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運ばれてきたパフェでようやく現実へ戻ってきた友人と藍楽。日常、黒曜、リングに未来などの話を話し終わればいつの間にかパフェも空になっており 彼女達は仲良く喫茶店を出た。月曜日の宿題一緒にやろうかなんて影を並べて家に向かい 二人で過ごす楽しい日曜日の計画に明るい笑い声を響かせる。そうしている間にも藍楽の頭上へ暗雲が迫り来ているとは知らず 彼女は友人の自宅前で 最後となる別れを告げた。


「遅くなっちゃったなー」


物騒な世の中になりつつある最近だが、誰々が襲われたなどと言うニュースはこの辺りでは聞かない。だがやはり女の子一人で夜道を歩くのには不安があり、藍楽は早く帰ろうと足を早めた。自分に限ってそんなことはあるまい、そう思っていても段々と募る不安。不意に 暗雲が彼女の頭上にまで辿り着き、大きな手が後ろから藍楽の口を塞いだ。


「!!」


両手に持っていた漫画の紙袋が驚いた拍子に音を立てて落ちる。藍楽はそのまま強い力で路地裏へ引き込まれ 喉元に鋭い刃物を当てられた。暗雲の正体は若い男、それも何処かのヤクザのような人間だった。男は「騒ぐな」と囁くが、そんなことを言わずとも藍楽は恐怖で全身硬直しており要らぬ心配。


「あぁ?騒ぐんじゃねぇよ…お前が大人しく俺の言うことを聞けば俺はお前に何もしねぇんだ…分かったか?…よし……俺を、匿え」


この場で恐ろしいことをされるのだろうと思っていた藍楽は男の予想外の発言に目を見開いた。よく見れば相手は顔中痣だらけで 誰かに追われているような風体をしている。犯罪を犯し警察に追われているのだろうか、はたまた仲間内で何か揉め事でもあったのだろうか、どちらにしろ家に匿えという要求は藍楽が快く受け入れられるものではなかった。

しかし要求を断れば殺されることは目に見えており 彼女は小刻みに震える身体を押さえて頷いた。納得したのか藍楽から身体を離す男。


「……案内しろ」

「は…い…」


落ちた荷物を拾い 背中に刃物をあてがわれたまま暗い道を二人で歩く。さっきと違うところと言えば友人が恐ろしい男に変わったことだったが 藍楽は約束通り騒ぐことをせず静かに歩みを進めていった。色のある世界を望んでいたがこんな血の色の世界は遠慮したい――普段より冴えている脳で辺りを観察し自分でも驚く程冷静な心でそう考える。しかし囚われの身となっていた藍楽に一瞬だけ転機が訪れた。それは随分歩いてようやく我が家に辿り着いた時、あと数歩で自宅と言う時だった。


――ブルルル!


明らかにスピード違反の車が狭い道路に押し入り ヤクザらしき男がそれを避けるために一瞬バランスを崩したのだ。囚われの状況には似合わぬ程冷静だった彼女は チャンスとばかりに彼を振り切って走り出した。男が振り回した刃物が顔を掠り 焼けるような痛みが駆け巡るも 無我夢中の藍楽はそれを無視して玄関のノブに手を掛けた。

だが不幸なこととは重なるものなのだろうか。普段なら藍楽が帰る時間には開けられている玄関にはしっかりと鍵が掛かっており 前には扉、後ろにはヤクザ、と絶対絶命の状況に陥ってしまった。


――終わった…!


一気に脱力した彼女には最早叫ぶ力すら残っておらず 脳から心臓から絶望の氷が膜を張っていくような感覚を覚えた。




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