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「おや、やはり近くで見たほうが可愛らしい」
「え?」
「どうです、今日は僕と熱い一夜を過ごしま」
「邪魔だ、骸」
「痛たたた!」
挨拶代わりに軽くナンパをする骸は 割り込んで来たヴェルヴェットに耳を引っ張られ敢え無く撃沈。恨めしそうに耳を擦る彼の隣りで目の前の人物が何者か理解出来ていない藍楽が不思議そうに二人を観察するも ヴェルヴェットはそれをもさらりと躱してレジへ向かった。数着の服を紙袋に詰めて貰えば エメラルドグリーンの瞳を骸へ向ける。すると彼はやれやれと首を振り 居ずまいを正した。
「相変わらず冷たいですね、君は」
「普通だ。というかお前任務は終わったのか?」
「あんな簡単な任務ちょちょいのちょい、ですよ。ところで…先程から気になっていたんですが、こちらの玩具は何ですか?」
「…はい?」
玩具呼ばわりされた藍楽は 一体誰のことを言われているか理解出来なかった。けれども二人の視線は明らかに自分へ向けられており「え、玩具って私?」などと呟きながら後退りをした。彼自身普通の人間とは異なる骸――憑依を得意とするせいかは不明だが 人間や匣兵器の纏う雰囲気には敏感なのだ。それ故 彼女が匣兵器であると分かり 敢えて『玩具』と呼んだのであった。ヴェルヴェットは状況を掻い摘まんで説明し始め その間側でじっと話を聞いていた藍楽は 着替えて来い、と追い出されるように更衣室へと姿を消した。
「――つまり、彼女は異世界から来た。そしてそれだけでは飽きたらず、新型の匣でもあった、と言うことなんですか?」
「そうだ。既にお前以外の守護者にもその情報は伝わってるはずだぜ」
「クフフ…そうですか。しかしあのアルコバレーノが信じたなんて意外ですねぇ。彼は真っ先に疑いそうなものですが…」
「…さあな」
曖昧な返答を返すヴェルヴェット。レジ側で香り付けに薫かれている栴檀〈せんだん〉がゆらりと揺らめき 二人の間を横切っていく。骸は指でそれを辿りながら ふと沸き起こった二つ目の疑問を口にした。
「ああ、意外と言えば、君もですよ」
「私が?」
「ええ、君が誰かを気に掛けるなんてそうそう見られた光景じゃありません。クフフ…何か企んでるんじゃないですか?」
「世話役の任務を授かったからだろ。ボスの命を狙うお前とは違うんだよ」
「おやおや、これは手厳しいですね」
表面上にこやかに話しているものの お互い酷く嫌い合っているのが目に見えて分かる会話である。探るように言葉を紡ぐ骸へ ヴェルヴェットは翡翠の瞳で一睨み、すると着替え終わった藍楽が更衣室からひょっこりと姿を現した。薄紫の生地に影絵のような彼岸花が描かれた和風のワンピース、短めの黒い上着には蝶紋様が刻まれている。そうしてアメジストのチョーカーを付ければ 動く度にライト光が反射し さながら蝶が鱗粉を撒きながら舞を踊っているかのようだった。骸はその姿にからかうような表情で頷き軽く口角を上げる。
「そのチョーカー、まるで猫の首輪みたいですね」
「もっとましな喩えはないのかお前は。…藍楽、他にいるものがあるならここで調達していくが、何かあるか?」
「えと…んー何か髪留めでもあれば便利かな。あ、もちろん安いもので」
「クフフ、殊勝ですね。やはり匣は慎ましいのが一番です」
「それは匣じゃなくて女性に言う文句だがな」
「一々うるさいですよ、ヴェラ」
「あのー…その前に、この方どなた…?」
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