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「そうだ、匣!わ、私なんで匣なんかに…!!」
「オレが知るはずねーだろ」
「だけど…!」
「今はそんなことより、どうやったら今後ツナに殺されねーか考えておけ」
「え"」
彼女の手を引き剥がしながらリボーンが顎でツナを示すと 先程から藍楽が感じていた冷たい空気が更に急冷されていくように思えた。口角を緩く上げているがその瞳は全く笑っておらず 本日2回目の走馬灯が頭を過ぎる。何で自分がこんな憂い目に遭わなければならないのだろうと諦め半分の心で呟き 藍楽はリボーンの後ろへ隠れたのだった。けれど非情にもリボーンは嫌がる彼女を不気味な微笑みを浮かべるツナへ押しやった。
「じゃあオレは新しいタイプの匣のことを皆に話してくるからな」
「ああ、宜しく」
「う、裏切り者め…!」
ツナはリボーンから渡された藍楽をしっかりと掴むと窓から飛び降りた黒スーツの家庭教師へヒラヒラと手を振った。そして上から目線で見下ろすと彼女の手の平へ空の匣を握らせた。
「お前って匣に戻んなくても良いんだな。便利なやつ」
「そうなの?」
「お前な……随分前に炎は切れてるだろ」
気が付かないとはな、と皮肉めいた笑みを浮かべるツナにタジタジな藍楽。馬鹿にされても彼の言うことは正論であり反論の言葉が見当たらないのだ。どちらにしろ匣に戻らないのならば彼女は普通の人間で(少なくとも外見は)、その上ツナの持ち物となるのならば彼の近くに住む必要があることは明らかだった。そのためツナは空き部屋へ案内すべく颯爽と身を翻した。
「部屋」と一言だけ言われた藍楽は一瞬理解に苦しんだが 直ぐさま納得して彼の後ろを付いて行く。横目で通り過ぎる景色を観察すれば大理石と思われる床に燭台の付いた廊下、シャンデリアに窓から見える広い庭など、映画でしか見たことのない建物に目を丸くし 外観はどうなっているのだろうと彼女は純粋に感動していた。そのまま二人無言で長い廊下を突き進めば突き当たりに扉が見え 彼はその部屋の前で歩みを止めた。
「ここの部屋空いてるから、自由に使えば良い」
「…ありがとう」
「……何か言いたそうだけど?」
「沢山あるんだけど、逆にあり過ぎてどれから言って良いか分かんないの」
「やっぱりお前阿呆だな」
「あ、あなた本当失礼だよね!」
「じゃ、後で人を寄越すから」
「(スルーか、そこスルーなのか!)」
爽やかな笑顔とともに毒舌を放ち 先程の廊下を戻って行くツナの背中を複雑な表情で見送る。異世界に来たと分かった時点でもっと波乱があるような気がしていたがそれは気のせいだったのだろうかと首を傾げた。なにはともあれ無事にことが済み ほっと一息付いて与えられた部屋へ入る。けれど現実はそう甘くない――そう彼女が思い知るのはほんの少し後。
(何もかもが唐突で、)
匣01.了
02に続く
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