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海溶けの弔花(ノイ玉)

潮風にヘッドフォンから洩れる雑音が流されて海猫の鳴き声が聞こえた気がした。先刻から左手に持った一輪の花が揺れている。名前は買う際に聞いた筈だが少年にとって花の名前は記号に過ぎず記号としての名前などその花を手向ける相手にはもう不必要だったので道の端に棄てて来た。だから最早左手のそれは花弁がコピー用紙のように白いという意味しか持っていない。
耳元の交錯に彼女の声を探すがそれが存在しないことは彼自身よく分かっていた。少年のコードに音を切り裂いて飛び込んで来た少女は六月に死んだ。そしてその死を悼む精神も資格も少年は有していないのだった。右ポケットに入れた瓶を傾ければ中身が動いてさらりと小さな振動を冷たい指先に伝える。幾度目かの強い向かい風に少年は瞬きもせずささめくように光を反射している海面を睨んだ。
朝からずっとこうして追い風を待っている。
左手のそれは自らの葉で花弁を打ち付けて萎れそうになっていたが少年は関係ないとでも言うようにひたすら海面を見ていた。やがて鼓膜の裏側を抜けるような一声とともに漸く風向きが変わる。彼は空間を裂くように花を海へと放り投げると共に右手の瓶を開け白い粉末状のそれを一気に飲み干した。





    海溶けの弔花
(記号に報いる名前など持たぬ)













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お題をお借りしました
配布元様:夜風にまたがるニルバーナ

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あきゅろす。
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