボーっ といつか自分のポケモンが戻ってくるのを待っているだけにしか見えなかった。




「まぁ、そう簡単に去ったポケモンは戻ってはこないもんだよ」




何が簡単には戻ってこないだ。お前が自分から動かねえだけのくせにっ・・・。

チッと舌打ちをして、シルバーはボールを乱暴に地面に投げ捨てると それは勢いよく飛び出してきた。
バサバサッと宙を舞うそのポケモンは俺と顔が合うなり、首を傾げてこちらを見てきた。



「ズバットか…、まぁ良い。アイツの代わりに俺が強く育ててやるよ」



俺はポケモンをボールに戻すなり、少し笑いながらそう言った。
そしてそのボールを上に軽く投げては手でキャッチし、隣にいるワニノコと一緒に歩き出した。





アイツが動かねえなら、俺がやってやる。







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相変わらず彼がツンデレて無い事が・・・orz
ライバルファンの皆様、申し訳ございません・・!

ああ、誰か私に分力を^p^
さて、買い物&ライバル君編(←)は一時終わり 次からは再びロケット団に戻ります。


09/11/29


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