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「……これはあれ?異世界トリップとか言うやつ?」
「異世界トリップ?」
今日の夕方オタクな友人が話してくれた話をふと思い出し思わず言葉を漏らした。しかしツナはそれ聞き逃すことなく拾いすかさず聞き返したが 彼女は慌てて口を塞ぎ 自分がこの世界やツナ達について知っていることを言うべきか言わないべきか真剣に悩んでいた。すると不意に背中から割り込んでくる別の男の声。
「へぇ、お前異世界から来たのか?」
「え?」
「…!リボーン!勝手に入って来るなって言ってあるだろ」
「ダメツナのくせにオレに指図すんな」
その言葉と共に鳴り響く銃声、驚いた藍楽が振り向いた先にいたのは黒い帽子に黒いスーツ、そして黄色いペンダントのような物を首から下げたこれまた綺麗な顔をした人間だった。窓に腰掛けて藍楽を眺めていたが歩み寄ってジロジロ視線を投げ掛ける黒人間。もみあげがクルンとしていて可愛いが彼が向けてくる視線は腹黒ボスよりも鋭く 藍楽はついツナへすり寄ってしまう程だった。黒スーツは自分の顎へ手をやり 舐めるように彼女を見つめる。
「……まぁ……ヴェラよりは胸はあるか…」
「な"!?」
一体何を見ていると思いきや彼女の品定めを始める男に乙女の鉄拳を再び食らわせる藍楽。思わず繰り出した拳は意外にも威力があったらしく片手で防御した彼は顔をしかめた。それから藍楽は涙目で身体を縮こまらせ自分を守るように両腕を身体に巻き付け なんでも良い、早く家に帰りたい、と叶わぬ願いを心で唱える。記憶が正しければ「冗談で言ったのに手の早いやつだ」と文句を言いつつ片手で銃を軽やかに回す黒スーツの男、赤ん坊のリボーンであろう(現にツナもそう呼んでいた)。
「で、藍楽って言ったか?お前本当に異世界から来たのか?」
「……そうかもしれないし…そうじゃないかもしれない…」
「ハッキリしやがれ」
「い、イエス!」
やはりリボーンは優しいのか優しくないのか分からない人間である。藍楽は拳銃と言う名の脅しに負けて正直に言ってしまったもののいきなり「異世界から来た」なんて言って信じてくれる人間がいるとはどうしても思えず 射抜くように見つめてくるリボーンの視線から逃れようと俯いた。しかしコツコツと足音が彼女へ近付き咄嗟に身を固くすると 彼の大きな手がポンと藍楽の頭へ乗せられた。
「オレはお前の話信じるぞ」
「え…」
「おい、待てよリボーン。嘘かもしれないだろ…」
リボーンは抗議の声を上げるツナを片手で静止し グリッと無理矢理彼女の顔をツナへ向ける。そうして「お前の超直感は嘘だと言ってるのか?」と問うとツナは黙り込んでしまった。少しの間、二人は藍楽には分からないアイコンタクトを取り冷戦を繰り広げていたが 軍配は自信に満ちた元家庭教師に上がった。どうやら昔より随分腹黒くなったと言え相変わらずこのリボーンには敵わないようだ。顔の真ん中へ掛かっている長い前髪を掻き揚げ盛大に舌打ちをするツナ。不満たらたらではあるがリボーンの説得のお陰で納得してくれたようだった。
「はぁ…分かったよ…リボーンがそこまで言うなら信じてやるさ」
「おぉ…!」
「でも、お前がオレの匣だってことには変わりはないからな。覚悟しておけよ」
ツナは最後の悪役のような台詞を本日一番の笑顔で言ってのけ 朝日に蝶の匣をかざした。藍楽が出てきたと思しき匣の表面はアメジストのように透明感があり 飾り棚に飾っておけばちょっとしたインテリアになりそうである。だが藍楽は今の発言で一番重大なことに思い当たり 隣りにいたリボーンの袖を掴んで訴え始めた。
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