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「……時空を…閉じ込める…?」
何も知らない私を未知の世界は嘲笑う。
語られぬ時間――仄暗い蛍光灯の下、白衣を着たあの人は 人気のないラボをたった一人で徘徊していたのでしょうか。
〈匣的君主論――04.藍染めの影〉
「おや、ここもハズレでしたか…」
骸と藍楽が出会う数時間前。イタリアの地下に彼らはいた。下水道を流れる水流の音がすぐ近くで聞こえる。チカチカと点滅する黄ばんだ蛍光灯が二つ影を作っていた。果物の影が揺れる度に埃が舞う。ここは何年も掃除をされていないようだ。いや、むしろ掃除どころかここ何年も人は住んでいないだろう。辛うじて床に転がっているボールペンと薄汚れた羊皮紙は かつてここに何者かが来たことを示しているが それ以外はネズミの住家と化している。骸より小さな影が前に出た。
「……デマ…だったんですか…?」
「クフフ、そのようですね。しかし…折角来たんですから、少し物色して行きましょう」
ボールペンを遠くへ蹴り飛ばせば 狭い室内を歩き始めた。 隅には失敗作と思われる四角い物体が幾つもピラミッドを形作っている。空なところを見ると 入れ物だけを作って中身を作るのは止めてしまったのだろうか。入れ物の色は緑、紫、橙、黄――それぞれの属性に見合った色を塗られている。クロームは好奇心にかられて一つ手に取り 分厚く積もった埃を払った。『雨属性』と付せんが貼られている。足元にあったミニチュア日本刀が音を立てた。
「刀…」
雨属性で刀と言えば 同じファミリーにいる二人を思い出す。一人はロン毛で騒がしい人間、もう一人は爽やかな笑顔を振りまく野球好き。クロームは、彼らにピッタリな武器だと無表情で思考した。しかし今は関係のないことだ。任務中であるし 何より途中で刀が折れているところを見ると失敗作のようだ。この匣兵器は使い物にならない。彼女はそれをポイっと投げ捨て 部屋の中心へ視線を走らせた。
この時代、幻術のレベルも遥かに高度なものとなっている。ならばまだ何か隠されているのでは――やはり何も見つからない。トトトっと小馬鹿にした足音が響いた。ここに住み着いたネズミだろう。仕方なしに骸へ視線を移すと 先程蹴っとばしたボールペンを思案顔で分解していた。自分も何か探さなくては、と慌てて立ち上がった。もう一度建物の地図を確認する。そこには『重要度最高ランク』の判が捺され クロームや骸が非常に大切な任務に付いていることを示唆していた。
彼女達の任務――それは、今もなお匣兵器を作り続けているケーニッヒの居場所を突き止めること。情報収集力や機敏さに長けた骸はまさに適任だった。彼らは3、4年程ずっとこの任務に付いている。この内容を知る人間はツナとリボーン、ヴェルヴェット、ザンザスだけだ。
「骸様…何をしているんですか?」
「クフフ…クローム、どうやら無駄足ではなかったようですよ。見なさい」
「チョウチョ…?」
「いいえ、フラクタルですよ」
「…ふらくたる……?」
骸が小さな紙をかざすと一羽の蝶が描かれていた。何の変哲もない絵。だが彼は口許に笑みを浮かべるとそれを手渡しもっとよく見るよう促した。誘導されるがまま紙面へ顔を近付けるクローム。すると幾らも経たぬうちに彼女は驚きの声を上げた。
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