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クーラー嫌いな彼



「……暑い」ぽつりと呟い
た言葉は、無駄に広い応接
室にむなしく響いた。  
むなしく、というのはこの
部屋の主である彼がぴくり
とも反応しないからという
からというのもあるのだけ
れど、そうなったのは何回
も暑い暑いと同じ言葉を呟
く私のせいでもある。もう
この部屋に来て何時間くら
いが経ったかはわからない
けど、とりあえず数十回は
呟いた気がする。でも、せ
っかくクーラーが設置され
ているのにもかかわらず、
それをつけずに窓から生温
い風を取り込むだけの恭弥
もいけないと思う。   
彼がクーラーを付けない理
由というのはしごく簡単で
、ただ単に嫌いなのだ、ク
ーラーが。そんな人間がい
るだなんて、暑がりの私に
はさっぱり理解できないの
だけれど、彼は作られたよ
うなクーラーの涼しさが嫌
いなのだという。扇風機は
大丈夫なくせに…、と文句
を言う私に、あれは空気を
冷やしてるんじゃなくて掻
き混ぜてるんだよ、だから
いいの。なんて、私には屁
理屈にしか聞こえないよう
な事を言った彼は、汗ひと
つかかずに涼しい顔をして
書類整理をしている。  
こんな暑いところで黙々と
作業を続ける恭弥は本当に
凄いと思う。虚弱体質のわ
りには暑さにも寒さにもす
ごく強い。強いというより
も、無頓着なだけな気がす
るけど、そんな事は今はど
うでもいい。      
とにかく、そんな彼を見て
いると、だらしなくワイシ
ャツの胸元をはだけて、う
ちわ代わりの下敷きで顔を
パタパタと扇いでいる自分
が少し情けなく思ってしま
う。けどまあ仕方がないだ
ろう、だって暑いんだもの
。本日何回めかのこの言い
訳を頭の中で呟きながら、
「あ…っつい…」…ああ、
また言ってしまった。こう
も何回も繰り返していると
、言おうと意図していなく
ても無意識に言葉が口をつ
いて出る。何度呟いたって
部屋の温度が下がるわけで
は無いのだから黙っていれ
ばいいのだけれど、もとも
とおしゃべりな私はこの部
屋の沈黙に耐えられないし
、何より本当に暑いのだ。
この応接室は日当たりは鬱
陶しい程に良好で、そのく
せ風なんて全然入ってこな
い。うだるようなこの暑さ
は普通の人間には耐えられ
ない。         
さりげなく自分の彼氏を人
外扱いしてしまったが、似
たようなものだろうし別に
構わないと思う。    
こんな暑い部屋でクーラー
もつけずに彼女を放置して
仕事を続けているのだから
、多少の文句には目を瞑っ
てほしい。そんな事を考え
ながらジト目で彼を見遣る
と、視線に気がついたのか
、ため息をひとつついてか
ら彼は立ち上がった。  
「…仕方ないね、そんなに
暑いんだったらアイスでも
食べに行く?」やれやれ、
と苦笑を浮かべた彼は、自
分と私の分の鞄を持ってす
たすたと部屋のドアまで歩
いて行ってしまう。   
突然のお誘いに呆気に取ら
れてしまった私も、ドアの
前に立った恭弥に行かない
の?と尋ねられてからはた
と気がついて、即座に立ち
上がって彼の元へ駆け寄る
と、満面の笑みを浮かべて
ねだった。       
「アイスはトリプルがいい
です!」        
上機嫌で階段を降りていく
私の背中を見た恭弥が、た
め息をつくのを無視した事
は、秘密にしておこう。 


  












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(10.0709)

最近はめっきり暑くなって来
ましたね…、早速夏バテに苦
しんでいる管理人です!←  

無視しているように見えても
、実はちゃんと彼女のことを
見ている雲雀さんが書きたか
ったので、ぐだぐだになりな
がらも(笑)書けて満足してい
ます!           
ありがとうございました!  


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