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水の中は息やすい




ごぽり、という音が聞こえた。水より軽い二酸化炭素が空気の中へ混ざろうとしている音だ。
健気にも仲間の元にいこうとしている音だとルークは思う。
いや、帰る、といったほうがいいのかもしれない。
その二酸化炭素はルークが空気の中から吸って連れてきたものなのだから。
帰ろうとしているその先を見ようとルークは目を開けた。
世界が滲んでよく見えない。けれど、だからこそ、かもしれないけれど、向こうにある世界がキラキラとして見えた。
光のためなんだろうと思う。
水の中で光が屈折して反射して、綺麗に見えるのだ。
昔本で見た、人魚の姫は、この景色を見て世界に憧れていたのかもしれないな、なんて思って笑う。
ごぽ、と口からまた二酸化炭素が漏れる。
なんだかその泡が、この綺麗な世界では異物に感じて手をのばす。もちろん触れもしないことなどわかっていたけれど。

「――何を、しているんですか」

声が聞こえないはずのこの世界で聞こえたその声に疑問に思う前にあぁ、のばした手をとられたのだなぁとわかった。
片手で水中から引き出されている状態に少し笑う。その動作でルークは自分がいわゆる酸欠になっている事に気づいた。
ルークを滴る雫がぽたぽたと彼の衣服を濡らしていく。

「…ジェ、ド」

ぜーはーと空気を心臓に送り込みながらルークはジェイドに視線を合わせる。怒っているのか、それとも呆れているのか、…心配してくれているのかわからない顔をしていた。多分全部だろうけど。

「…自殺願望でもおありですか。それともお風呂で足を滑らしたとか?」

いらいらしているなぁと息をうまく吸えない状態でルークは感じた。なんでもないよ、といいたくて首を振る。
それをどう受け取ったのかジェイドは少し考えるそぶりをみせながら、まぁいいですが、といった。全然よくなさそうだとルークは思う。この大人は、結構嘘つきだ。
本当は優しいくせに冷たくして、気にしてるくせにそんなそぶりをみせないようにしている。


「ともかく…出てください。」

風邪ひきますよと、自分こそ濡れて風邪ひきそうな格好しながらいう。なりふり構わず焦ってくれたのかと思って、冷たくなりきれない大人に少しだけ、笑ってしまった。笑って、水の世界から出ようと思った。
さっきの二酸化炭素は仲間の元へ帰れたのかなと気にしながら。
仲間のいる優しい世界に帰れていたらいい。
心配してくれる嘘つきだけど優しい人が居る場所に帰れたら。
(消えちゃったんですの、)

ぽたりぽたりと雫が落ちる。それを感じて、ルークはまた、衝動的に水の中に入りたいと、思った。






水の中は息やすい

この地上では
涙を隠せないから






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