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「見慣れない匣だな」


これは、一つの匣とマフィア達の物語。


さぁ匣を手に取って、指輪に炎を灯してごらん。


そうして、開かれた匣から溢れ出す希望に満ちた未来――幸せを運ぶ蝶が未だ見ぬ世界のために飛び回る羽音が聞こえるでしょう?



恐れるな、

立ち上がれ、



今日、平凡少女は平和な世界に手を振った。



《匣的君主論――00.序章》


時刻は深夜2時。深い漆黒が視界を遮り 暗闇を蠢く暗殺者達へ絶好の隠れ蓑を提供している。静まり返った暗い裏路地には下水道管を忙しなく流れる水音だけが響いていたが、不意に闇夜に閃光が走った。路地の真ん中で佇む人間目掛けて一本の矢が飛び出す。が、目を瞑って佇んでいた人間は 不意に緑の炎を纏った巨大な鎌を振るい、放たれた矢は呆気なく弾かれてしまった。

鎌人間が矢の方向から瞬時に相手の場所を突き止めれば 閃光が弧の字を描く。鎌が風を切る音と肉が切れる音が続け様に聞こえ、敵は血飛沫を飛ばし悲鳴を上げる間もなく絶命した。鎌を振るった人間が肉塊と成り果てたそれを見下ろしていると 耳に嵌め込まれた無線から男の声が聞こえて来る。


『ザ…ザザー……聞こ…か…ザザザ…』

「ノイズが酷くて分からん」

『ザザッ…今直…ザーー………直ったか?』

「ああ、ムカつく声がよく聞こえるぜ」

『オレ一応お前のボスなんだけど』


ボスに向かって随分な言い様だな、とボスと名乗った男は 無線越しでもありありと目前に想像出来る真っ黒な笑みを浮かべ 今回の報告を求めた。すると男とも女とも取れる中性的な姿をした人間は 鎌を匣にしまいながら仕事の成功を告げた。

それを聞いて直ぐさま帰還命令を下す無線の相手。自分の上司が酷く苦手だった鎌人間は「会いたくない」と思いつつも 絶大な権力と力を誇るボスに逆らう訳にもいかず、敵のアタッシュケースを奪うと歩き始めた。

随分遠くまで追いかけて来てしまったようだ。鎌人間はそう呟き 自分の車に乗り込んだ。ヴァリアー本部からもボンゴレ本部からも遠い場所におり ボスの元へ辿り着くまでは裕に2時間は掛かるだろう。鎌人間は小言を言われぬよう無線機の電源を切って出発準備万端の状態を整えると 取り返したアタッシュケースを開いた。中には書類の札束と一つの匣。彼または彼女は書類に目を通し 元々感情の起伏が少ない顔へ精一杯嫌そうな表情を浮かべた。


「私を欺こうとは…愚かな鼠め」


彼――否、彼女は忌々しいと言った口調で舌打ちをし 書類を戻した。書類には本来彼女が独立暗殺部隊ヴァリアー本部からボンゴレ本部へ伝える内容が書かれていたのだが、昨夜彼女が留守にしている間に鼠が盗み見たのだった。そして犯人を捕まえてみればなんと鼠はヴァリアーに潜伏していたスパイ、鼠自身が行動を起こすまで 誰一人としてその存在に気が付かなかったと言うのだから 実に恥ずべきことだ。

書類の他にもう一つ、蝶のレリーフの匣が入っていたのを思い出し彼女はそれの外郭を指でなぞった。書類と違ってそれは盗まれたものではない。ならば鼠の持ち物だろうが――どんなものが入っているのだろうか、非常に好奇心をくすぐられた。

彼女はここで開けても良いものか一瞬迷ったのも束の間 すぐに 雷、霧、雨のリングを順々に入れていった。しかし匣が開く兆候は些かも現われない。「属性が違うのか」と鎌人間は開匣を諦め、あまり気になるようだったら大空属性の上司に開けてもらおう、と車にエンジンを掛けた。


匣――それは人智を超えたエネルギーを元に力を振るう兵器。とある大昔の科学者が発明したのがきっかけだったが、当時はそれにピッタリなエネルギーが見つからなかった。それゆえ世間からは全く相手にされず山の様な研究の中に埋もれていった。しかし数年前、科学者達は 開匣にはリングに灯した死ぬ気のエネルギーが適していることを発見し 今では高度科学兵器として闇組織に出回っているのだった。



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あきゅろす。
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