かかしが笑った MEIKOとKAITO 心が欲しいとかかしはいう。 彼は歌って踊って、楽しそうなのに心がないらしい。 心が欲しい心が欲しいと歎いてる。心があれば世界がかがやいてみえるんだ、らしい。だからかかしは心が欲しいのだ。心はチクタクいうものらしい。 『わぁ、やっと心を手に入れられたんだ!』 嬉しそうに跳びはねるかかしを見ながら自分の胸に手をあててみた。 もちろんチクタクなんかいわない。いったとしてもキーンとかだ。 そうなると自分は心がないのか。アイスを掬ったスプーンを口に入れながら思った。 歌うのは好きだ。 歌を聞くのも好きだ。 それなのに心はないのか。 じわりじわりと瞳から涙が溢れて。 「なに泣いてんのよ、バカイト」 アイス食べて泣くなんてマヌケみたいよ、おいしすぎて感動でもした?といいながら腰に手を置きため息をつくめいちゃんに瞳を向け首をふる。 アイスはアイスでもダッツだし確かに美味しくて感動はするけど今回は違う。 初めて食べて泣くならともかく、これは今日二個目なんだから泣くわけない。馬鹿にされてるみたいで嫌だったのでそう言い返した。何故か呆れた顔をされた。 「…ねぇ、めーちゃん。ボーカロイドにはココロがないのかな?」 ぼだぼだとおちてくる涙をそのままにしながらめーちゃんに聞く。 心がないこと自体とくに不便はないけど、(だって元々は音データだし心がなくても歌えれば、)それなのに何故か涙が溢れてしかたない。 なんでだろうと思う。 バクか、ウイルスだろうか…だとしたらどうしよう。面倒だ。当分歌えなくなる。 嫌だなぁ、それでも涙がぼたぼたと流れてめーちゃんは益々しょうがないやつみたいに見た。 はいはい、といいながら手にとった布で涙をふいてくれる。 ありがとうめーちゃん、でもそれ僕のマフラーなんだけど、できればハンカチとかだったらよかったなぁ出したい言葉は次々と溢れる涙で掻き消える。 「なにくだらない影響受けてんのかしらないけど、ほんっと馬鹿ね、」 「酷いよめーちゃん」 ぐすぐすとアイスを食べる手を止めずにいう。甘くて美味しい。 「カイト、歌好き?」 「?当たり前だよ、ボーカロイドなんだから、」 「そう、アイスは?」 「大好き!特にダッツかな、でも最近はホーテンも好きなんだ。どうやれば歌いながらアイス食べられるのかなって模索中なんだよね!どうすればいいかな…もし歌とアイスを一気に味わえたら絶対世界一幸せなんだけどなぁ… もし世界にアイスがなくなったらきっと音のない世界みたいに味気なくなっちゃうんじゃないかって思うね。あ、なんか想像しただけで泣きそう…めーちゃん、そんな世界になったらどうしよう」 「あんた…」 何、というとなんでもないわ、とめーちゃんは首をふった。 「マスター…は当たり前として、私達は?」 「好きだよ?」 めーちゃんの相変わらずのマスター好きに少しだけ苦笑いしながら(まぁ確かに答えは同じだけど、)(ボーカロイドは皆マスターが好きなものなのだ。その中でもめーちゃんは付き合いが長い分特別らしい)質問の意味を理解できずに首を傾げる。 「で、それがどうしたの」 はぁとため息をつく。 頭いいのになんでこんな馬鹿なのかしらねぇ、とこっちにとっては不本意なことをは呟いた。 「じゃ、これが最後、辛かったり苦いのは好き?」 必至で首をふる。言葉にもならないぐらい当たり前なことだ。 知ってるはずなのに、なんでと目で訴えるとちょっぷをくらった。(痛い) 「ほら、心、あるじゃない」 「はい?」 「ボーカロイドだって好き嫌いがあるんだからそれは心があるって意味でしょう」 「…ちくたく言わないのに?」 やっぱりどっかで変な影響うけてたの、という訝し気な声が返ってくる。 心っていうのはそんなわかりやすいもんじゃないのよ、頭で考えないで感じるものなのよバカイト 青い髪を赤いマニキュアで彩られた手でくしゃりと掻き回し笑った。 にこりと笑う彼女をみながらそういえばと思う。 そういえば彼女は昔心がないからダメだといわれてたんだっけ、 ボーカロイドだからって、 ボーカロイドには心がないからと(いまじゃそんなこといわれたりしない、けど)(でもめーちゃんは何度同じことをいわれたんだろう)(さっきの答えにたどり着くまで何度、) 涙がぼだぼだとまた流れてきた。 な、こんどは何、と慌てているのがおかしくて泣きながら、笑う。 めーちゃんごめんね、ありがとうといってアイスを差し出す。 少ししてから気持ちだけで十分だからあんたが食べなさいと軽く額をぺしっと叩かれた。 『楽しくてすばらしいよ!感じられるって最高だね!』 先程と同じように楽しそうにはしゃいで笑ったかかしの声がした。 かかしが笑った |