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「…ってー…」


思わぬ彼女のスピードに 油断していた彼はその打撃を受けてよろめいた。壁に手を付きお腹を押さえる彼を真っ赤な顔で睨み付けると 彼もまた痛みに歪んだ黒い笑顔で応戦。先程彼の笑みが不自然に感じたのはこの腹黒さが醸し出されていたからだったのだろう、藍楽も負けじと見返した。

すると彼はおもむろに壁から手を離し 彼女を見るや否や目にも止まらぬスピードで藍楽を床に押し倒した。


「あ"う"…!」


藍楽は強く背を打ち付け悲鳴を上げるも 相手は全く気にする様子はなく彼女の肩を更に床へと押し付ける。藍楽の身体がミシリと音を立て あまりの痛みに顔を歪めると 橙色は絶対零度の笑みで彼女には理解出来ないことを話し始めた。


「どうやらこの匣は研究所できちんとした躾をされて来なかったみたいだな」

「ごほっ!…い…痛……」

「ま、ヒューマン型が希少価値なのは変わらないし…どんな能力あるか知らないけどオレが使ってやる。ありがたく思えよ」

「能力…?」


藍楽は彼の発言が理解出来ず 痛みに呻きながら疑問符を浮かべた。匣と言う単語は今日何処かで聞いたような気がしたがどうも思い出せない。そして ノロノロ考えているうちにも彼女を押さえている力は強まっていき 段々鈍る思考。そんな彼女に対し 相手もまた不思議そうな顔をして眉を顰めた。


「…匣兵器のくせにまさか能力なしとか言わないよな」

「いや…だ、だから…匣兵器って?」


離してと目で訴えながら疑問を素直に述べると 彼はこの発言に目を丸くして今度こそ彼女を離してやった。ポケットから先程の小箱を取り出して藍楽とそれを見比べる彼。藍楽は不安そうに床に座り込み 痛む肩を擦っていたが、見知らぬ場所で見知らぬ人間に乱暴に扱われたことに些か苛立ち、立ち上がって扉に手を掛けた。しかしすかさず彼女の手の上に添えられる手。


「オレの許可無しに部屋から出て良いと思ってるわけ?」

「私…帰るんです。だからその手避けて」

「帰るって…匣に?」

「い・え・に・で・す!英語で言うとマイホーム!もー…さっきからなんなのあなた!私が匣兵器だとか全然意味分かんないし…しかも、む、む胸を…!!」

「ん?…ああ、赤ちゃん体型の割りには大きい方だった」

「そ、そんなことは訊いてないの!」

「――まぁそれは良いとして…匣から出てきたお前に家なんてあるとは思えないけど?」


蝶のレリーフの匣を見せ 中身の入っていないことを見せつける。先程から人間性を疑われるような行動をしていた彼だったが藍楽には嘘を付いているようには見えず思わず固まってしまった。「どういうこと…?」とうわ言のように呟く彼女を鼻で笑う。


「匣兵器だからだろ?ヒューマン型ってアニマル型より賢さ劣るんだな」

「(何このムカつく男!)

…まず…お互いの自己紹介と匣の説明しません?」


このままではお互い話が噛み合わないまま堂々巡りになることは目に見えて明らかだった。そこで思いっ切り馬鹿にした表情を浮かべた彼を殴りたい衝動にかられながらもなんとか耐え 藍楽は至極最もなことを述べた。人に名前を聞く時は自分から、とよく言うので彼女は軽く名前を名乗る。すると彼は面倒臭そうに溜め息を付いて自分の名前と匣の説明を始めた。

彼が語った内容はこうだった――彼の名前は沢田綱吉、巨大マフィアのボス。そして匣とはリングのエネルギーを使った兵器のこと。そこまで彼が説明しおえると 聞き覚えのある単語のオンパレードに藍楽は放心してしまった。そう、彼女は気付きはじめてきたのだ。自分が今日語っていた例の漫画世界に来てしまっているのではないかと。

しかし何故自分が匣から出てきたのか分からないし、しかも主人公である目の前の人間は漫画と随分性格が違うようで 腹黒さが漂っている。その証拠に今もまた彼は「この説明で分からなかったら焼くぞ」と笑顔で言ってのけていた。




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