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現在彼女が乗っているこの車は 水素と酸素を使った次世代の燃料電池が基本的動力である。巷の業界で 燃料電池開発の競争が激しさを増すのに比例して エネルギー開発は飛躍的に進化、今ではクリーンかつ効果的なエネルギーとして世界単位で燃料電池へ移行してきた。

それは『革命』とさえ呼ばれるほど有用なエネルギー転換。それが実用に至った時全世界の人間は狂喜したものだが――しかし、リングを使ったエネルギー効率、それ一つから供給されるエネルギー量などは 燃料電池などと比べ物にならない程優れていた。

だが長所があれば短所もあるもの。リングの力は使用者によって発揮する力が異なり、リングと関わった長い歴史を持つマフィア達さえ ごくごく少数しかまともに扱えない。そのため、リングが一般の人々に普及することはなく 匣兵器もまた闇の人間達のみが使用していたのだった。


それが幸か不幸かは恐らく意見が分かれる点であるだろうが、少なくとも鎌人間のボスは『幸』と判断していた。そう、普通の人間には持たせるべきではない、と。匣は強力な兵器であるがゆえに 少し使い方を間違えれば世界中で戦争が起き兼ねないからである。考え方だけは立派で どこをどう見ても腹黒なボスを慕う人間を、鎌人間は理解出来ないと首を振った。


「(昔は純粋だったらしいが…どうだかな)」


自動車のモーターが静かに回る音を聞きながら、人気のない道路をのろのろと進んでいく。可能な限りボスと会うまでの時間を先延ばしにしようと言う魂胆なのだろう、実に諦めが悪い。そうして2時間で辿り着く道をたっぷり3時間掛けた後 ようやく本部に辿り着けば、既に空は白んでおり 月は姿を隠してしまっていた。

彼女が車から降りるとイタリア随一の大きさを誇る洋館が荘厳に構えている。顔パスで門を通り抜け アタッシュケースを片手に鷹揚な態度でボスの部屋へ向かった。


「ヴェルヴェット、帰って来るのに何時間掛かってるんだよ」

「3時間…程度だろうか」

「真面目に答えるな」


扉を開けば真っ黒なオーラを放ち にこやかな笑みを浮かべる彼女のボス、沢田綱吉。彼の黒笑みに良い思い出がない鎌人間は 不機嫌そうに眉根を寄せてアタッシュケースを差し出した。


「お前の命令で鼠を追いかけて遠出したんだ、仕方無いだろ」

「遅くなった理由をオレのせいにしないでくれるか?」

「……」


盗まれかけたのは大事な情報だっただけに、ヴェルヴェットもとい鎌人間の失態には相当ご立腹な様子のツナ。しかしヴェルヴェットは 彼のグローブがポケットからはみ出しているのを見て口を屁の字に曲げた。徹夜で運転していたために今にも睡魔に負けてしまいそうで 普段より短気になっていたのだった。


「用事は済んだんだから別に良いだろ。とにかく書類はアタッシュケースの中に入ってる。私はもう寝たいんだ、じゃあな」

「あ、おい、ヴェラ待」


――バタン。


ツナの静止も空しく空虚な音を立てて閉まる扉。ツナは怒りにひくひくと顔を引きつらせ 見た目より遥かに軽いアタッシュケースを 彼女が去った扉に向かって投げ付けた。そうすれば中で跳ね返ってカランコロンと音を立てる見知らぬ匣。ツナは紙が立てる音ではないことに気がつき 中から匣を取り出した。


「(新しい匣か…)」


鼠が持っていた匣ならば、どうせろくでもない中身だろう。そう思うも何か惹かれるものがあるのだ。彼はボスの証であるボンゴレリングに橙色の炎を灯すと ゆっくりと穴へ差し込んだ。何属性かは分からないが彼の大空属性ならば開かない匣はない――雲属性を示す紫色の煙が立ち上ぼり、ツナは中から出てくるものをじっと待ったのであった。






(この匣、何か惹かれるんだ)
匣00.了
01に続く



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