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「第一、何でリボーンはあんな法螺話信じたんだよ。意味が分からない」


いつもは何でも疑ってかかるくせに あのヒューマン型の場合は「信じるぞ」のたった一言。確信めいた言葉に呆気に取られたが 昔家庭教師をされていた頃の名残であろうか、あの瞳には逆らえない。絶対に譲らない態度にこちらが折れるしかなく 彼は元家庭教師に対して不平不満が溜まっていた。せめてもの仕返しに 「実は嘘でした」とあの女に口を割らせてやる、と考えを巡らせる。


ふわり。何処からか迷い込んできた蝶々が仕事を邪魔するが如く書類の上で羽休めを始めた。この辺りではあまり見掛けぬ珍しい蝶々は突然やってきたあの少女を連想させ ふぅっと息を吹き掛けて追い払う。すると飛び立った蝶々は 出口である窓がすぐそこにあるにも関わらず 脱出出来ずにいた。ツナはしばしその光景を眺め やがて諦めたように指に彼女を止まらせる。そうして 広大な大空へ柔らかな手付きで解き放ったのであった。







ところ変わって此所は藍楽の自室。骸に切り付けられた箇所を再び雨コテで鎮静して貰えば ヴェルヴェットは少し用事があるからとその場を立ち去った。少女は 長い赤髪を揺らして闊歩していく美しい人へ感謝の念を送りながら 自室へ繋がる扉へ手を掛ける。リボーンが全て整えておいてくれる、と宣言してはいたものの やはり気になる室内。恐る恐るドアノブを捻ればまるで歓迎するが如く蝶番はスムーズに動き そっと中を伺い見た藍楽はその変わり様に言葉を失ってしまった。


「おお…!」


ツナやリボーンの部屋に比べれば質素だが最初のがらんどうな室内とは比較にもならない。ベッドにクローゼット、椅子に絨毯など必要なものは一揃い整っていた。曲がりなりにも女の子である藍楽に気を遣ったのか ベッド脇に洒落た鏡台までもが配置してある。これなら充分暮らしていけるよ!と喜びに浸り こちらに来てから至極良くしてくれるリボーンへ深く感謝をした。メイキングをしたばかりかと思われるベッドへ 恒例のダイビングをしてみる藍楽。


「ふかふかのベッドー!」


きゃー!とはしゃぐ姿は 普通の女子高生となんら変わりはない。安心したせいかどうせなら天蓋付きが良かったな、などと貧乏人特有の贅沢思考が脳内で生み出されるが 居候なのだからと考えを改めた。布団から香る太陽の匂いが心地良く自然と瞼が落ちて来る。しかし彼女を襲う眠気は当然の摂理であった。何故なら彼女がトリップする以前、あちらの世界では既に夕闇が空を染め上げていた。ならばそろそろ寝る時間である。薄く開かれた窓より舞込む爽やかな風に見守られる中 藍楽が安らかな眠りに対向することは限り無く不可能に近かった。


――冷たい。


どれほどの間寝ていたのだろう、しばらくして少女は頬に何か冷たいものを感じて深い眠りから覚醒した。未だ混濁した意識のまま細く瞼を開けば 視界の隅で捕らえた太陽はまだ高い位置におり それほど時間が経過していないことを教えている。そのままぼんやりと窓の外を眺めていると 不意に何者かがベッド脇から彼女を覗き込んでいることに気が付き 小さな心臓がピョコンと跳ねた。澄んだ切れ長の瞳は微動だにせず目前に居座り 彼女は一気に覚醒、何故自分意外の人間がこの部屋にいるのかと疑問に思う。


「…な…あ、貴方誰ですか…?!」

「そう言う君こそ、何者だい?」

「はぁ?!」


何言ってんだこの人。まるで宇宙人でも見るかのような驚愕した表情で上半身を起こし 出来るだけ彼から離れようとベッドの上を移動した。だが彼女が逃げ切るよりも早く彼の手が足首を鷲掴みにし 稚拙な逃亡劇は失敗に終わる。すると骸に切り付けられた時のような恐怖が再び彼女を襲い 藍楽は無我夢中で暴れ始めた。





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あきゅろす。
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