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噛み合わない歯車を切り裂く一陣のかまいたちを待てど暮らせどぼくらはそうして年老いる(僕友)

アパートに帰ると駐車場には真っ赤なコブラがこれ以上ないくらいの威圧感を放って存在していたのでぼくは重たい麦茶の入ったビニール袋を提げていたにも関わらず来た道を逆行して城咲に向かった。
エントランスを抜けエレベーターで目的の階に着き扉を開けた。中に入ってドアを閉める。
がちゃん。
「うに?いーちゃんおひさ。一時間二十六分五十三秒七四ぶりだね」
玖渚がベッドに寝転がり背中を反らした状態でぼくを逆さまに見ながら言った。
ちなみに今は昼の二時過ぎ。ぼくが此処を出た時奴は椅子に座って何やらパソコンを操作していたはずである。
「どしたのいーちゃん、忘れ物でもした?僕様ちゃんのセンサーの範囲内では無いんだけども。それとも失くしたものを取り戻しに行くのかな?じゃあいーちゃんはメンデレビウムだね」
そこまで一気に言って寝返りを打つ。ごろごろと転がり本来あるべき体勢に戻った。
「青い鳥の話はしてないよ。ちょっと思うところがあって友に会いたくなっただけだ」
「潤ちゃんに待ち伏せ喰らったんでしょ」
把握されていた。
……まあ、最初から騙すつもりも無いけれど。
「そういうお前は何してたんだ?寝るところだったのか?」
とても普通の人間が寝るような時間帯ではないが、玖渚は普通の人間ではないので時間はあまり関係ない。自分に都合の良いように寝、都合の良いように起きている。それが玖渚だ。そう思い訊いたのだが、ううん、と玖渚は首を横に振る。
「ちょっと考え事をしてたんだよ、いーちゃん。天井を見て考え事をする気分だったんだよ」
「考え事?」
「そ。考え事。って言ってももう解決したんだけどね。という訳でいーちゃん、その机に置いてある白い箱を取ってくれると僕様ちゃんはすごく助かるな」
漸く身体を起こして机を指差す。玖渚の小さな指が示す先には両手におさまるサイズの箱があった。立っているものは兄でも使う玖渚のこと、雑用係には慣れているためぼくは別段気にすることもなく言われた通りその白い箱を手に取った。
「取ったけど」
「開けて」
「はい」
しかしこれでは本当に小間使いのようだと思いながら箱の蓋に手をかけた、途端。
額に打撃を受けた。
「…………。」
視線を再度箱に戻すと、こちらを馬鹿にしたような顔のピエロが僕を殴った反動で根元のバネからボヨボヨ揺れている。やーい引っ掛かった引っ掛かった、と友がきゃたきゃた笑っていた。
まあ、半ば予想はしてたけど。
「………友」
「はーおかしっ。想像通り引っ掛かってくれちゃうんだもんいーちゃんってば最高!エキサイティング!イッツサティスファクションだね!それにしても本当お人よしだよいーちゃんは」
ひとしきり笑った後でぴょんとベッドから降りる。本物はこっち、と机の下から全く同じ(少なくともぼくにはそう見える)箱を取り出した。
「はい、今度はびっくり箱じゃないよ」
「世界破滅のスイッチか?」
「うにー、違うんだよ。勿論いーちゃんが世界を破滅させたいなんて本気で思ってるならそれぐらい僕様ちゃんだって作るけどもさ、じゃなくてちゃんとしたプレゼントだよ」
「大統領?」
「それはプレジデント。ついでに言うと講義のことでもないからね」
もしかしていーちゃん忘れたの?と不審そうに訊かれ漸くぼくは意味する所に思い至った。
「まさか……誕生日?」
「まさかっていうか正しくそれしかないよね。あーやっぱり忘れてたかー。まあいーちゃんだしね、しょうがないしょうがない」
腕を組み尤もらしく頷く玖渚。それは言い方だけ見れば失礼窮まりなかったが事実忘れていたぼくに反駁の余地は無かった。なのでぼくは素直にありがとうと言い箱を開く。幸い今度は不意打ちを喰らうことにはならず代わりにフリルがふんだんにあしらわれたエプロンドレスが出てくる。何だこれ。
「せっかくあげたんだから着てみてよ。ついでに御飯も作ってくれると嬉しいな」
「あのさあ友」
「何だいいーちゃん」
「帰っていいかな」
「別にいいよ。帰るも帰らないもいーちゃんの自由意思だからね、僕様ちゃんには拘束できないよね。でも今帰ったらいーちゃん潤ちゃんにそれはもう歓迎されちゃうんじゃないかな」
あう。
無駄に質量の多いエプロンドレスから視線を玖渚に移す。その得意気な笑みを見るかぎりどうやらぼくの選択肢は決められているようだった。全くこいつは。

「……何がいい」
「フライドポテトとチキンナゲットとハンバーグとシーザーサラダ」
「了解」
観念して衣装を身につけキッチンに向かう。何だか結局玖渚へのプレゼントになっている気がしなくもないがいいだろう。それにぼくへのプレゼントは玖渚の笑顔で十分なのだから。
戯言だけどね。

その時ぼくはどちらにせよ後日哀川さんに会うということを失念していた。





噛み合わない歯車を切り裂く一陣のかまいたちを待てど暮らせどぼくらはそうして年老いる












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誕生日てことで久々ほのぼの。

お題をお借りしました
配布元様:夜風にまたがるニルバーナ

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