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甘い記憶、今遠く サータの語りと誰か




一番最初にこの家を出ていったのは子供だと思っていた光を司る弟だった。
泣き虫で、甘えたで、いつまでも守るべき存在だと思っていたぶん驚きが強かったのを覚えている。聞くとどうやら月にいるたくさんの子供達の先生になりたいらしい。聞いた時、なるほど、と思った。昔から弟は、いいお兄さんになりたいだとかいっていたからだ。
だから、いってきますと笑ってこの家を出ていった。(知らない場所に一人行くと必ず泣いていたのに)


二番目にいなくなったのは一つ下の弟だ。
これまた驚いた。だってあの真面目で冒険をいつも反対していた本の虫である弟が冒険しにいきたいといってきたのだから。
よく聞くとむかーしから計画していたらしい。
その計画の緻密さに、らしいと納得してしまった。
そして一つ下の知識溢れる弟は少し不安そうにしながらいってきますと旅だったのだ。(いつも皆と冒険へでるときは一度家を振り向く癖があったくせに振り向かずに、)


三番目にいなくなったのは水を司る妹だった。水が固まり永遠に残っている雪の世界を見てみたいの、らしい。昔からずっと憧れていた彼が雪の国からきたからか、それとも水を司る性質からか…はたまたその両方か。
なるほどなぁと思ってしまった。そしていってきますと憧れを映した姿でこの家からいなくなった。(いつも通りに一度にこりと振り返り、そしてすぐに前を向いて、)


四番目にここを去っていったのは火を司る弟だった。
本格的に陶芸をして、皆を喜ばせたい、らしい。昔からうまかったからなーと、思う。
ぼんやりマイペースな弟だけどよくよく考えて皆が喜ぶのが好きだった弟らしい話だ。
ここから一人、前を向いて、いってきますと旅だった。(迷子になりやすいのに、家を振り返りもせずにただ、前にと)


五番目にいなくなったのは草木を司るもうひとりの妹だ。
草や木を守る仕事をしたいのだと申し訳なさそうにいっていた。とても思慮深い妹らしい。ごめんなさい、と俯きそれでもどうしてもと決心していた。
そして、彼女も皆と同じようにいってきますと出ていったのだ。(いつも思い切りがよく要領もいいはずなのに何度も何度も振り返って泣きそうな表情をして、)


そしてこの家に三人しかいなくなった。
少し、寂しいねとマシェルはいった。複雑そうに上の兄はそれを見ている。そしてマシェルは一度ぼんやりとしながらねぇ、と笑った。二人とももしどこか行きたいところとかあるなら僕に遠慮しなくていいんだよ?
そういいながら兄の頭を撫でる。苦い顔をした兄に何故だろうかと思っていたが、それはすぐにおきた。

次の日、兄が一族の所に行きたいと言い出したからだ。
マシェルは笑う。いわく、やっといってくれたね、らしい。
ぼそりと行くならマシェルを連れていきたかったが、空気がなくては人は死んでしまうから、と普段表情があまり動かない兄にしてはめずらしく本当に残念そうにつぶやいていて、馬鹿だなぁと笑った。そしてよく朝には、行ってしまった。

二人になっちゃったねサータ、マシェルはいつも通りに笑う。
寂しいなぁ…でも、嬉しいなぁ皆成長したってことだもんね。ぽむぽむと大分大きくなったサータの頭を撫でた。





「そしてその子も、旅だっていったんですか?」

にこやかに笑う男性に先程から昔話をしていた青年は微笑する。

「えぇ、その子供は風の性質を色濃くもった子供だったから。本来なら真っ先にいなくなっちゃうと思われてたみたいなんですよキョウダイ達に。」

「…優しい子、だったんですね」

え、と驚いた顔をした青年に違うのかと首を傾げた。青年は少し泣きそうな顔をしてからいいえ、と笑った。

「…きっと、本当は誰よりも知っていたからなん、です、その子は。知っていたのに、もし、自分達がいなくなってしまったらその帰る場所がなくなってしまうと。
それでもたかをくくってそんな訳無いとでていった―――そして、何年かしてやっと帰った時誰もそこにはいなかった。自由は、帰る家があって初めて出来るもので、…それを本能的に感じとっていた、のに。それでも外に行って、…目的もなく」

マシェルは寂しがりやだと知っていたのに、無意味に一人にしてしまった。
優しいわけじゃない、んです。ただ、そう。自分本意だっただけ、だ。

軽い誰かの昔話のつもりが予想以上に感情を響かせてしまい、そのこの事ですけどと曖昧に笑う。いいや、と男性はそれを見て優しく笑った。


「やっぱり優しいこだね、その子は。そのマシェルという人も嬉しいだろうなぁ。……だって、その人の所へと帰ってきたい、と思ったんでしょう?僕だったら嬉しいもの」


にこりと優しく笑いながら、優しいこだ、と青年の頭を撫でる。
あはは、そうなら嬉しいなぁ。
瞳を閉じながらそういう。
そうに決まってるよとその優しげな男性は笑う。


「僕と同じ名前だからかな、『マシェルさん』も絶対そういうと思いますよ。」











甘い記憶は今遠く


ありがとうマシェル、と呟いた声は風に飛散させた。














サータと記憶を無くしたマシェル


あきゅろす。
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