手を伸べる水を掴む箇所から灼け爛れる(ノイ頭) 俯くナイフに脆弱を振り掛けたら、お生憎さま、死にたがりのハンプティ・ダンプティ首を吊った。眠りながらあの人の眼鏡を探す。鉄を打つ時の熱で熔けて終うんじゃないかって、私本気で心配していたのよ。プラスチックの目玉が光を受けて煌めく。名前のない子、私がテディちゃんって名前をつけてあげた。可愛い名前だと思うのだけれど、お爺ちゃんは顔をしかめてそいつはウサギだぞと云う。分かってるわよ、そしてあの死んだ目をした青年なら、普通だね、とでも云うのでしょう。きっと彼はメデュサに会う時だって目をつむらないんだわ。ああ、でも、そう。 (あの人は、メデュサに似ているんだわ) 濁った金魚鉢、魚は毒に侵されながらも根を張ろうと必死に鰭を着飾る。円いビー玉に、私の顔が、歪む。 「ねえテディ、あなたの本当の名前を教えて。私が名付ける前の、生まれた時の名前を。 名前、ないの?可哀相にね」 私は、零れ落ちた言葉は泡になる。咽に何かが詰まって声が出ない。ごぽごぽと音を立てる私の前で硝子に彼の姿が真っ直ぐ写った。だからそれは本物の彼ではないのだ。私は、本物?ぷつりと咽の奥で神経が途切れる。彼の眼鏡は何処へ行ったのだろう。私はあれを割らなくてはならないのだ。古槍頭巾、彼が一度も呼んだことのない名前で、魚が鳴いた。私は魚の名前も知らない。 手を伸べる水を掴む箇所から灼け爛れる (幻影丈の夏、強迫観念等初めから無かったと鳴く) [前][次] [戻る] |