喜八郎→滝夜叉丸 これはここだけの話だが、綾部喜八郎は以前滝夜叉丸を殺してみようと思ったことがある。 その日も当たり前みたいに体育委員の集まりがあった日だったと思う。もう夜と呼べる時間であった。いつもならば、同室である滝夜叉丸が地中に潜り込んだ喜八郎を探しだし、やれ風呂に入れだとか、ご飯を食べろだとか口うるさくいう時間。 喜八郎は穴を掘るのを趣味とし、その趣味のためなら朝も夜も関係なく掘りつづけるようなやつであるので、止める者がいなかったその時、まだ穴を掘りつづけていたのは当たり前といえば当たり前かもしれない。 しかしそれでも、今までも滝夜叉丸が委員会で留守にしている日もあった。そういう日は滝夜叉丸が世話をやかずとも見かけた上級生や先生方、委員会の後輩達が喜八郎を止めていた。 なので、大体なんとかなっていたのだが、その日はタイミングというものが悪かったらしく、誰も喜八郎を止めるものがいなかった。 喜八郎自身は、止める気もない。なので今だにざっくざっくと穴を掘っていた。 明るいうちからずっと掘り続けているので目もなれている。穴を掘ることにとって問題はなにもなかった。 ざっくざっくと掘っては満足し、次の穴を掘り、を繰り返す。 繰り返しているうちに、何か落ちているものがいることに気づいた。 なんだろうかと覗き込むと、普段ならばありえないほど泥だらけになった滝夜叉丸がいた。 おそらく体育委員会のあとなのだろう。綺麗好きで自尊心が高い滝夜叉丸が泥だらけなんて体育委員会でしか有り得ない。 そこまで思ってゆっくりと盛っていた土をもう一度元に戻す。 ぱらぱらと戻すと下にいた滝夜叉丸がさらに泥だらけになった。 それでも疲れきっているのか滝夜叉丸は一言も文句をいわない。いつもはもっとうるさいぐらいだというのに。それに調子にのってぱらぱらと土をかける。 このまま土を戻していけば滝夜叉丸は埋まってしまうだろう。普段ならばともかく、ぐったりしている今の滝夜叉丸が自力で出てくるのは無理だ。 死んでしまうかもしれないとおもいながら土を戻す。これで滝夜叉丸が死ぬならば私が殺したことになるだろう。 おぉ、それはいい、と綾部は思う。 このまま滝夜叉丸を殺すならば、今後体育委員会などにもいかずにすむし、元々汚しておけば滝夜叉丸だって汚れて残念な気持ちにもならないだろう。 そう思い、ぱらぱらと土をかけた。これが、わくわく、という気持ちなのやもしれぬ。などとぼんやり思った。 普段ならばわざわざ愛情もって掘った穴を埋める作業など進んではしない。 だが、今回は。 この穴は確かに喜八郎が愛情こめてほった穴である。だが、この中に滝夜叉丸がいるのなら、それもいい。せっかく滝夜叉丸が落ちてくれたのだし、記念にうめておこう。 そのままゆっくり丁寧に土を返す。滝夜叉丸は綺麗好きだから丁寧に丁寧に土をかえさなければ。 「喜八郎、」 その声にぴたりと土を戻す作業を中断する。なんだと土の中をみると、心底疲れたというような声で滝夜叉丸は喜八郎をもう一度読んだ。 「喜八郎、風呂にいくぞ。」 動けないので手をかせという。殺そうと思っていたけれど、。 困ったように、周りを見渡して、どうしようか、と小さく呟いた。考えることではなかろう、風呂に入り綺麗にしてから一緒におばちゃんに晩御飯を作っていただくのだから。 そういうのに、喜八郎はこくりと頷いた。 |