この世の終わりが君の笑顔でありますよう(東方/蟲H+幽) 蝶や蜂が飛び交う季節、例年のように私は其処を訪れる。燦々と太陽の光が降り注ぐ其処にはやはり美しく健やかに花達が咲き乱れていて思わず口元が緩んだ。この様子だとどうやら彼女も元気にやっているようだ。軽い挨拶と事務報告を済ませようと周囲を見回し彼女の白い傘を捜す―――しかし見付かったのは水色の髪に青いリボン、同じく青いワンピースを纏った氷精だった。 げ、と口から声を漏らす。なんであいつが此処に。 「あーっ!リグル発見!!」 此方の気も知らず奴は私を指さし叫んだ。バカ、そんな大声を出して彼女に見付かりでもしたら。 そんな私の焦り通り、奴の背後から白い傘をさした影が現れ野良猫でも扱うかのように奴の襟を掴んだ。 「あらリグル、今年はお友達も一緒なのね」 「……はは」 上品な毒を隠し持った花のように微笑み彼女――幽香は云った。 その手元ではつまみ上げられた氷精がむきー放せーと暴れている。別に私が連れて来た訳では無いのだけど、と云うと幽香は照れなくてもいいのよと笑う。いや照れてないって。 「おのれリグル謀ったなー!あたいを罠にかけようだなんてリグルの癖に生意気よ!バカリグル!」 「バカはお前だチルノ。此処がどこだか分かってるのか?」 じたばた手足を動かしながら喚いていたチルノが思い出したように周囲を見回す。およ?と首を傾げた後に合点したように手を叩いた。 「花畑か」 ってあたし居ちゃまずいじゃん早く云いなさいよリグルのバカ!とまた私を指さし糾弾する。自分の居場所くらい把握してろバカ、と云いたくなったが此処で喧嘩しても仕方ないのでぐっと言葉を飲み込む。 「そういう訳だから氷精さん、私貴女のお友達とお話があるの。少しの間席を外してくれないかしら」 できればこの子達から離れた所に、と幽香は云う。その口調こそ穏やかなものの其処には逆らえないオーラが漂っている。流石にチルノもそれを察したのだろう、おおう、と応えるなり一目散に上空へ飛んでいった。 「可愛いお友達ね」 簡単な事務報告を済ませた後、チルノの方を見遣りながら幽香は云った。随分遠くにいるのだろう、元々小さいチルノが豆粒くらいに見える。ましてあまり良くない私の目のこと、奴の姿はほとんど空の色に同化してしまっていた。 「そう思う?」 「ええ。いい向日葵になりそう」 冗談なのか本気なのか、幽香は平生通りの余裕めいた笑みを浮かべたままだ。 「……やらないよ」 見上げた太陽は眩しく私の目を彼女から外させる。しかし普段居る水際ならともかく、あまり太陽に近付くと溶けてしまうのを奴は理解しているのだろうか。 「幽香には、やらない」 不意に起こる風がこの時季ならではの匂いを運んでくる。隣で彼女がくすりと笑う気配がした。だから私も微笑んで空を目指し飛び立つ。愛しいバカな氷精が私の見えない所で蒸発してしまわないうちにその小さな手を掴むために。そうして私を見付けたあいつは最高の笑顔を見せるのだ。 この世の終わりが君の笑顔でありますよう ―――――――――― お題をお借りしました 配布元様:夜風にまたがるニルバーナ [前][次] [戻る] |