乱太郎←きり子 大した勘違いだ。きり子はそう思ってため息をついた。 きり子はとても容姿が整った女の子だ。本人はそこまで気にしていないし努力もしていないけれど、そうだった。髪はさらさらで、手入れなどしなくてもあとがつかないほどまっすぐ垂れていた。目元も涼しく、肌は真珠のように決め細かく美しい。 人それぞれ好みがあるので全員が、とはいわないがだいたいの人はきり子を綺麗だと認識していた。 それぐらいにはきり子は綺麗だった。 たいする乱太郎は地味めな少年だ。 特別かっこいいわけでも綺麗めな顔をしているわけでもない。髪の毛がふわふわくせっけであるせいで髪が結えないことを嘆いていて、ちょっぴり不運だけど優しいよねぇというような男の子だ。 面白いほど縁がなさそうな二人だけれどどこをどうやったのかいつものいとつの間に小さなつが入るほど一緒にいた。 まぁ男女の間でここまで一緒にいるとなるとだいたい周りがどう噂するかわかるだろう。 もちろんきり子と乱太郎もそう、周りからいわれていた。 仲良しだねぇらぶらぶだねぇあついねぇならまだいいが、きり子が無駄に整った顔立ちをしているせいで、遊んでいるかのように思われたりも、するのだ。純真な少年の心を弄ぶ、なんて。 それにきり子は怒りを通りこしてため息をついた。 たしかに乱太郎は人一倍優しいし純真だしフェミニストの気があるから一見きり子がいいように扱ってるように思うのもわかる。まぁ…そういう噂をたてられる心あたりがないわけでもないし。…あれはナンパしてきた相手が勝手に奢ってきたわけで、ドケチなきり子的には弄ぶというかなんというか。なんて、誰にしているわけでもない言い訳をいってみる。 「乱太郎、」 「なぁに、きりちゃん」 さらさらと流れる髪の毛をよくもまぁ飽きずに触れるものだと声をだしながら感心する。 乱太郎は彼の髪の毛同様のふわふわした優しい笑みを浮かべながらそれに答え、ため息をついた。 「ほんとうにきりちゃんの髪の毛は憧れるな。すっごくさらさらでまっすぐで。」 はぁと嘆願の息をつく姿にきり子は先日華に例えられた顏を笑みの形にした。 「やれたらやるんだけど」 ただだし〜というと、どうせバイト手伝わせるんでしょう?と乱太郎は苦笑した。まぁそうだけど。 「それにきりちゃんの髪の毛だから綺麗だと思うのだろうし。」 ほんとに残念だけどね、という乱太郎に赤くなっているだろう顔を俯かせる。もともと背中を預けているのだから顔など見えないだろうが無意味に、する。そのせいで照れたのだとばれてしまうというのに。 案の定、それがばれたのか後ろにいる乱太郎がくすくす笑う気配がした。 覚えてろよというと怖いなぁとまるで怖がっていないように笑う。 「きりちゃんはかわいいなぁ」 「まだいうか!」 この様子を、二人の間柄を知らない人間が見ていたらどう思うだろう。 一言多いとよくいわれ、まるで空気よめないようにいわれるが、その実空気がよく読めるきり子はその周りの言葉に叫びたくなる。 お前らは知らないだろう。 本気で好きだといってもにっこり笑って私も好きだよとその相手に返事をもらっても、こんなふうに甘いといえる雰囲気でも!それでも!それでも、付き合えないこの気持ちなんて! 誰に美人だといわれようと、例えその相手に可愛いといわれようと意味がない。その一見甘い言葉はただの親愛なのだから。 近すぎて遠くそれでも甘いその距離に、暴れたい気分になった。 |