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「これはこれは…珍しいですね」



冥暗の先で出会ったのは、紳士の仮面を被ったマフィアのボス。


目まぐるしい変化を遂げる世界――永久なる刹那を刻む羽音が 薄紫の世界へと私を誘〈いざな〉うのでした。



《匣的君主論――03.紫衣の眠り姫》


朝日に照らされたイタリア。藍楽の衣類を調達すべく洋服店に足を踏み入れたヴェルヴェットは緩慢な態度で店内を見回した。イタリアにしては珍しく日本的で和を基調としたインテリア、勿論服のデザインも着物的な模様をあしらってあり 日本人が好みそうな薄色系統も揃えられていた。店内に足を踏み入れると 風鈴が下げられた出入口を物珍しそうに眺める藍楽。ここは和風好きなヴェルヴェットが度々訪れる場所で 服だけでなく様々な雑貨も揃っていた。そのため日本人率が非常に高いボンゴレがスポンサーを買って出 今やイタリアの有名店と化している。


「わー…イタリアなのに着物が売ってる…」


店員にツナ直筆サインを提示した鎌人間は ぽかーんと着物を見つめている少女を女性衣類売り場へと誘導した。途端に彼女の意識はそちらへ逸れ 可愛い洋服達へ釘付けになる。ここは和風店と言ってもやはり作り手はイタリア人であり 純粋な日本的感覚を持った人間が作り出したものとは一風異なっていた。欧米の大胆さと日本の繊細さ、そして原色と淡色が混ざり合った色調の美しさがこの店の売りであるらしい。

自由に選べと告げられた藍楽は 少し気遅れしたような手付きで服を漁り始めた。自由にと言われても タダで貰うとなるとやはり遠慮する気持ちが起きてしまうもの、彼女は本当に気に入ったものだけを買おうと 沢山ある素敵な服の中から厳選すべく唸り始める。


「うーん…この影絵のも可愛いけど…でも、ちょっと地味かな?やっぱりこっちの黒地に紅い彼岸花のが…」

「どっちも似合うと思うがな。なんだったらどっちも買えば良いだろう」

「でも…それじゃ今悩んでる意味がないもん」

「意味?」


一体何の話だと頭上にクエスチョンマークを浮かべるヴェルヴェットへ苦笑いを一つ送ると 相手は まぁ好きにすると良い、と肩を竦めた。すると少女は再び唸り始め 悩みたいだけ悩んだ結果黒地に紅い彼岸花のワンピースを選出したようだった。先程諦めた影絵花柄の服を名残惜しそうに見 棚に戻す。しかしその光景を見ていたヴェルヴェットはそれをサッと手に取り 素早く店員へ渡してしまった。


「遠慮はいらんって言ったばっかりだろ」

「……うん、ありがとう」


冷たいのにちょっとした仕草に優しさが詰め込まれているヴェルヴェット。見知らぬ世界でこんな人と友人になれたのは運が良かったのかなと軽やかな気持ちで身体を左へ回転させた。が、その刹那 ヴェルヴェットと自分以外の客が店内にいるとは知らなかったため 隣りに佇んでいた人間の堅い胸板へ衝突してしまった。いったー、と痛みのせいで生理的に浮かぶ涙を拭けば 目の前には綺麗な顔をした果物頭。彼女が慌てて謝罪を口にすれば色違いのオッドアイが興味津津と言った様子で見下ろす。





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